第八話・虐の怪獣チーム【キリム・キリム】
ホシノフネは、最後の参加チーム。
虐の怪獣チーム【キリム・キリム】がいる。
残酷惑星に着陸した──枯れた赤い樹木と廃墟になった建物がある、禍々しい雰囲気の惑星だった。
残酷惑星に降りたアグラが言った。
「オレ、この寂れた活気が無い星……好きじゃねぇんだよな」
アグラと一緒に星に降りた、モフモフ冷凍獣ニャーラが前髪を少し掻き分けて言った。
「この星にいる虐の怪獣チーム【キリム・キリム】の本当のリーダーって……あの」
「あぁ、数年に渡って無敗チャンピオンの座に君臨し続けている最強の怪獣──黒煙蛇獣『キング・ジャージ』だ……オレの宿命のライバルだ」
「ライバルだと思っているのは、アグラの方だけで……キング・ジャージは、なんとも思っていないと思うぞ」
アグラが、近くに見える湖に向って怒鳴る。
「出てこいやぁ! キング・ジャージ!」
湖がゴボッゴボッと泡立ち、水飛沫を上げて一体の怪獣が姿を現した。
黒色で長い首、頭がひっくり返って顎が上を向いている怪獣が鋭い牙を見せる。
アグラが現れた首長怪獣に向って言った。
「てめぇじゃねえ! オレが呼んだのはキング・ジャージだ……サブリーダーの雑魚は引っ込んでいろ」
雑魚呼ばわりされた、キリム・キリムの現在のリーダー海魔『オルク』が、鰓弓を動かしながらアグラを睨みつける。
「ひゃひゃひゃ……言ってくれるねぇ、大会がはじまる前に、この場で喰ってやろうか……ひゃひゃひゃ」
「喰えるもんなら、喰ってみやがれ!」
海魔オルクの頭が四つに大きく裂ける。
「ひゃひゃひゃ……怪獣の本質は残虐、破壊の本能……それが、虐の怪獣チーム、まどろっこしいバトル大会よりも、弱肉強食の捕食こそが怪獣世界……その怪獣本能を思い出させてやる……おまえを……喰う」
オルクの口から、黒い瘴気のようなモノが漂う。
いち早く異変に気づいて、ネコのような姿勢で飛び下がって、オルクとの距離を空けたのはニャーラだった。
ニャーラが威嚇の唸り声を発する。
「シャーッ、気をつけろアグラ! そいつなんか変だぞ!」
ニャーラが忠告する声を聞いたアグラが、膝をついて倒れたのは同時だった。
(しまった……こいつ、眠りの瘴気を……)
地面に倒れて眠るアグラに、口を四方に開いて近づく海魔オルク。
ニャーラの口から発射された冷凍光線が、アグラがオルクに呑み込まれないように、アグラを氷の塊に閉じ込める。
「ひゃひゃひゃ……ムダなコトを、オレは氷菓も平気だ、食べやすくしてくれて、ありがとうよ」
オルクが、氷漬けのアグラを呑み込もうと頭の先を口に入れた時──地響きがして、黒煙が現れた。
黒煙の中から現れる太い怪獣の足……足以外の部分は、黒煙の中に包まれていて見えない。
ニャーラは、見上げる黒煙から発せられる、凄まじい威圧感を全身に受けて総毛立つ。
黒煙の中から、声が聞こえてきた。
「やめろ……オルク……大会前に出場する怪獣を食べると、チームが出場停止になるぞ……わたしの顔に泥を塗るつもりか」
海魔オルクは、開いていた口を閉じると逆さになった頭で言った。
「キング・ジャージさまの顔に泥を塗るなんて……滅相もない、少しふざけただけですよ」
そう言うと、オルクは湖から出てきて、ホシノフネの客車方向へ向った。
黒煙の中に姿を隠した巨大怪獣の、キング・ジャージがアグラの近くで足を踏み鳴らすと氷が砕け、目覚めたアグラが薄目を開けて黒煙蛇獣を見上げて呟く。
「やっと、出てきやがったな……キング・ジャージ……オレと、この場で戦え……たたか……え」
それだけ言うとアグラは、再び目を閉じて黒煙怪獣は掻き消すように姿を消した。
優勝候補の怪獣チームたちを乗せたホシノフネは、バトル大会予選の人工天体【アウル】へと向った。
創作裏話
虐の怪獣チーム【キリム・キリム】の名称は最初は【ビロコ(ビコロ?)の鈴】で、コンゴの神話か何かから取ったモノでしたが、再検索してみても、元ネタが分からなくなってしまったので。
アフリカの人食い怪物『キリム』の名前を復唱させたネーミングに変えました。