第七話・魔の怪獣チーム【白きアラティル石】
ホシノフネは、不可思議な力に満ちた魔力星に着陸した。
空には灰色の霧雲が流れている。
ホシノフネから外に出た、アグラは振り返った視線の先には人間執事少年の『ナマエハ マダナイ』と六次元超獣のヘキサゴンがいた。
アグラが言った。
「なんだ、一緒に来るのか?」
ヘキサゴンが、フジツボとサンゴのような部分から、奇妙な六次元繊毛を突出させて震わせて言った。
「マダナイが、どうしてもこの星に降り立ちたいと言うのでな……エアルから、マダナイの付き添いを兼ねた、アグラの見張り役で儂も一緒に行く」
「オレの見張り役?」
「おまえさん、エドの町を火の海にしただろう……また、口から変なモノを出さないように監視して吐きそうになったら儂が止める」
「勝手にしろ」
◇◇◇◇◇◇
アグラは、洞窟のような場所にやって来た。
壁に並ぶ松明で照らされた洞窟内を進むと、木製の扉が見えてきて、その前に触手を生やした形容しがたい怪獣が一体──入り口を守るようにうずくまっていた。
アグラが気さくな口調で、邪神のような姿をした使い魔の獣に話しかける。
「よっ、久しぶり……『ゲー・ティア』のヤツは、中にいるかい?」
触手を生やした怪獣は、木製の扉を開ける。
壁に並び続く、松明で照らされる洞窟をさらに奥へと進むと、錬金術の実験室のような広場に到着した。
洞窟の広場には、中央に広げた書物を持った魔導士のような格好をした怪獣がいた。
裾が長いローブを着て、頭からフードをかぶっていて。
顔には丸メガネ型のゴーグルと、17世紀のヨーロッパでペスト医師がしていたような鳥のクチバシマスクをしている。
奇妙な格好をした怪獣が、アグラを見て言った。
「アグラ……足の下、魔法陣の中に呼び出した、魔物の頭を踏んでいる」
「おっと、いけねぇ」
アグラは踏んでいた召喚獣の頭から、足をどける。
頭を踏まれていた魔物は、地面の中に引っ込んだ。
魔力や超能力を持った怪獣が主体の、魔のチーム【白きアラティル石】のリーダー【ゲー・ティア】が、タメ息混じりに呟く。
「まったく、アグラ……あなたという怪獣は、デリカシーに欠ける」
ゲー・ティアが閉じた魔導書を机の上に置いた。
ローブの袖から覗く爬虫類の腕には、魔導模様のタトゥーが彫られている。
アグラが言った。
「おまえのチームは、いいよな召喚した魔物で補充が効くから」
「そんな皮肉を言うために、わざわざ来たのですか」
「いやぁ、大会に出場前の挨拶だよ……出場するんだろう、魔の怪獣チーム【白きアラティル石】も」
「もちろんです、すべての怪獣と人間が、幸せを感じる理想の世界を作るために」
「ゲー・ティアのその理念とやらが、オレには理解できねぇ……すべての怪獣と人間に共通した幸福ってのが、人間にとっての幸福ってのは──オレたち怪獣が絶滅して脅威が無くなるのが一番の幸せだと思うがな」
ゲー・ティアは、アグラの言葉を無視して、数十体のホムンクルス人間が入った錬金術フラスコを振った。
フラスコの中で、作られた人工の人間たちが悲鳴を発する。
アグラがフラスコの中で、回転している裸の人間を見てゲー・ティアに質問する。
「その作ったちっこい人間どうするんだ? 食うのか?」
「まさか……未開の惑星に放つんですよ、数体は通常人間サイズに成長して、増えるでしょうから」
趣味で創造神のマネごとをしている神獣ゲー・ティアが、アグラの尻尾の先に融合している上半身裸の男性を見て言った。
「ちゃんと、育ちましたね……あの惑星の環境の相性が良かったようですね」
アグラが自分の手の平に拳を打ちつけて言った。
「それじゃあ、挨拶に来たついでに一丁、大会前の手合わせでもするか……オレの口から何か出る攻撃受けてみな!」
アグラの口から、口から何か出る攻撃光線が、ゲー・ティアに向って飛ぶ。
咄嗟に、ヘキサゴンが六次元繊毛を震わすと、ゲー・ティアに向って発射された光線は、時間を巻き戻すようにアグラの口の中にもどる。
思わず口を押さえて、地面でのたうち回る暴魂獣。
「おごぁぁぁ!」
六次元超獣ヘキサゴンが、アグラを見下ろして言った。
「こうなるコトを予想していたエアルが、儂に見張り役を頼んだのだ……魔の怪獣チームのリーダーに一つ頼みがあるのだが?」
「なんですか? 偉大なる古老の六次元超獣」
「この、マダナイと手合わせをしてもらいたい」
「その人間とですか?」
しゃんがんだゲー・ティアが、毅然とした態度で立つマダナイを眺める。
ヘキサゴンが言った。
「マダナイは、自分が何者なのか、どこから来たのか……わからないので知りたいと思っておる」
「なるほど、そういう理由ですか……確かにこの人間からは、不思議な力を感じますね……いいんですか? 怪獣が本気で相手をすれば、人間なんて潰れちゃいますよ」
「マダナイなら、大丈夫……寝返りをうったアグラの背中の下から朝になったら、這い出してきたほどだからな」
「それなら、お相手しましょう」
立ち上がったゲー・ティアが呪文を唱えると。
地面に光りの魔法陣が出現して、無数の触手を生やした形容しがたい臭気を放つ、邪神系使い魔の怪獣が灰色の霧の中から出現した。
現れた怪獣の触手には、赤く不気味な戦斧が握るように巻きついている──人間の連なる頭蓋骨柄の戦斧を持った邪神獣に、ゲー・ティアが命じる。
「目の前に立っている人間に、向って戦斧を振り下ろして斬り潰してしまいなさい」
灰色の霧をまとった戦斧が、立っているマダナイに向って振り下ろされる。
霧が晴れると、振り下ろされた戦斧を片手で受け止めている、少年マダナイの姿があった。
マダナイの体が、突然変貌して体から巨大な死神カマの刃が飛び出して、ゲー・ティア召喚した邪神獣を真っ二つにする。
斬られた邪神獣の姿が魔法陣に消えると、マダナイの姿もいつもの執事少年の姿にもどった。
それを見て感心するゲー・ティア。
「ほう、これはもしかして……彼は」
「何かわかったのかな?」
「怪獣の中には、相手から受けた攻撃に瞬時に耐性を持って自分の力にできる、体質変異能力の怪獣もいると聞きます……武器には武器で、音楽には音楽で返します……彼はそんな怪獣人間かも知れません」
「そうか、なんらかの経緯で、耐性怪獣の力をマダナイは秘めているのか……それで、今まで怪獣にうっかり踏まれても生きていた説明がつく」
◇◇◇◇◇◇
魔の怪獣チーム【白きアラティル石】もホシノフネの客車に乗り込み、ホシノフネは最後の大会参加怪獣チームがいる星へと向った。
創作裏話
魔の怪獣チーム【白きアラティル石】のリーダー『ゲー・ティア』のイメージは、あのひと目見たら忘れられないインパクトがある17世紀のヨーロッパのペスト医師です。あの鳥のクチバシの中には薬草が入っているとか。
マダナイの参考になったイメージ怪獣は、ウルトラマンに登場した攻撃されれば強くなる変身怪獣『ザラガス』と、ウルトラマンマックスに登場した完全体怪獣『イフ』です