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怪獣使いの弱者たち  作者: 楠本恵士
黎明の 怪獣旅団
6/14

第六話・技の怪獣チーム【鉄火莫耶】

 アグラたちが乗ったホシノフネは、巨大な歯車やビスなどで構成された技巧惑星に到着した。

 ホシノフネからアグラと一緒に降りたのは、ズノウだった。

 アグラが、会計経理電脳獣ズノウに訊ねる。

「オレは、この星の技のチーム【鉄火莫耶(てっかばくや)】のリーダーに会いに行くんだけれどな?」

「わたしもですよ、頼んでおいたモノを取りに行きます」

「そうか」


  ◇◇◇◇◇◇


 アグラとズノウは、技巧惑星の怪獣長屋に向った。

 江戸の町並みを連想させる、長屋の細い通りを進むアグラとズノウは、ある家の前で立ち止まる。

 下がっている道具の形をした、木製の看板を見てアグラが言った。

「お、ここだ、ここだ、中から音が聞こえているから居るな……『ジン・ゴロウ』いるかい?」


 怪獣の子供が数体、長屋の中を駆けていき、アグラの尻尾が踏まれる。

 尻尾の先のニンゲンをふいに踏まれて驚いたアグラが、思わずゲップのような炎を吐く。

「ゲフッ」

 障子戸がメラメラと燃え上がり、部屋の中が丸見えになって。

 作業をしている怪獣の姿があった。

 頭に鉢巻を巻いて、トサカのような回転ノコギリの刃が頭から出ている江戸の技巧獣『ジン・ゴロウ』が、花魁(おいらん)が履くような高下駄(たかげた)を作っていた。


 ジン・ゴロウは恐竜型のサイボーグ怪獣で、体の随所から金属の回転ノコギリが飛び出している。

 両手はミトン型になっていて、ここからも回転ノコギリが露出する。


 ジン・ゴロウは作業の手を休めるコトなく、アグラに向って言った。

「この野郎……家の障子戸を燃やしやがって、風通しが良くなっちまったじゃねぇか」

 アグラが、木工作業をしているジン・ゴロウに質問する。

「なんでも作るなぁ……金属細工をやっていたかと思ったら、今度は高下駄作りか……その高下駄、どんな怪獣が履くんだ?」


 下駄に(うるし)を塗りながらジン・ゴロウが答える。

「花魁怪獣からの注文だ……高さを競い合って注文してくるから、こんな高い花魁下駄(おいらんげた)になっちまった」

「そんなの履いた、花魁怪獣はコケないか?」

「コケるさ、この間もコケて怪獣江戸城を花魁が壊した」


  ◇◇◇◇◇◇


 話しの区切りを見て、ズノウがジン・ゴロウに訊ねる。

「注文してあったネジはできているかな?」

「おう、そこの棚に乗っている……持っていきな」

 ズノウが棚からネジを取って、自分の体にドライバーでハメ込んだ。

「やっぱり、匠が作るネジはしっくりくる……分解した時に無くなって困っていたんだ」

「そいっあ、良かったお代は気持ち分だけ置いていきな」

 そういうと、ジン・ゴロウは鉄瓶に入っていた、冷ましたほうじ茶を飲んだ。


  ◇◇◇◇◇◇


 ズノウが去ると、アグラが作業を再開したジン・ゴロウに訊ねる。

「ジン・ゴロウは今回の怪獣バトル大会には……」

 アグラの質問を即答で返すジン・ゴロウ。

「出ねえよ……あんな大会なんざ」

「これまで、ずっと出場していたじゃないか」

 アグラの言葉に、ジン・ゴロウの頭の片側から、ピョッコと鉢巻を巻いて腕組みをした職人気質(かたぎ)の中年男性の裸体上半身が飛び出て、すぐに引っ込んだ。


「オレはモノづくりの職人怪獣だ……破壊専門の怪獣同士の大会がイヤになってな……もう、怪獣バトルには出ねぇ──わかったら、さっさと帰りな」


「そうかい、そこまで言うなら」

 アグラはいきなり、長屋に向って火を吐く、燃える長屋……火の見(やぐら)半鐘(はんしょう)を打ち鳴らす音が響く。


「ジン・ゴロウが、大会に出場すると言うまで……エドの町を焼き尽くす」

「ふざけるな!」


 怒鳴って立ち上がったジン・ゴロウは、火消しの印半纏(しるしばんてん)を着ると(まとい)を持って飛び出していった。


 ジン・ゴロウは、火消し組の(かしら)もやっている。

 延焼が近い家の屋根で纏を回す、ジン・ゴロウを目印に消火活動をするジン・ゴロウの弟子の『サイボーグ怪獣』『ロボット怪獣』『自動人形(オートマトン)』で構成された、技のチーム【鉄火莫耶】


 アグラが火付けをした火災は、ほどなく鎮火した。

 地面に座り込んだジン・ゴロウに、近づいたアグラが言った。

「どうだ、大会に出場する気になったか?」

「この野郎!」


 ジン・ゴロウのミトンハンドパンチがアグラの頬に炸裂する。

 パンチを受けても、倒れずに満足気な笑みを浮かべるアグラ。

「なんだ、まだやれるじゃねぇか……大会に出場しろ」

「出場登録してねぇから出れねぇんだよ! 登録していたら、出てやらぁ! べらんめぇ」

 啖呵(たんか)を切ったジン・ゴロウに、弟子の鉄火莫耶の怪獣の一体が言った。

「実は(かしら)に無断で悪いと思いましたが、オレたちで相談して大会出場の登録してあるです」

「おまえたち、勝手なコトを……いや、おまえたちの気持ちを汲んでいたのに、大会出場を拒んだオレの方が悪いのか」


 ジン・ゴロウは気づいていた。

 チーム鉄火莫耶の弟子怪獣たちが、怪獣バトル大会で自分たちの実力を試したかったコトを。


 ジン・ゴロウが、苦笑しながら江戸っ子口調で言った。

「しかたがねぇな……大会に出場してやらぁ……べらんめぇ」


 ガッポーズをするアグラ。

「そうこなくちゃいけねぇ……面白くなってきやがった」

 こうして、技のチーム【鉄火莫耶(てっかばくや)】は、ホシノフネに乗り込み。


 エドの町に火を吹いたアグラは、火付盗賊改方(とうぞくあらためがた)の怪獣から、こってりと絞られた。


技のチーム【鉄火莫耶(てっかばくや)】のリーダー『ジン・ゴロウ』のイメージは、


江戸の職人+暴れんぼ坊将軍に登場する『め組の辰五郎』+帰ってきたウルトラマンに登場する、八つ切り怪獣『グロンケン』です


※莫耶の意味は……各自で検索して調べてください

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