第六話・技の怪獣チーム【鉄火莫耶】
アグラたちが乗ったホシノフネは、巨大な歯車やビスなどで構成された技巧惑星に到着した。
ホシノフネからアグラと一緒に降りたのは、ズノウだった。
アグラが、会計経理電脳獣ズノウに訊ねる。
「オレは、この星の技のチーム【鉄火莫耶】のリーダーに会いに行くんだけれどな?」
「わたしもですよ、頼んでおいたモノを取りに行きます」
「そうか」
◇◇◇◇◇◇
アグラとズノウは、技巧惑星の怪獣長屋に向った。
江戸の町並みを連想させる、長屋の細い通りを進むアグラとズノウは、ある家の前で立ち止まる。
下がっている道具の形をした、木製の看板を見てアグラが言った。
「お、ここだ、ここだ、中から音が聞こえているから居るな……『ジン・ゴロウ』いるかい?」
怪獣の子供が数体、長屋の中を駆けていき、アグラの尻尾が踏まれる。
尻尾の先のニンゲンをふいに踏まれて驚いたアグラが、思わずゲップのような炎を吐く。
「ゲフッ」
障子戸がメラメラと燃え上がり、部屋の中が丸見えになって。
作業をしている怪獣の姿があった。
頭に鉢巻を巻いて、トサカのような回転ノコギリの刃が頭から出ている江戸の技巧獣『ジン・ゴロウ』が、花魁が履くような高下駄を作っていた。
ジン・ゴロウは恐竜型のサイボーグ怪獣で、体の随所から金属の回転ノコギリが飛び出している。
両手はミトン型になっていて、ここからも回転ノコギリが露出する。
ジン・ゴロウは作業の手を休めるコトなく、アグラに向って言った。
「この野郎……家の障子戸を燃やしやがって、風通しが良くなっちまったじゃねぇか」
アグラが、木工作業をしているジン・ゴロウに質問する。
「なんでも作るなぁ……金属細工をやっていたかと思ったら、今度は高下駄作りか……その高下駄、どんな怪獣が履くんだ?」
下駄に漆を塗りながらジン・ゴロウが答える。
「花魁怪獣からの注文だ……高さを競い合って注文してくるから、こんな高い花魁下駄になっちまった」
「そんなの履いた、花魁怪獣はコケないか?」
「コケるさ、この間もコケて怪獣江戸城を花魁が壊した」
◇◇◇◇◇◇
話しの区切りを見て、ズノウがジン・ゴロウに訊ねる。
「注文してあったネジはできているかな?」
「おう、そこの棚に乗っている……持っていきな」
ズノウが棚からネジを取って、自分の体にドライバーでハメ込んだ。
「やっぱり、匠が作るネジはしっくりくる……分解した時に無くなって困っていたんだ」
「そいっあ、良かったお代は気持ち分だけ置いていきな」
そういうと、ジン・ゴロウは鉄瓶に入っていた、冷ましたほうじ茶を飲んだ。
◇◇◇◇◇◇
ズノウが去ると、アグラが作業を再開したジン・ゴロウに訊ねる。
「ジン・ゴロウは今回の怪獣バトル大会には……」
アグラの質問を即答で返すジン・ゴロウ。
「出ねえよ……あんな大会なんざ」
「これまで、ずっと出場していたじゃないか」
アグラの言葉に、ジン・ゴロウの頭の片側から、ピョッコと鉢巻を巻いて腕組みをした職人気質の中年男性の裸体上半身が飛び出て、すぐに引っ込んだ。
「オレはモノづくりの職人怪獣だ……破壊専門の怪獣同士の大会がイヤになってな……もう、怪獣バトルには出ねぇ──わかったら、さっさと帰りな」
「そうかい、そこまで言うなら」
アグラはいきなり、長屋に向って火を吐く、燃える長屋……火の見櫓の半鐘を打ち鳴らす音が響く。
「ジン・ゴロウが、大会に出場すると言うまで……エドの町を焼き尽くす」
「ふざけるな!」
怒鳴って立ち上がったジン・ゴロウは、火消しの印半纏を着ると纏を持って飛び出していった。
ジン・ゴロウは、火消し組の頭もやっている。
延焼が近い家の屋根で纏を回す、ジン・ゴロウを目印に消火活動をするジン・ゴロウの弟子の『サイボーグ怪獣』『ロボット怪獣』『自動人形』で構成された、技のチーム【鉄火莫耶】
アグラが火付けをした火災は、ほどなく鎮火した。
地面に座り込んだジン・ゴロウに、近づいたアグラが言った。
「どうだ、大会に出場する気になったか?」
「この野郎!」
ジン・ゴロウのミトンハンドパンチがアグラの頬に炸裂する。
パンチを受けても、倒れずに満足気な笑みを浮かべるアグラ。
「なんだ、まだやれるじゃねぇか……大会に出場しろ」
「出場登録してねぇから出れねぇんだよ! 登録していたら、出てやらぁ! べらんめぇ」
啖呵を切ったジン・ゴロウに、弟子の鉄火莫耶の怪獣の一体が言った。
「実は頭に無断で悪いと思いましたが、オレたちで相談して大会出場の登録してあるです」
「おまえたち、勝手なコトを……いや、おまえたちの気持ちを汲んでいたのに、大会出場を拒んだオレの方が悪いのか」
ジン・ゴロウは気づいていた。
チーム鉄火莫耶の弟子怪獣たちが、怪獣バトル大会で自分たちの実力を試したかったコトを。
ジン・ゴロウが、苦笑しながら江戸っ子口調で言った。
「しかたがねぇな……大会に出場してやらぁ……べらんめぇ」
ガッポーズをするアグラ。
「そうこなくちゃいけねぇ……面白くなってきやがった」
こうして、技のチーム【鉄火莫耶】は、ホシノフネに乗り込み。
エドの町に火を吹いたアグラは、火付盗賊改方の怪獣から、こってりと絞られた。
技のチーム【鉄火莫耶】のリーダー『ジン・ゴロウ』のイメージは、
江戸の職人+暴れんぼ坊将軍に登場する『め組の辰五郎』+帰ってきたウルトラマンに登場する、八つ切り怪獣『グロンケン』です
※莫耶の意味は……各自で検索して調べてください