第一話・オレが暴魂獣【アグラ】だ! 文句あるか!
その男は目覚めた──荒野の平らな岩の上で。
「ここはどこだ?」
若い男は、体を起こして周囲を確認しようとしたが、体が重くて動かない。
下半身が岩のように重く、仰向けに横たわる若い男は自分の体を撫でているみた。
上半身は裸で、腰から先はゴツゴツしたモノと融合している感じだった。
(なんだ、コレは?)
男が紫色の空を見て、考えていると高い位置から声が聞こえてきた。
「やっと、目覚めやがったか……まったく、人間ってのは厄介な生き物だな」
声が聞こえてきた、方向を見た若い男は仰天した。
そこには、巨大な生物が振り向いたポーズで、男を見下ろしていた。
頭頂から結晶のような背ビレが、尻尾に続いている怪獣の尾の先端と男の下半身は融合していた。
怪獣が呟く。
「なんで大会ルールでも、こんな脆弱な生き物の力を借りなきゃいけねぇんだ……ったく」
怪獣が尻尾を左右に振ると、融合した男の体も左右に揺れる。
悲鳴を発する男。
「やめろ、いったい何がどうなっているんだ?」
怪獣は近くの岩に尻尾ごと男の体を叩きつけた、岩は砕けたが男の体には傷一つつかなかった。
怪獣が言った。
「このくらいで、潰れたら使い物にならないからな……おい人間、面倒くさいけれど名前つけてやる。おまえの名前は〝ニンゲン〟だ……名前がないと呼ぶ時に不便だからな」
二足歩行の怪獣が、空を眺めて呟いた。
「さっそく、力試しに飛んで来やがった」
怪獣が見ている方向から、鳳凰のような尾羽根を生やした鳥型の生物が飛んできた。
生物の頭羽根が生えた頭頂には、男と同じように下半身が融合した、美しい女性の上半身が生えていた。
近くに着地した、鳥型の怪獣の頭に生えている女性が言った。
「暴魂獣『アグラ』やっと融合した人間が覚醒したのですね」
「あぁ、やっと目覚めやがった……聖霊鳥『エアル』いつまで、寄生虫の〝プリンセス〟の口で喋っているつもりだ……声が小さいから聞きづれえ」
聖霊鳥エアルが、頭頂のプリンセスの口を使って言った。
「プリンセスは、寄生虫ではありません……わたしのパートナーです、融合したプリンセスは無口な人間なので……テレパシーを併用して、アグラに話していますが……聞きづらかったら、テレパシーの波長やボリュームを変えましょうか?」
「いや、今はいい……それじゃバトルはじめるか」
聖霊鳥エアルが、飛び立ちアグラの上空を旋回する。
アグラは尻尾を振ってエアルを叩き落とそうとするが、エアルは巧みにアグラの先端に人間が融合した尻尾攻撃を避けた。
「ちょこまかと飛びやがって……それなら、これでどうだ〝口から何か出る攻撃〟うげぇぇ」
アグラの結晶背ビレが輝き、口から古代生物のアノマロカリスや三葉虫の形をした光線が出た。
アグラが吐いた得体が知れない光線を避けた、エアルのクチバシから酸味を吹くんだ液体だか、光線だか判別できないモノがアグラに向って吐き出される。
酸味を浴びたアグラが悲鳴をあげる。
「うわぁぁぁ、その酸っぱいの吐くな、オレそれ苦手なんだよ……降参、降参」
着地したエアルは、翼の爪でクチバシを拭って言った。
「合格です『黎明の怪獣旅団』の一匹としてアグラを迎い入れましょう」
「やっとかよ……それじゃ旅団仲間の所に行くとするか」
アグラの背中から、コウモリのような翼が突出する。
羽ばたきはじめた翼を見てエアルが言った。
「飛んでいくのですか? 瞬間移動ではなくて?」
「アレは星と星の移動をする時に使っている……瞬間移動って、結構エネルギー使うんだよ」
アグラとエアルは、旅団仲間の怪獣が待っている〝オッカ山〟の岩火山へと飛んで向かった。