19.
あの後、迎えに来た父の車に乗り、透は家に帰った。家に着くと母と颯希が労いの言葉をかける。
「試験、お疲れ様。ゆっくり休むといいわ」
「お疲れ様なのです!お兄ちゃん!あとは祈るのみですね!」
颯希の言葉に透が頷く。
「やるだけのことはやったんだ。これでダメでも諦めがつくさ」
透の言葉に颯希が言葉を紡ぐ。
「………昨日、お兄ちゃんを送ったあとね、芹香ちゃんが言っていましたよ。『透なら絶対大丈夫!』って、自信満々に話していたのです。なんかそれで、私もきっと大丈夫って思えまして、おかしな話ですが信じることできるのですよね。芹香ちゃんって、どこか不思議ですね。芹香ちゃんが「大丈夫!」って言ったら本当に大丈夫って感じちゃうのです!」
「その言葉に何も根拠はないがな。でも、そうなんだよな………」
透がそう言いながら優しく微笑む。
そして、部屋に戻りスマホが光っていることに気付き、開く。そこには、芹香からメッセージが来ていた。
『透!試験、お疲れさまでした!』
「これでよし!」
芹香は試験に必要なものをノートに書きだしていた。芸術大学の中の写真関連学部なので必要なものの中に特殊なものもある。それを忘れないようにノートに書きだして確認する。
試験まであと数日と迫っていた。
追い込みをかけながら試験勉強に励んでいく。
そして、遂に水曜日がやってきた。
芹香は仕度をして家を出た。
家を出る前に何度も忘れものがないかをチェックしたので、きっと大丈夫と自分に言い聞かせる。
スマホを確認すると真奈美からメッセージが来ていた。
『いよいよね。お互い全力を出し切って頑張りましょう!!』
メッセージに返事をしてスマホを閉じる。外はお穏やかに晴れており、空も雲一つない晴天だった。
(絶好の試験日和だ!)
そう心で呟き、試験会場に向かった。
その頃、芽衣は部室のパソコンで物語の続きを書いていた。
「卒業までには書けそうね……」
出来る事なら卒業までに完成させたい思いがあるので、急ピッチで進めていく。
(芹香も真奈美も今頃頑張っているかな……?)
そう心で呟き、窓の外を見る。
「……絶対、合格する」
そうぽつりと言って芹香と真奈美の合格を祈るように手を合わせる。
(二人とも、頑張ってね!)
透は試験が終わったので、久々に趣味の考察をしていた。ノートに小説の主人公の性格を考察していく。ふと、その手を止めて窓の外に顔を向ける。
(自分の試験の時もこんな晴天だったな……)
そう心で呟く。芹香が頑張っていることを信じてノートに視線を戻す。
「頑張れよ、芹香………」
そう小さく呟き、頑張っていることを祈る。
透と芽衣が芹香と真奈美を信じて祈りながら、趣味に励んでいった。
「………はい!そこまで!!」
試験官の合図で受験生はペンを置いた。
「ふぅ~………」
大きな息を吐いて、芹香は試験が無事に終わったことに安堵の表情をする。この試験が難しいのか簡単なのかは分からないが、自分なりに精一杯やったという達成感はある。
試験が終わり、会場を出る。
途中で街の主要の駅で下車して、人形店に足を延ばした。
「こんにちは~!」
芹香がそう言うと、奥から店主であるお婆さんが顔を出す。
「おんやまぁ、芹香ちゃんやない。学校の制服で来るなんて珍しいなぁ~」
「今、大学の入試試験の帰りなんですよ」
そう言って、お婆さんにカメラマンになるために芸術大学の試験を受けに行っていたことを話す。
「………そうかい。カメラマンになるんやな~。いや~、今から楽しみやね。頑張ってなぁ~」
お婆さんはそう言って嬉しそうな顔をする。
時間があったのでお婆さんと世間話をしていた。
楽しく話しながら時間が経っていく。
気付くと、外が夕暮れに差し掛かっていた。
芹香はお辞儀をしてその店を出た。帰りの電車の中でいろいろな想いが頭をよぎる。
受かるかどうかは分からない………。
でも、あれだけがむしゃらに頑張ってダメだったとしても諦めは付く。
電車に揺られながら、流れる街並みを目で追っていく。
気持ちは清々しく、心は何だか晴れやかな気持ちだった。
小さく呟く………。
「私、頑張った!!」




