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第3話 夢だったのでは?

 

黒木岬(くろきみさき)さん……か」


 登校日の朝。僕は昨夜バイト帰りに偶然出くわした女子生徒の名前を口にしていた。


 昨日、他校の男子に路上で絡まれていた女子高生を助けようと声をかけ、その場を収めるまでは良かった。

 でも、その時の女子高生がまさか同じクラスの黒木さんだとは思いもしなかったな。


 黒木岬さん。

 彼女を初めて知ったのは高校に入ってからだ。中学は別で高一の時、同じクラスになって初めて彼女の事を知った。

 顔は整っているし、よく似合うポニーテールのヘアセット。それに、トレードマークである黒いパーカーという装い。彼女はボーイッシュな格好が好きなのか。いつもそのパーカーを身につけている。


 パーカーの着用は校則でも厳密には禁止されていない。

 その証拠に今校門を潜った二人組の女子の一人はピンク色のパーカーを着ていた。

 そう、女子がオシャレをするのなら可愛らしい色を選ぶはず。

 なのに黒木さんは男が好んで着そうな黒いパーカーを愛用しているのだ。


 その姿は学校でも目を惹き、男子だけでなく同性の女子にまでカッコいいと言われる程に人気があった。

 現に今も生徒達の目を惹くし人気もあるのだろう。しかし、彼女の尋常ならぬ無口な性格は、それらの人間を寄せ付ける事はなかった。

 彼女が話すのは必要最低限。

 出席をとる時や、授業で先生に当てられた時くらいだろう。クラスで話す姿などほとんど見た事がない。


 彼女とは二年生になった今でも同じクラスだが、黒木さんの声を聞いた数は少ない。

 そんな黒木岬さんに、僕は昨夜お礼を言われたのである。


 結局その後、すぐ走っていなくなっちゃったんだけど……。

 大通りの方に向けてかけて行く後ろ姿が、僕の記憶にはしっかりと残っていた。


 だけど、それだけ人との関わりを持たない彼女にお礼を言われるなんて、偶然とはいえ普段の生活からは想像もつかないイベントだった。

 まさに、インドア派の僕とは無縁の相手なのだから。


「あれは、夢だったのかな……」


 学校の正門を前にして、僕は立ち止まって空を見上げる。

 今日はそんなもやもやを晴らすくらい、とても良い天気で空には雲一つなかった。

 そう思うと、昨日の出来事は僕の夢や妄想だったのではないかとさえ感じてしまう。


「なぁに一人でブツブツ言ってるんだよ。真吾(しんご)!」

「っ⁉︎」


 バシッと背中に衝撃を受けて後ろへと振り向く。

 そこに立っていたのは。


「あ、新太(あらた)……」

「よっ! 浮かない顔してどうしたんだ?もしかして昨日も徹夜でゲームでもしてたのか」


 ニッ、と歯を見せた笑顔を向ける男子生徒。

 三谷(みたに)新太が明るくそう言った。


「昨日もって、僕は毎日ゲームはしても連日徹夜する事はしないよ」

「ゲームするのは認めるんだな……。それよりも何一人で喋ってたんだよ。 ゲーム内でトラブルでもあったのか?」

「別にゲームの事で悩んでたわけじゃないって」

「嘘つくなよ〜。お前がブツブツ言ってる時はゲームの事かゲームの事か、もしくはゲームの事くらいだろ?」


 おかしいな。選択肢がある時は普通別々の答えが用意されるはずなのに、僕の聞き間違えでなければ全てが同じ解答に聞こえた。


「まるで僕がゲームしかしていないみたいじゃないか」

「いや、実際そうだろ」


 呆れ顔で言う幼馴染に、僕は遺憾な感情を覚える。


「そんな事ない。僕だって日々のバイトや友人達とのコミュニケーションを頑張っているんだよ」

「そのバイトもゲームを買ったり課金の為だろ?あと、コミュニケーションの方もギルドとかいうグループでの話しだろ!」


 そんなツッコミを受けながらも僕は足早に校舎を目指した。

 こんな正門前でいつまでも騒いでいたらきっと他の生徒の迷惑になる。


「おい待てよ真吾。一緒に行こうぜ!」

「別にいいけど、新太今日部活は?」

「今日は一日オフなんだよ。文化祭の準備期間にも入るしな」


 新太はうちの高校のバレー部に所属している。

 部活は中学から続けていて高一にはレギュラー。三年生が引退した今は部長兼エースとして頑張っている。


「そっか。もうそんな時期か」

「お前。完全に忘れてたろ」

「僕は忙しいから……」

「だから帰宅部のエースなんて言われるんだぞ」


 バレー部のエースと仲の良い帰宅部のエース。

 誰がそう言ったのかは知らないが、気付けば僕にはそんなあだ名が付けられていた。


「二つ名みたいでよくない?」

「出たな。これだからゲーム脳は」

「何が?」


 何とでも言うがいい。僕は何気にそのエースという普段なら縁遠い単語に誇りを持っているのだから。


「まぁ、お前が良いなら別にいいや。本当に単純だからな真吾は」

「?」


 新太の真意は分からぬまま、二人で教室へと向かった。


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