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第21話 思わぬ顔合わせ

 

 校舎を出ると外は日が沈み夕焼け空が広がっていた。


 昇降口前に立ち、綺麗な黒髪のポニーテールを風に靡かせる女子生徒に僕は声をかける。


黒木(くろき)さん、お待たせ」

「うん……」


 実行委員会が行われた教室を出てから、僕は職員室のコピー機を使わせてもらっていた。

 もちろん、先ほどの会議の内容を記載してくれた用紙を印刷するためだ。


「ありがとう黒木さん。しっかりまとめられてたから助かるよ」

「そんな事……ないよ。えへへ」


 相変わらず謙虚だな黒木さんは。でも、褒めたからなのかどこか嬉しそうだ。

 僕はそう思いながら借りていたプリントを黒木さんへと返す。


「先に帰ってくれてもよかったのに」

「ううん。(かなめ)くんと一緒に……、帰りたかったから」

「そ、そうなんだ」

「うん」


 そんな事を言われたら世の男子は大喜びだろうな。

 僕もその一人だけどね。


 黒木さんと友達になってからというもの、一緒に登校するだけではなく共に過ごす時間が増えた。クラスでも声をかけてくれるし、時間があえば自然と下校も一緒にするようになっていた。

 周囲の目はあるけれど、どうやら黒木さんは気にしないらしい。こちらは少し緊張はするけれど、この登下校の時間は僕にとって楽しみな時間でもあった。


「この時間……、生徒がほとんどいないね」


 校舎を出て校門までは一直線の大きな道ひとつだけ。

 唯一目に入ったのは、花壇の辺りで何やら作業をしている生徒一人だけだ。

 もし他にも生徒がまだ残っているとすれば、僕ら同様文化祭に関わる生徒くらいだろう。


「そうだね。文化祭の準備期間に入ったからじゃないかな? 新太(あらた)も先に帰るって言ってたし」


 基本的にはバレー部の練習が忙しい新太と一緒に帰る事はない。部活がない日とかは一緒に帰る事があるけれど、逆に今は僕が文化祭実行委員として多忙になったために結局普段と変わらないのだ。


「新太……って。二谷(にたに)くん?」

「おしい! 三谷(みたに)だよ」

「あ……、そうだった」


 たまに黒木さんとの会話の中でも登場する新太だが、中々黒木さんには覚えてもらえないらしい。

 クラスでは僕なんかより全然認知されている奴のはずなのだけど。

 僕はふと、黒木さんがクラスのメンバーをどれだけ把握しているのか気になった。


「黒木さんって同じクラスの人の名前って覚えてる」

「……要くん」

「うん、それはそうなんだけど」


 黒木さんって意外と天然なんだよな。

 ブラザーの下に黒いパーカーを着てクールな印象が強いのに、そういう一面があると余計に可愛く思えてくる。

 これは仲良くなった僕にしかわからない特権かもしれないけど。


「僕以外で分かる人っている?」

「うーん、席が近い人なら……。あと、顔は見た事あるけど名前まで分かる人は……あまりいないかも」


 僕の場合は結構周囲の話しとか聞いてて自然と覚えちゃってたけど黒木さんは違うみたいだ。

 そういう事にあまり興味がないだけかもしれないけど。


「でも実行委員をやるなら……覚えないといけない、よね?」


 もう秋頃だけど、今クラスメイトの名前を覚え始めるのは珍しすぎるな。

 でも、やる気はあるようで何よりだ。


「……そうだ。ねぇ、要くん」

「ん?」

「和カフェをやるなら……、色々と下調べしないといけない……よね? 副会長が言ってた」

「ああ、そうだね。帰ったら少し調べてみるよ」


 うちの学校は校則は緩いが、学校行事においてはすごくストイックなのだ。

 一般のお客さんも呼ぶからかもしれないけど、ちゃんと取り組んでいるのか当日の動きを先生や生徒会が見て評価するらしい。

 当然どれだけ念入りな準備を進めてきたかで、その質は大きく変わる。

 売り上げはもちろんだけど、よりお客さんに気に入ってもらえたクラスは表彰されるのが毎年の恒例だ。それもあり、文化祭の会場である校内の至る所にアンケート用紙などが設置される。

 去年までは意識していなかったけど、文化祭の最後で優秀賞に選ばれたクラスの表彰があったのは覚えていた。

 そういった準備も、僕ら文化祭実行委員の仕事の一つだと、今日の実行委員会で聞かされた。


「副会長といえば、今日は生徒会長……いなかったね」

「あー、(ひいらぎ)先輩?」

「うん」


 うちの学校の生徒会長、柊先輩はこの学校一の有名人だ。

 知らない人はいないだろう。


「会長は今年で卒業だし、二年生の副会長に実践形式で勉強させてるんじゃないかな。だから席を外してた……とか?」

「……あっ、なるほど。そうかも」

「たぶんね」


 現にこの時期の文化祭あたりから学校行事は二年生が主体となるからあながち間違ってはいないと思う。


「僕たちも頑張らないとね」

「……うん」


 すると、黒木さんが足を止めた。


「か、要くん」

「うん?」

「話しを……戻すんだけど」

「話し……? あっ、和カフェの事かな」

「うん。その件……、なんだけどね」


 黒木さんが何か言いにくそうに話す。

 突然どうしたのかな? 少し、顔が赤いようだけど。


 僕は、彼女の言葉を待つ事にする。


「あの、ね。要くんさえよかったら……」


 かろうじて聞き取れるけど、彼女の声がだんだんと小さくなっていく。

 しかも何やらもじもじとした様子が窺える。


「つ……次の休みの日、一緒にっ――」

「あなた達、何をしているんですか?」


 黒木さんが何かを言いかけたその瞬間、不意に誰かから声をかけられる。


「え……?」


 その人物を見て、最初にそう声が漏れた。

 黒木さんも驚いた表情を浮かべている。


 花壇のところにいた生徒だ……。

 ……いや、驚くべきはそこではない。さっきは後ろ向きでしゃがんでたから気付かなかったけど、この人……。


「なんで黙っているんですか? 質問に答えてください」


 腰まで届くストレートヘアーを携えた女子生徒。

 背が高くスタイルの良い彼女が、少しずつ僕たちの方へ歩み寄る。

 切れ長の瞳に、雪のように白くて美しい肌。まさにどこかの女優かのような美貌の持ち主。

 その威厳ともいえる佇まいが、一般人とはどこか違う空気を放っている。


 この人は、間違いなく……。


『生徒会長……⁉︎』


 僕も黒木さんも予想外の人物の登場に声を揃えて言った。


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