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第10話 家に帰るまでが放課後です

 

「…………」

「…………」


 えーっと、どうしてこうなったんだろう。


 僕は高森(たかもり)先生から文化祭実行委員に任命され、今後やるべき事や決めなくてはいけない事。その他の内容について話を聞いてから帰路についたはずだった。


 それがどうしてこんな事に?


「……(かなめ)くん?」


 僕の視線に気がついたのか、ポニーテールを揺らしながら隣を歩く黒木(くろき)さんが小首を傾げて僕を呼んだ。

 そう。制服の上に黒いパーカーを着用し、無口でボーイッシュな雰囲気でお馴染みの黒木さんが今、僕と並んで歩いているのだ。


 つまり、僕たちは今一緒に下校しているのである……。


 夕日が沈み、薄暗くなった通学路がいつもと違う景色に感じる。

 そんな嘘のような事実が未だに僕は信じられない。


「……私の顔に、何かついてる?」


 黒木さんは自分の頬っぺたの辺りに手を持っていく。

 そしてその透き通るような白い肌にふにっと触れる仕草をした。


「いや、何でもない! ごめん!」

「……そう?」


 いくら周囲からの評価が高い黒木さんだからってジロジロ見るのも失礼だよな。

 極力控えよう。うん、極力。


「それよりごめんね」

「ど、どうしたの?」


 そう自分に言い聞かせていると、黒木さんが申し訳なさそうに言った。

 一体何に対しての謝罪だろうか?


(れい)ちゃんが、その、無理を言って」

「あ、あぁ。別にいいよ、もう暗いし家に送るくらい平気だよ」


 僕は今、黒木さんと一緒に帰るついでに彼女を家に送る事となっていた。

 高森先生と本人が言うには、どうやら僕の家と黒木さんの自宅は近いのだという。


 それを聞いて、何故黒木さんが昨晩あの細道にいたのか納得がいった。

 あの路地で会ったのはどうやらそういう偶然が重なっての事だったらしい。


「うん。それもだけど、文化祭の実行委員の事も」


 すると。黒木さんは高森先生の事についてもう一つ思うところがあったようだ。


「ううん、そっちも気にしてないよ」

「本当? でも要くん忙しいって言ってたから」

「あー、それは」


 ゲームをする時間が減るからなんて言えないよな……。

 さすがに僕にもそれくらいの羞恥心はある。

 まぁ、先生がバイト先に連絡を入れていた件は正直耳を疑ったけど。


「高森先生にはお世話になってるし。まぁ、これも良い経験になるよ」


 僕は黒木さんに安心してもらおうと、もっともらしいポジティブな受け答えをする。


 そう。この現状はまさに僕らの担任であり、実は黒木さんと従姉妹同士である事がつい先程判明した高森玲先生が発端なのである。



 ◇◇◇◇



「あん? あたしの可愛い妹分と一緒に帰れないっていうのか?」

「いえ、そういうわけではないんですけど……」


 文化祭実行委員に関して一通りの説明を高森先生から受けた頃にはすっかり日が暮れていた。

 部活にも所属していない帰宅部の僕からしてみれば、こんなに遅くまで学校に残るなんて事は初めてだ。


 そんな僕に先生は、この後帰るだけなら黒木さんを家まで送ってやってほしいと頼んできたのである。


「それじゃあ何だ? 納得できる理由があるんだろうな」


 鋭い眼光が僕を睨みつける。

 怖い! この人やっぱり元ヤンなんじゃないのか⁉︎


「それとも(みさき)と帰るのは嫌なのか?」

「いやそれは……」


 僕は先生の言葉に少し考える素振りを見せた。

 もちろん黒木さんと一緒に帰るのが嫌というわけではない。

 それでも……。


「僕はいいですけど。僕なんかと帰ったら黒木さんがその……」


 僕は横にいる黒木さんの方を見る。


「……?」


 彼女は何の事か分からないという風な視線を僕に向けた。

 おそらく僕と帰るところを誰かに見られたら、また変な噂が立ってしまう。

 今日のような質問責めにまた遭うかもしれない。僕は大丈夫でも黒木さんに迷惑がかかるのは違う気がする。


「岬」

「何? 玲ちゃん」

「お前は要と一緒に帰るのは嫌か?」


 と。高森先生は先程の表情から普段通りに戻って黒木さんへ問いかける。


「……ううん」

「要と帰るところを誰かに見られたら迷惑か?」


 随分と確信的なことを言う。

 先生……。流石にそれは意地悪ですよ。


「迷惑? 全然だよ?」

「うぐ……」


 しかし、黒木さんは首を横に振った。

 たぶん。僕が気にかけている事を黒木さんは意識すらしていないのだと思う。

 先生もそれを分かっていて、こんな意地悪な質問を投げかけたのだろう。


「だとさ、要はどうするんだ?」


 黒木さんがそう答えると分かっていたくせに、先生はニヤニヤと僕の顔色を窺う。


 あぁ、もう分かりましたよ。

 本当にこの先生には敵わないな。


「じゃあ、黒木さん。よかったら、一緒に帰る?」

「……うん!」


 改めて僕から一緒に帰る事を提案すると、快く返事をしてくれた。


「ぷっ……」

「高森先生! 笑わないでくださいよ!」

「悪い悪い。良かったな岬、要が家まで送ってくれるらしいぞ」

「えっ! 家って……」

「何だ要。こんなに暗くなってきた夜道を岬一人で帰らすつもりか? きちんと家まで送るようにな」

「それは……」


 先生から付け足された言葉で、昨日の事を思い返す。

 昨晩程の遅い時間ではないとはいえ、昨日の今日で黒木さんが心配でないと言えば嘘になる。

 ただ、それがまさか家まで送るという事に発展するとはな。家の近くまでくらいの気持ちでいた僕の予想を遥かに超えた要求を僕はされる。


「……分かりました。黒木さんを送って帰ります」

「おっ! そうかそうか。それじゃ頼むな。従姉妹としても男が付いてれば安心だ」

「人をそんな魔除けみたいな感じで言わないでください」

「まー、二人の家はそんな離れてないし。ついでに寄るくらいの気持ちでいいんだ。だから、頼んだぞ」

「そう……なんですか。分かりました」


 昨日あんな夜遅くに黒木さんが出歩いていた理由は分からないが、先生が言うに僕と黒木さんの家は結構近いのかもしれないな。


 それからまだ仕事が残っているという先生に見送られて、僕と黒木さんは職員室を後にするのだった。


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