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初戦

風が気持ちいい

何時からだろうか。空を飛んでいるのに全く怖くない。いつの間にか慣れてしまったのか。


「えっと、アギルさん?」


「ん?なんだい?」


空を飛びながらアギル、という先程出会ったばかりの魔法使いに話かける。

そうだ、俺はこの人と一緒に暮らすことなるんだ。


「これから行く場所ってどこなんですか?」


「アーリア大陸の中心に位置する国、トリスさ。その首都に私の家はあってね。君のいた場所とは文化や価値観が異なるかもしれんが、そこは慣れてくれ」


アーリア大陸。世界には五つの大陸があり、そのひとつがアーリア大陸だ。しかし、俺は昨日までずっとネモス大陸にいたし、アーリア大陸すら知らないのにトリスなんてもってのほかだ。


「はぁ…トリスね」

「ピンと来ないか?まあ、君の場合は仕方ないか」


アギルはふーむっ、といった顔で考え込んだ。


「とにかく見てみればわかるか。ネモス大陸でもアーリア大陸でも人間がいるのは変わらないしな」


「すごい大雑把だな君は。意外と楽観的?」


「ははは、わけわかんない状況の連続なんで、もう吹っ切れただけですよ」


そうだ。もう吹っ切れるしかない。こんな奇想天外な状況でまともな思考でいられるわけが無いんだ。

「そういえば、さっきからすごいスピードで飛んでますけど、全然風の抵抗とか受けないし、寒くもない。どうなってるんですかこれ?」


「良いところに気がつくね。簡単に言えば、精霊の力で守られているからさ。精霊は私たちを空に浮かせ、風で運ぶ役割と同時に風から守る仕事もしてくれてるんだよ」


風から守る仕事。精霊っていうのはそこまで便利なものなのか。


「なんで精霊は力を貸してくれるんだ?」


「精霊は気に入った人間には手助けしてくれるんだ。ここが魔術と大きく違う所だね。魔術は自分の中の魔力を燃料にして幻想を現実に再現するけど、魔法は精霊の力を借りるから魔力を消費しない」


なるほど。魔法使いになるには精霊に気に入られないといけないわけか。


「もっとも、魔法使いには適正があってね。使える人間は少ないし精霊と対話する技術も必要だ。逆に魔術師は魔力さえあれば誰でも魔法は使うことができる。だから魔術師の方が圧倒的に数は多いんだ」


「じゃあ、俺は」

どっちなんだ?と答えるより先に獣と甲高い声が響いた。


「クケャァァァァァァ!!!」


巨大な鳥の群れがいきなり目の前に現れた。

鳥の翼は真っ黒で眼光は真っ赤。こんな恐ろしい鳥を見たのは初めてだ。


「ブラッドバードの群れか。どうやらいつの間にかナワバリに入ってしまったらしい」


「ちょっ、ちょっと大丈夫なんですかこれ?!」


俺は焦りながらブラッドバードと呼ばれる鳥を前にただ怯えることしかできない。


「落ち着けカール。ブラッドバードは4級のモンスターだ。恐れることは無い」


アギルはこの恐ろしい怪鳥を前にしても全く動じない。やはり魔法使いというだけあって、戦いには慣れているということだろうか。


「いいかいカール。さっき説明したが、この世には魔法使いと魔術師の2つの種類がいる」


アギルはそう言うと、手の平を前にかざしてブルーバードの群れに向かって構えた。

それを見たブラッドバード達は何か危険を感じとったのか、一斉に襲いかかってきた。

魔法を使うつもりだろうか。だとしたら一体どんなすごい魔法を…


「紫電よ、貫け」


瞬間、アギルの手からパチパチッっと光る光線のようなものが現れ、一直線に襲いかかってきたブラッドバードの群れに直撃した。


「ギャァァァァァァァァ」


物凄い悲鳴の断末魔とともにブラッドバードは丸焦げになり、そのまま空から落ちていく。

しかし、俺にはその光景に少し違和感を覚えた。

なぜなら、アギルは今まで魔法を使う際に「精霊」という単語を使っていた。しかし、今の紫電の一撃は「精霊」という言葉は無かった。これはつまりどういうことなのか。


「しかし、世の中にはごく稀に魔法と魔術、どちらも使える人間がいる。まさに今のがソレだ。」


驚きで言葉出ない。アギルは魔法と魔術、どちらも使いこなせるということ。これがどれほどの事なのか俺にはまだわからないが、アギルという人物がすごいという事実は理解できた。


アギルは俺の方を見ると、ニヤリと笑った。


「そして、それは君にも言えることだ」


「え?」


「私の見たてでは、君も私と同じように魔法と魔術、どちらも使える人間だ」


俺が魔法と魔術を使える?

いやいや、今まで魔法や魔術を見たことすら無かったのに急にそんな事言われても


「信じられない、という様な顔だな」


「それはそうでしょう。だっていきなりそんな事言われても、俺魔法や魔法見るの今日が初めてなんですよ?」


「魔法使いには魔術師と違って色んなものが感じ取れる。特に同族、魔法使いの匂いはよくわかるんだよ」


「匂い?」


スンスンと俺は自分の身体の匂いを嗅ぐ。それでもさっぱりわからないが。

それはを見たアギルはふふふっと笑った。


「匂いというのは言葉のあやだよ。実際に匂いを感じるわけでは無いが、まあ、簡単に言えば勘というやつさ」


そうだな…とアギル空に向かって指を指した。


「試しにあそこにブラッドバードがまだ1匹いるだろう。あれに向かって魔術でも魔法でもいいから撃って見ろ。君ならできるはずだ」


アギルが指を指した方を見ると、確かにさっきの生き残りが居たのか、運良く無傷なブラッドバードが1匹いた。まだこちらを見ていて、今にも飛びかかって来そうだ。


「ええええ、ちょっといきなり過ぎませんかね?!それにやり方を知らないし」


「君は私の助手になるんだぞ?このくらいできなくてどうする。大丈夫だ。今まで私が唱えた呪文をそのまま言ってみろ」


唐突な無茶ぶりをされ、とりあえずさっきアギルが答えた呪文を思い出してみる


「えーと、紫電よ、貫け?」


瞬間、バチバチバチ、と俺の身体から電気が帯電し、目の前の方向のブラッドバードに向かって落雷が落ちた。


「グビァァァァァァァァァ」


さっきのアギルが放った時とは比べ物にならない威力の電光がブラッドバードを貫いた。


「…これほどとはね。まさか同時に精霊の力も使って魔術の威力を底上げするとは驚きだよ」


アギルは俺の方を驚愕の目で見ている。

え?なんか知らないけどすげえ威力の魔術が使えたんだが…。


「君、本当に初めてか?明らかに初心者の出せる威力じゃないんだが」


「本当に初心者ですよ。魔術も魔法も知らなかったし、なんなら今一番驚いてるのが俺ですからね?」


これは本当に驚きだ。まさか自分に魔法と魔術の才能が本当にあったなんて。


「ふーん。そうなのか。これはますます君が興味深いね」



「あの、人を実験動物みたいな目で見るのやめてくれません?」


「いやいや、君は大事な助手だからね。実験動物なんてとんでもないよ」


そう言いながら俺の方をニコニコしながら言っているが、目が笑っていない。なんか怖くなってきたんだが。


「ああ、そろそろ着くよ」


そう言われ、前を見ると大きな都市が見えてきた。いつの間にかもうこんなところまで来ていたんだ。


都市は城壁に囲まれており、一つ一つが頑丈そうな作りだ。俺たちはその城壁の前にある大きな門の前で降りる事になった。

降りる時はゆっくりで、穏やかに地上に戻ることができた。


「お、魔法使いだ」

「珍しいな。しかもあいつは白魔女じゃねえか」

「マジか…相変わらず真っ白だな」

「隣にいる奴は誰だ?白魔女はいつも1人でいるって有名なのに」


門の前には多くの人が立ち並んでおり、空から降りてきた俺たちを奇妙な目で見ている。特にアギルは目立っており、その隣にいる俺も視線が痛い。


「この辺りは国に入る門なだけあって人が多くてね、戦いから帰った冒険者や旅人や商人がごった返しているのさ」


アギルはそんな視線をものともせず、まるで何も無い物のように全く気にしていない様子だ。


「俺は生まれてから村から出たことがなかった。だからこういうのは初めてですね」


「そうか。ならこれを機会に慣れると良い。都市に入ればもっと人が多くなるからね。私も人混みはあまり好きじゃない」


なるほど、たしかにアギルは目立つ。この見た目と独特の雰囲気というのだろうか。人混みが好きじゃなくなるのもなんとなく察せる。


そんな風に視線を受けながら、やっと門に入れた。入る時に門番らしき人がアギルを見て、「これは魔法使い様!」とペコペコしていたのを見ると、アギルは相当この国じゃ偉い人物なのだろうか。もしかして俺ってかなりすごい人と一緒いるんじゃ…。そんな風に考えていると、アギルが不思議そうに俺の顔を覗いてきた。


「どうした?やはり新しい環境で不安なのかい?」

「いや、なんでもないですよ」


「ははは、大丈夫。君の安全は必ず私が保証するからね」


そうじゃないんだが…まあいい。

新しい環境で不安じゃないかと言われたら嘘になし。


門の中に入り、やっと都市についた。

ここがトリスか。大陸の中心地なだけあってか、なかなか賑わっている。


しばらく歩いていくと、人通りが少ない場所に着いた。なんとなく雰囲気が暗く、さっきの場所とは全然違う。


アギルは更に暗い路地裏に行くと、行き止まりの前で止まった。


「そこは行き止まりですが?」


「開け、隠蔽の扉よ」


アギルがそう唱えると、何も無かった行き止まりの壁が急に開き、そこにドアが出現した。


「また魔術か…。便利だなほんと」


「わかってきたじゃないか」


アギルはニヤッと笑いドアを開いた


「ようこそ我が家へ。カール君」


こうして、俺の魔法使いとしての第一歩が始まった

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