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始まりと出会い


「ハァハァハァハァ」


迫り来る足音。後ろから巨大なイノシシが襲ってくる。イノシシは怒り狂っており、あんな巨体で突進されたら一撃で死んでしまうだろう。


「くそ、なんで俺がこんな目にぃぃぃぃ?!!」


半泣きになりながら思い出すのは1時間前。俺、カール・グレムリンが部屋でまだ寝ていた時だ。時刻は午前11時。本来なら昼の支度をしなければならない時間だが、今日は休日だしゆっくりベッドの上でゴロゴロしていたいのだ。


「フゥ〜この時間がまさに至福だな。うるせえババアも今日はいないみたいだしこのまま2度寝して…」


「カ~〜〜ル!!!!あんた何時まで寝てんだい!??」


いきなり部屋のドアが開かれ、俺の母さん、カール・フィーラが登場した。


「母ちゃん?!今日は用事あるからいないんじゃなかったのかよ?!」


「な~に寝ぼけたこと言ってんだい?!それは早めに終わったから帰ってきたんだよ。そしたらアンタのこの有様さ」


フィーラは鬼の形相で俺を見ると、首根っこを掴んで部屋から引きずり出された。


「痛い痛い痛い。母ちゃんなにすんだやめろ!!」


「まったくアンタは!今日は父ちゃんと狩りの約束してたろ!」


「あ」


そうだった。今日は久しぶりに父ちゃんに狩りの練習につれて行っても貰える約束だったんだ。なんで忘れていたんだろう。


「やべー忘れてた!今行く!」


「父ちゃん呆れてたよ。なんでアンタから行きたいって頼んでたのに来ないんだって…」


罪悪感に身を包まれながら俺は急いで狩りの支度して家を出た。


「カール!行く前にこれ持っていきな」


「なんだこれ?」


フィーラに手渡されたのは黒いネックレスだった。黒い石には龍のような悪魔のような紋様があり、一見不気味だ。


「アンタが狩でも万が一死なないようにするお守りさ。そいつを肌身離さず持ってな」


「母ちゃんのファッションセンスって残念なんだな…。それに狩りぐらいじゃ死にはしねーよ」


こんな黒魔術師みたいな趣味の悪いネックレスを持つ趣味が母ちゃんにあったなんて知らなかった。


「馬鹿言ってないでさっさと行きなぁ!!」


「ぐふっ」


フィーラに背中を蹴られて家を出る。狩りの場所は俺が住んでる村から少し離れた森にあり、まっすぐ森を歩いていくとある。途中スライムやクサガエルと言った低級モンスターもいるが、コイツらは基本的に温厚なので襲われたりはしない。襲われたとしても弱いから俺でも倒せる。


そうして森を歩いていくと、やっと狩場のキャンプ地についた。ここは父ちゃんに教えてもらった場所で、村で共同で使われている。


「やっと来たかバカ息子」


「ごめん父ちゃん…寝ちゃったテヘペロ」


「テヘペロじゃねえ!!お前が狩りに行きたいってせがむからわざわざ時間作ってやったってのになんだそりゃ!!ったくこいつは」


グチグチと説教が始まった。父ちゃんの説教は始まると長い。だからテキトーに流すのが吉なのだ。


「大体な!お前なんだその格好は!それが狩りに行く装備か?!ピクニックじゃねえんだぞ!!」


「別に大丈夫だろ。この先に出るモンスターだってせいぜい4級だし」


「狩り舐めんてんなお前?そんな軽く言うけど、4級のモンスターと戦ったことねえだろうが」


「見たことはある。遠くからだけど大した事なさそうだったぜ。父ちゃんだって余裕倒せるんだろ?」


「ばーか、余裕なもんかよ。毎回命懸けで戦ってんだよ。下手したら死んじまうくらい危ないんだよ」


親父は呆れた顔でそういうと、キャンプにあるテントを指さした。


「まあいい、とりあえずキャンプにある狩り用の道具に着替えてこい。その装備じゃ危険だ…ん?カール。そのネックレスはなんだ?」


今更気がついたのか、父ちゃんは俺が首にかけてある怪しげな漆黒のネックレスを見て眉を細めた。


「これはさっき母ちゃんに貰ったんだ。悪趣味なネックレスだろ?なんかお守りらしいぜ」


父ちゃんはネックレスをじっと真剣な顔で見つめると、「そうか…」と呟いて目を逸らした。


「ん?どうしたんだ父ちゃん?このネックレスのこと知ってんのか?」


「いや、母ちゃんも悪趣味なもんだな。カール、それ外すんじゃねーぞ。お守りだからな」


母ちゃんと同じような事を言う。うちの両親はお守りなんて信じるタイプだったっけ?


キャンプ地のテントにある狩り用の装備を借りて着替えていく。モンスターがどれほど危険なのかは知らないが、少なくとも父ちゃんもいるし、そこまで大した危険は無いだろう。そう思っていた。


「ぎゃああああああああ!!!助け、助けて父ちゃーーん!!」


「バカヤロー!!あんだけ慎重に動けって言っただろうが!!」


そして現在にいたる。後ろには巨大なイノシシ。全長2メートルはあるだろうか。鋭い眼光を放ちながら俺に一直線上に向かって突進してくる。


「ヤバい!死ぬ!!死ぬよこれ!!俺まだ15歳で童貞なのに死んじゃうよこれ!!」


「馬鹿なこと言ってねえで走れ!いいか!この森を抜けた先に罠がある。棒が立っててひと目見たらわかるから、そこまでイノシシンを誘導しろ!!」


「罠?!そんなんあるなら初めから言えやクソ親父!!」


「その前にお前が「あの馬鹿イノシシ俺たちに気がついて無いから後ろからズドンしてくるわ!!」とか言って先走ったからだろうがああああ!!!!」


「うわああああごめんとおちゃぁぁぁぁぁぁん!!」


「この馬鹿息子がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


イノシシは俺だけに向かって突進している。ラムザは罠まで俺がもたないと判断したのか、弓を狙いすまし、放った矢はイノシシの足を正確に撃ち抜いた。


「グヒィィィィ?!?」


足を撃ち抜かれたイノシシはバランスを崩し、そのまま盛大に転倒した。

「よっしゃあ!!ナイス父ちゃん!!」


これでやっとイノシシの恐怖から解放される。そう思った矢先に自分がどこを走っているのか確認した。


「あれ?」


「カール!!そっちは崖だ!!」


ラムザの声も虚しく、俺は谷底へと落ちていった。











「おーい」


…なんだ?誰の声だ?

俺はどうなったんだ?確か崖から落ちて…


「おーい。生きているかい?」


「…ん。誰だ?」


「おお良かった。どうやら生きているみたいだね」


女の人の声だった。優しくて、大人っぽい落ち着いた声。誰だろうか

「まずこれを飲みなさい。少しは楽になる」


「ああ…ありがとう…ございます」


女から渡された瓶の液体を飲む。身体中が痛いのは崖から落ちたせいだろうが、今自分の身体がどうなっているかすらわからない。


「おおお!なんだこれ?」


瓶の中身を飲んだ瞬間、身体中の痛みや怪我がたちまち治っていく。こんな事があるのか


「ふふふ。ポーションを飲んだのは初めてかい?」


女の人は笑って言った。


「噂では聞いた事あるくらいで、実際に飲むのは初めて…ってポーション?!」


怪我から回復て落ち着いたからか、ようやく正常な思考ができるようになって気がついた。


「そんな高価なもの俺払うお金ないです。一体どうしたら…」


ポーションと言えば怪我や傷を治す薬として冒険者ギルドや神殿の間で重宝され、その需要故に高価な代物だ。俺みたいな田舎の村人1人じゃ到底払える物じゃない。


「代金は要らないよ。私も興味本位で君を助けただけだしね」


「興味本位?」


「ああ、その前にここは暗い。少し明るくしようか」


女の人は手をかざし、何かを唱え始めた。


「火の精霊よ、空を照らせ」


すると、薄暗かった周りが明るくなり、今まで話していた女の姿も見えるようになった。


女は全身に白いローブを来ており、顔はフードを被っていてよく見えないが、何となく雰囲気は20代くらいだろうか。今までに会ったことがない不思議なオーラを纏っていた。


「その格好にその不思議な力…初めて見るけど、あんた魔術師なんですか?」


「魔術師じゃない、魔法使いさ。まあ一般人にはあまりわからないだろうね」


そうなのか。魔術と魔法?

初めて見るものだし、正直イマイチよくわからない。


「私はアギル。魔法使いさ。今はちょっとした用事があってここに来ていてね。そこで偶然君を見つけたわけ」


「助けてくれてありがとうアギルさん。俺はカール。今更アレですけど、俺何も持ってないですよ?この変なネックレス以外は」


これは正直な所だ。所持金も家に置いてきてしまったし、返せる物なんてなにも無い。あるものと言えばさっき母ちゃんから貰った悪趣味なネックレスだけだ。


「君に対価は求めてないよ。言っただろう。君に興味があると」


「あーそういえば言ってましたね。興味って言われてもな。俺のどこに興味を持ったんですか?」


俺がそういうと女はおかしそうに笑った。


「1つ質問してもいいかな?君は今どこにいると思う?」


「どこって…崖の下でしょ?どこまで深いとこまで落ちたのか知らないけどさ」


「そうだ。それで「どこの崖の下」なんだい?」


「それはバルト村の近くの崖でしょ。俺も崖に来たの初めてだからよく知らないですけど」


「違う」


「え?」


「この近くにバルト村なんて名前の村は無い」


瞬間、俺はこの女が何を言っているのか理解出来なかった。俺は確かにバルト村近くの崖に落ちたはずだ。いやそうじゃなかったらおかしい。


「ここはマーリア大陸南西にあるシモビラ森林だよ」


「マーリア大陸?いやここはネモス大陸でしょ」


女は俺を不思議そうにじっと見つめると、何かを考え込む様子でブツブツ言い始めた。


「打撲による記憶喪失?…いやもしかしたら…」


「…?マーリア大陸って言ったら五大陸で一番ネモス大陸から離れてるとこだろ。俺は生まれてからネモス大陸から出たことすらないですよ。さっきからなんの話をしているんですか?」


アギルは真面目な顔になり、しばらくするといきやりニヤリと笑った。

「君の怪我はポーションで完全回復しているはずだがな…しかし面白い」

「面白い?なにがです?」


「はははは、君も見てみればわかるさ」


アギルはそういうと、なにやら先程と同じように呪文を唱え始めた。

「風の精霊よ、我らを拾え」


そう言うと、いきなり辺りが風で包まれた。風は段々と穏やかになっていき、気がつけば身体が宙に浮いている。


「おおお?!なんだこれ?!また魔法?!」


「じっとしていなさい。今から崖から「地上」に出る」


アギルと俺の周りに包まれていた風は一気に2人をすくい込み、上昇する風の流れにそって一気に上まで飛んだ。


「すげえ!!」


あっという間に崖を抜け、地上まで抜けた。

しかしそこで見える景色は今までとはまったく違う、知らない風景だった。


「嘘だろ…ここは…どこだ?!シモビラ森林は?バルト村は…?!父ちゃん…母ちゃんは?!」


そこに広がるのは確かに森だったが、明らかにシモビラ森林では無く、見たことが無い植物や動物の姿があった。なにより、バルト村が見当たらない。


どうしていいかわからず、魔法によって空に浮いたまま景色を眺めることしか出来い。


「だから言っただろう?ここにはバルト村なんてものは存在しない。」


アギルという魔法使いが無慈悲な現実を淡々と突きつける。


「でも!確かに俺は昨日までバルト村で暮らしてたんだ!!嘘じゃない!!本当なんだよ!!」


「カール。落ち着け」


「ああ、きっとこれは夢なんだ。だってそうだろ。こんな現実ありえない」


死地での危機感、理解できない状況の連続。それによってカールの精神は限界だった。


「あんたも夢なんだろ?こんな変な格好しちゃってさ」


「へ、へんな格好?」


ちょっとショックを受けた様子だ。夢とはいえ変なやつだな。


「フード被ってるから顔も見えやしない。ちょっと見せてみろよ。夢なんだしいいだろ」


「ちょっやめろ!」


アギルの白いフードを無理やり開かせ、その素顔があらわになった。


「…すげえ」


フードから隠れていたのは真っ白な白髪の女だった。髪は三つ編みで、目も肌も白い。まるで雪の精霊のようだった。


「…人の顔を無理やり見ておいてその反応はなんだ?」


「いや、すごい美人さんだと思いまして」


本当にすごい。ここまで真っ白な人は見たことがないが、これほど美しい人は初めて見たと思う。


「…まあいい。とりあえず落ち着いたか?」


「あ、ああ」


確かに落ち着いた。さっきまでの動揺が嘘になるくらいには大丈夫だ。


「これは現実なんですか?」


「現実さ。これは幻惑魔法でも夢でも無い紛れもない事実だ」


「そう、なのか…」


この魔法使いが言うには現実らしい。実際に目の前で魔法を見せられたせいか、なんとなく言葉には説得力がある。しかしこれが現実だとして俺はこれからどうしたらいいのだろうか。ここはネモス大陸から一番離れているアーリア大陸だ。相当距離はあるし、何より持ち合わせが無い。なにより昨日まで親の保護下で生きてきた15歳のクソガキになにができるというのか。


「行く宛てがないなら、私の家に来ないか?」

「え?」

そうやって絶望していたとき、目の前の魔法使いから驚きの提案が来た。


「私なら君が家に帰れるまで匿ってやれる。もちろん働いて貰うがね。丁度助手が欲しかった所なんだ。それに、君がここにいる理由がわかるかもしれない」


グッドタイミング!みたいな感じのノリでこの白い魔法使いは言った。そんな軽いノリでいいんだろうか。しかし、他に行く宛ても無い。いきなり現れた魔法使いについて行くというのも正直不安

だが、この人は僕の命の恩人でもある。


「俺はあなたに命を救われた身です。1度死んだ命、少しでも恩を返せるなら。俺も今の状況の理由も知りたいですし」


「おお…急に礼儀正しくなったな君。まあ私個人としても君には興味があるし、そのネックレスのこともね」


「ネックレス?」


この悪趣味なネックレスに興味があるのか。


「ああ、その辺また私の家に着いたら話すよ。じゃあ決まりだね」


それにしても俺に興味がある?どういう意味なんだろうか。


「言っておくが、変な意味じゃないからな」


「あ、はい」


何となくわかっていたが、希望はむなしく打ち砕かれた。


「では行こうか。私たちの家に」


アギルはニコッと笑うと、浮いていた俺たちの身体が再びなぎはじめた。


「風の精霊よ、烈風を乗せろ」


そう詠唱し、さっきまでとは明らかに違う量の風が周りに流れ始めた。


これから俺はどうなっていくのだろうか。知らない土地、知らない人、知らない常識。それら一気にのしかかってきて、正直自分でもこれが正解なのかわからない。でも、今まで以上に、ワクワクしてる自分がいるのも事実だった。

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