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囚われの。

作者: 黒鳥からす

皆様こんにちは。お世話になっております。

からすと申します。

ところで、辞書の紙って薄いですよね。

だから何というわけではありませんが。


●〇●〇


 非日常。そんなものは日常的に溢れている。

 

 嘘。

 そんなことはない。


 日常は、日常だ。

 たとえそれが非日常だとしても、日常的に溢れているなら、それはもう非日常とは呼べない。

 一般論的に非日常だったとしても、主観的には日常に変わりはない。


 嘘。

 それでもやっぱり、非日常は非日常だ。

 たとえるのなら、日常的に〈化け物〉がいたとしても、〈化け物〉がいる時点でそれは非日常と呼ばれるものとなる。


 嘘。

〈化け物〉なんていない。

 いたとしても、それは日常を嫌う私の妄想。


 嘘。

 いる。

 それはほんの近く、人の死角にいる。


 嘘。

 それは私の妄想で、唯の虚勢。


 それも嘘。

 だけどそれも嘘。

 嘘。

 嘘。

 嘘。

 ……etc.


 そうやって私は何重にも重ねた分厚い嘘の殻に閉じこもって、今日も今日とてやり過ごす。

 私を知る人はいない。知れる人もいない。殻の中身には一人きり。外からも、内からすらも、破れないし 破られないし 破らない。

 だけれど、――――それでいい。


 知られることが、最も怖い。

 それこそ、死より。


 嘘、じゃない ……おそらく。

 これだけは本当 ……かもしれない。


 もう、自分ですらも、自分が解らなくなっている。

 だけれど、――――それが私。

 自分ですら理解できない自分が私。


 それでいい、はずだった。


 

●○●○

 

 

 とある学校の、とある教室。例に洩れず三十から四十余りの机と椅子が整然と並べ揃えられ、黒板には消し切れないチョーク跡が残る。

 日は傾き、後数十分もすれば、太陽はその姿を完全に隠すだろう。

「……ふぅ、どうしましょうか」


 一人の少女が本を閉じる。教室にいる唯一の生徒と思われる少女。

 パタン、と。大判の本は音を立てて閉じられる。

 パタン? バタン、だったかもしれない。それほどまでに本は大きく、分厚い。

 それはもう、その角が凶悪な殺傷能力を持ち始めるほどに。

 時に、本の角というのは、背に芯の入っているものは例外として、そのほとんどの場合『角』、つまりは表紙の開きの部分の『角』という名称の付いた場所が一番凶悪なのだ。

 本の角は、『角』が一番強い。そのまんまだが、面白い言葉遊びにならないだろうか。


 話を戻そう。

 少女は、凶器とも言える本を持っていた。ただそれだけを持っていた。否、それだけしか持っていなかった。

 それはひどく不自然な話だ。

 学校というものの存在理由を問おう。


 社会に出るための基礎学力をつける場か?

 人間関係の構築訓練の場か?

 集団生活に慣れる場か?

 それとも、〈普通〉を教える場か?


 それならば、その少女はそこにいるだけで、学校というもの存在を否定する。


 それが彼女、一夜 幻である。


 まあ、えらく仰々しく自己紹介をしたのはいいものの、実際のところ、少し境遇に難がありはしても、人付き合いが苦手で勉強嫌いなただの女子高校生に変わりはない。

 

 さて話を変えよう。

 ここから、物語を始めよう。


 始めよう、と言ってしまったが、兎にも角にも、この不可解な出来事について語る前に、まず現状の説明をしなければいけないのだろうか。

 単純に状況のみを説明するのであれば、『夕時の教室に、一冊の本だけを持った白髪の少女がいる状況』だ。

 少し違和感はあるが、なんということはない。夕時まで生徒が残っているのはそこまで珍しいことではないし、持ち物がHCの本一冊というのも納得しようと思えばできないこともない。


 一番不可解なのは、少女が白髪であるということだ。

 染めているのであればどんなに緩い校則をした学校であっても生徒指導の教員がそれはもう発狂寸前の勢いで問い詰めてくることだろう。

 たとえ地毛だったとしてもその存在感は強く、〈普通〉という周りと同じであることをある程度強要されてしまう学校という組織では、爪弾き者になってしまうことが想像に難くない。

 実際、今教室内にいるのは件の少女一人だけなのだから、この状況を見た者はほぼ全員がそういった類の感想を抱くはずだ。


 だか、ただそれだけだ。おかしくはない。


 それが現状況である。状況説明終了。


 話はまた変わるが、時に、物語は出会いから始まる。なんて言われることがあるけれど、それには少し賛同しかねる。

 だってそれでは、出会いがなければ物語が始まらないということになってしまうではないか。

 確かに、出会いは劇的な日常の変化につながる。けれど、その劇的な変化が大衆の興味を引くから劇となり物語となるだけであって、劇的な変化をさせるものが出会いでなければいけないということはない。


 つまるところ、物語の始まりは劇的であればいいのだ。

 その点、この不可解な出来事の始まりは劇的であったといえるだろう。

 

 何せ、放課後にちょっと本を読んでいただけなのに、教室に閉じ込められ、荷物は無くなり、自慢の黒髪まで色が抜けて真っ白になっていたのだから。


 そしてはや数十分が経過している。特に何が起こったということはない。相も変わらず囚われの美少女だ。

 自慢の黒髪の色が抜けた時点でもう色々と絶望してはいるのだが、戻ってくれるなら早く戻って欲しいし、出してくれるなら出して欲しい。だが、そんなことを考えたところで、伝える者もいなければ、解決案を思いつくということもない。手元にあるのは本一冊。

 

 これからどうなるのか。


 お気に入りの本を読みふけり、そこそこに落ち着いてきたところで、まず色々と脱出の策を講じてみないことには始まらない。


 どうにかなるものなのかは甚だ疑問ではあるが、どうにかなってもらわないと困るのもまた事実。


 どうだろうか。

 こんな劇的な始まりではあるが、これが物語になるかどうか。


 それは、これからの状況の変化次第である。


 もしかしたら、何事もなく出られて、いつかは忘れ去られる不思議な思い出で終わるのかもしれないが。


お読みいただきありがとうございます。


書きたいものほど書けないジレンマは、隣の芝生が青いからこそ美しく感じる心から。

哀しいですね。


もしどこかで面白いと感じいただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。

あとブクマとかも(強欲

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