少女の衣手は
新潟県庄内平野。
道路を車で走ればどの方向を見ても黄金色が拡がっている、そんな季節。
専業農家の数こそだいぶ減ってしまったが、兼業農家であってもこの季節は刈り取りのため会社も休みになるところが多い。
当然、開校記念日で学校が休みであった場合問答無用で手伝いに駆り出される。
「高校2年生の休みの日に、私、朝からなにしてるんだろう」
少女は、今朝日が昇る少し前から稲の刈り取りの手伝いに連れ出されていた。
コンバインで刈り取られた稲をまとめ、田んぼの脇の軽トラックに積み上げていく。
特に運動が得意なわけでもない少女にとってはなかなかの重労働だ。
やがて軽トラックがいっぱいになると、父はいちど農協へ運ぶためにアクセルを踏み込んだ。
少女も行きたかったのだが、乗車人数の定員……父、母、兄の3人が乗ってしまったためひとりで留守番することにした。
留守番といってもスマホでゲームをしたり本を読んだりしているわけにもいかない。こうべを垂れた稲穂は、スズメなどの鳥の好物なのだ。
田んぼの隅に設けられたボロ小屋の中の小さな椅子に腰を下ろすと、ちょうど覗き窓から外が見られるようになっているので、何かあればすぐに駆けつけられるようになっている。
普通、刈り入れは降りた露がなくなったくらいの時間からはじめたほうが米の味はよくなる。
もちろん少女の家族もそのことは分かっているので、この時間のものは全て自家消費する米である。
ふと、少女は服の袖が濡れていることに気が付いた。
きっと、稲を抱えている時に朝露がついたんだな
ボロ小屋の屋根を見ると、トタンの屋根がカタカタ鳴っている。
「トタンの屋根でも、袖は濡れるんだね」
それだけ呟くと、猛烈な眠気に抗えず、家族に起こされるまで眠ってしまった。
幸い、鳥は来なかったようで安堵した。
今日はまだ始まったばかり。
母が作ったおにぎりを頬張ると、太陽の味がする。
少女の袖は、その日はもう濡れることはなかった。