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オープンオタクと隠れオタク(夫婦)  作者: 加津佐の雪男
1/2

#01 究極の隠れオタク(妻)

キャラクター紹介


笠津かさづ敬一郎けいいちろう

主人公夫婦の夫。22歳。社会スキル、コミュ力、頭の回転とも高く周囲からも一目置かれる優良株。そして誰もが認めるオープンオタク。


笠津かさづ桜子さくらこ

主人公夫妻の妻。22歳。小柄なうえ童顔の美少女に見えるがれっきとした成人であり2児の母。仕事も家事もテキパキこなすスーパーウーマン。だが実は・・・。


笠津かさづ秋桜こすもす

主人公夫妻の長女。3歳。年齢の割にはしっかり者。大人の空気が読める。


笠津かさづりょう

主人公夫妻の長男。2歳。


●チェリ 

テレビでも活躍するプロコスプレイヤー。その正体は・・・。


笹塚ささづか幸久ゆきひさ

37歳。独身。何故かアニメオタクを忌み嫌っているため、オタクでリア充の敬一郎をいつも目の敵にしている。


山口やまぐち

26歳。敬一郎の上司である係長。肩書で追い越してしまった笹塚の扱いに困っている。


名取なとり

52歳。敬一郎とはなかよしな取引市場の課長。


山串やまくし喜多美きたみ

40歳。桜子の上司。肩書は部長。後輩の面倒見がいい、ふくよかな女性。笹塚幸久の実姉。


大岬おおみさき三会みえ

27歳。芸能事務所「ストライクフォックス」で、チェリが芸能活動する時のマネージャー。チェリをからかうのが好き。


笠津かさづかおる

61歳。敬一郎の実母であり、桜子の職場の社長であり、桜子の義母であり、桜子の良き理解者。孫が大好き。

❶むき身の夫と、仮面の妻


 笠津敬一郎は出勤すると()ずデスクが隣の先輩、山口係長に挨拶。

 それから向かい側にあるデスクの笹塚主任に挨拶した。

「笹塚主任。おはようございます」

「ふん」

 敬一郎の顔を見るなり不機嫌アピール全快の笹塚幸久(ゆきひさ)主任。

「おはようございます!」

「聞こえとる!2回も言うな!」

「いや、聞こえていないのかと・・・」

「オマエ、何回言えばわかるとな!。山口よりもオレが先輩ぞ!。先に挨拶するとが常識やろが!!」

 何言ってんだこの人、と思うが取りあえず、

「すいません。勉強させて頂きます」

 近くの若手職員は頭を低くしてヒソヒソ話をする。

「笹塚さんって、勤続年数どのくらいになるんですか?」

「たしか、15年くらいになると思うよ」

「でも主任ですよね」

「なんか問題起こして昇格取り消しを喰らってから上がらないんだと」

「山口係長にもあたりキツイんですねぇ。位はあっちが上なのに」

「年功序列が基本だと思ってるんだろ、たぶん」

「お前ら、さっきから何ば言いいよっとな!?」

 15年目主任の噛みつきに、ひそひそ話は打ち切られた。

 後輩の山口が先に係長になるなど、いろんな人に追い越された笹塚ではあるが、こと敬一郎に対する当たりは他の職員よりもキツかった。

「ったく、オタクが結婚できる世の中になって、なにもかも間違っとる・・・」

 なぜか、アニメオタクだという理由だけで敬一郎を毛嫌いしている笹塚。

 とはいえ、いちいちそんなことを気にするような人間ではない敬一郎。

 地元の農業大学校を卒業後、JA全農ながさき県に就職。長崎県の特産品、馬鈴薯を主に扱う部署「特産課」に配属されもう2年たっていた。

 そして敬一郎は今やこの特産課期待のホープにして、職場が認めるガチのアニメオタクだった。

 敬一郎は何食わぬ顔で、デスクに座ると今日の予定の確認をしつつ、ラップトップの電源を入れた。


 同じころ、JA全農ながさき県のすぐ近くにある出島(でじま)大同(だいどう)青果株式会社に出勤した少女、いや正確には少女に見えるくらい身長が低くボブヘアーの童顔美女が女性上司の山串部長に挨拶をしていた。

「部長。おはようございます」

「おはよう!」

 元気に答えた山串部長は何かを思い出したそぶりをする。

「あ、そうだ・・・・。桜子ちゃんのダンナさん。アニメが大好きなオタク?なんだそうね?」

「え、あ、はい・・・」

 桜子はバツが悪そうに苦笑いする。

「あ、別にオタクを批判しているわけじゃないのよ~。ただね、私の弟の職場に重度のアニメオタクがいて、仕事もまともにできない天邪鬼って言ってるのよ~。アナタの旦那さんはそんなことないでしょうけどね~」

「あ、アハハハハ。どうなんでしょうね~・・・(どうしよう、ホントどうしょう・・・)」

 なぜか愛想笑いをしている笠津桜子は、会社が認める期待のホープであり、その可愛らしいルックスから「デジマの妖精」とまで言われていた。

 桜子は、自分のデスクに座ると、今日のスケジュールを確認しつつ、ディスクトップパソコンの電源を入れた。

 笠津敬一郎と、笠津桜子は夫婦である。

 ただ、ちょっと訳ありな夫婦なのである。


 3月のある日。

 敬一郎はテーブルに座る娘の秋桜こすもす3歳、息子のりょう2歳の夕飯の準備をしていた。そこに桜子の姿はいない。

「パーパ。マーマ、マーマわぁ」

「りょー。ママはね、お仕事でお泊りなの」

 秋桜が敬一郎の代わりに答える。

「さすが秋桜。ちゃんとお姉ちゃんしてるね」

 敬一郎はパスタを盛りつけ、梁には短く切ったパスタが用意されている。

「さぁ、食べよう」

 秋桜は梁の手を合わせてやり、自分も手を合わせた。

「手を合わせてください!いただきます!」

「いたたいましゅ!」

 テレビをつけてみる。この日は、ゲストのアイドルや若手女優が職場体験をする人気番組が始まっていた。

 今日のゲストは、タレントとしても大活躍している大人気コスプレイヤー「チェリ」。

 小柄で童顔の可愛らしいルックスに、様々なキャラクターのコスプレをしたり、最近は女優としても活躍していた。

 また浮いた話の一つもなく、どんな人でも人当たりがいいためテレビ関係者から一目置かれた人材だと言われている。

 アニメオタクである敬一郎ではあるが、好きなツンデレキャラをコスしたのをキッカケにチェリのファンとなってからは、この日のようにチェリが出演するテレビ番組は毎回チェックするようになった。

 今日は保育園の職場体験。

 チェリが保母さんのコスプレで園児たちの相手をしている光景が映し出されている。

 チェリはイタズラする園児を笑顔で注意したり、泣いてる子供の目線で優しく慰めていた。

 若いのに子供の扱い慣れてるなぁ、と感心する敬一郎。

『先生と一緒にあっち行こっか!』

 とチェリの声が聞こえると、梁が反応した。

「あー!マーマ!マーマ!!」

「アハハ。この人はママじゃないよ~(テレビで女の人見るとママって思うんだろうな、ハハハ)」

「そうだよ!あれはママじゃないんだよ!りょぉ!」

 テレビではスタジオでチェリが司会にインタビューされていた。

 司会から、子供たちの扱いが慣れてますね、と言われ、

『し、親戚の子のお世話したことがあるので~』

(おおおおお!リアルタイムのチェリだぁ!!)

 録画はしているが、生中継でファンが出演していると思うだけでテンションが上がる、ただのオタクだった。


 数時間後。

「もしもし、敬ちゃん。お疲れ様~」

『お疲れ様。どうだった、仕事は?』

 ”お疲れ様”というのは笠津夫妻のいつもの電話挨拶だ。

「うん。順調・・・・かな」

『でも市場勤務とは言っても、販促(はんそく)で東京なんて大変だね』

 販促(はんそく)とは販売促進(はんばいそくしん)の略である。市場(しじょう)卸業(おろしうりぎょう)が取引している量販店などで販売している野菜などの魅力や調理例などをアピールして消費促進を図る活動である。

 桜子は昼間、出島大同青果が参加していて桜子が役員として席を置く市場部会(複数の市場が集まって活動する組織のようなもの)の販促活動の一環で東京の量販店で販促活動をしていたのだった。

「そ、そうでもないよ。東京の出張なんて私、多いし。あ、秋桜と梁は?もう寝た?」

『アハハ、さっきまで部屋を走り回ってたけど、疲れたのかすぐにコロンって。夕飯後に歯磨きさせて正解だったよ』

「あはは。明日も先方と会議だから帰ってくるのは夕方くらいになると思うの。秋桜たちのお迎え大丈夫?」

『うん、大丈夫。夕飯も用意して待ってるよ』

「ありがとう敬ちゃん・・・・・・」

 ふと、無言になる桜子と敬一郎。

(何か言わないと・・・・電話切っちゃいそう)

「あ、あのさ、今日、敬ちゃんが好きなコスプレイヤーの女の子がテレビに出てたよね」

『そうそう、チェリが出てた番組!!。ちょっと前からチェックしててさぁ。ちゃんと録画したけど秋桜たちと夕飯食べてるときに見れてラッキーだったよ』

 興奮気味になる敬一郎。オタクスイッチが入った。

『テレビ越しだったけど、ライブでチェリ見れただけでも感激した~。それにさ、若いのに子供の扱いに慣れてて、なんか親戚の子供の相手してたから、って言ってたけど、普通の人だったらそれだけで得意になる事って普通ないよなぁって思ってさ、やっぱりチェリってスゲーなーって』

 そこまで行って敬一郎はハッとした。

『ご、ごめん。なんかオレばっかり・・・。あんまり興味ない話だったよな・・・』

「いいよ、大丈夫。敬ちゃんのサブカル好きは地元じゃ有名だもん。気にしないよ。・・・私はアニメオタクと結婚したんだから」

『うん、ありがとう』

「あ、もう11時だね。明日もあるから、この辺で切るね」

『うん、おやすみ』

「おやすみなさい」

 赤電話マークをタップしてスマホをベットの上にポンと投げると、軽くため息をついた桜子。

 スマホの近くには、先ほどのスタジオ生放送でチェリが着ていた衣装が畳まれていた。

 昼間の販促活動の後、夕方からさっきまでテレビでの生収録があったのだ。

 笠津桜子、22歳。

 彼女は若くして2児の母であり、敬一郎を支える良き妻であり、出島大同青果の期待のホープである。

 だがその正体は、動画配信をすれば2日で100万再生を叩きだし、今やテレビでも大人気のプロコスプレイヤー「チェリ」だった。そして敬一郎と同じガチのアニメオタクである。

 ただ一つ違うことは、桜子がレイヤーでありアニオタであることは、ほとんどの人が知らない「究極の隠れオタク」ということだった。それは彼女の交友関係や職場だけでなく、子どもたち、さらには驚くことに敬一郎ですらそのことは知らない。

 明日の「先方と会議」というのは芸能関係者との会議だった。

 桜子はベットに潜り込むと膝を抱えこんだ。

「私、このままでいいのかな・・・・」

 敬一郎は隠し事もしないオープンな夫、だけど自分は仮面を被った妻。

 ここに桜子は罪悪感を感じていた。

 そんなことを考えていると、次第に意識が落ちていった。


❷ファーストインパクトは・・・・

 桜子は長崎県島原市の「島原農芸技術高等学校」通称「しまのぎ」出身。

 小学生時代から親に黙ってオタ活をはじめ、中学生にして隠れてレイヤーデビューをした桜子であったが、元々の内気な性格が災いし友達はおろか唯一の家族である母親すらオタクレイヤーとしての正体を知るものはおらず、同時にレイヤー「チェリ」を知るものはその正体が桜子であることを当時は誰も知らなかった。地方都市ならではの”誰も気づかれない”状態だった。

 本来の桜子はスーパー引込み思案なうえ高校では前髪をおろしてメガネをかけていたため、暗い印象で周囲からは距離を置かれる存在だった。

 農業系高校は、昔は「実家が農業の生徒が通う」イメージが先行していたが、近年は農協や行政農林課への就職、生物研究機関への就職に有利と言われるようになってからは非農家であっても進学する学生が今や多くなっている。

 桜子は全農への就職を目指していたが、同級生と会いたくなかったことから地元から進学する人が多かった大村市の園芸学校ではなく、知人が少ない「しまのぎ」に進学したのだった。

 農業系高校は選んだ学科がそのままクラスとなる。

 敬一郎とは同じ施設園芸課のクラスメイトとして出会った。


 ある日、クラスカースト上位の女子たちに因縁をつけられた時に助けてくれたのが敬一郎だった。

 オタクの性格をバカにして去っていくイジメ女子達に平然な顔をした敬一郎。

 助けた理由を聞いてみると「実は前から気になってて、助けなくちゃと思った」とストレートに言われた。

 その日から友達として敬一郎と遊ぶようになった桜子は、次第に明るくなり、小人数ではあるがクラスで同姓の友達も出来た。

 そして、1年生の冬休みに入ってすぐのクリスマスイブ。

 どちらも母子家庭であり、夜はどちらの親も仕事で不在だったために、敬一郎は桜子の家に初めて遊びに来ていた。

「あの・・・・つ・・付き合って・・・・・くだ・・・・さい」

 引込み思案だった桜子は持てる限りの勇気を振り絞って告白した。

「よろこんで」

 笑顔で返す敬一郎。

 この時、桜子はもう一つ告白をするつもりだった。自分も実はオタクであることを。引込み思案なせいで自分の好みまで隠してしまっていたが、彼氏に隠し事はしちゃいけない、と思った。

 何より好きになった異性と、楽しくオタクトークしたい、そう願った。

「あの・・・・・・・私も一緒の趣味、してたら・・・・う・・・・・嬉しいかな?」

 桜子はこの時の質問を今現在でも後悔している。なぜならその時の答えがこうだったからだ。

「オレは自分が心底アニメが好きな気持ちでオタ活してる。だから()()()()()()()()()は、そんなオレに無理に合わせる必要はないよ」

 笑顔で返す敬一郎に、桜子は何も言えなくなった。

 そこでもっと強くオタクアピールすればよかったのだが、余計に気を使わせると思った。その笑顔を見せられたら、私もオタクなの、と言いづらくなってしまった。

 また、はたしてこんな私はオタクなのだろうか?、と思ってしまう自分もいた。

 人によっては、何て鈍感なの!この人!、と思うかもだが、ここは桜子の引込み思案が災いする。

 自室のクローゼットに詰め込まれたコスプレ衣装を見せられないまま。


 同じころからコスプレしてダンスしたり、小遣い稼ぎを兼ねて色んな事に挑戦する動画配信をするようになった。

 お小遣いをやり繰りしながらオタ活していたが、敬一郎と付き合うようになり何かと物入りになったためアルバイトも考えたが、母親から禁止されていたためだ。

 動画配信するにあたっては、身バレの心配もあったが、元々あまり目立つ存在ではなかった桜子。メガネをコンタクトにし、メイクをしてウィッグを被れば誰もその正体が桜子とは気づかなかった。

 意外と視聴カウンターは回らず当初の数か月は広告もつかなかったが、とある高校生のオタクがチェリの動画リンクをオタク仲間のSNSに推し広めたことから一気に人気が上昇し、2か月後には動画配信の広告収入を得るまでに大人気となった。

 その高校生というのも敬一郎だった。

(敬一郎君、もしかして私の正体に気が付いた?)

 と思った桜子。

 久しぶりのデートの際に思い切って聞いてみた。

「敬一郎君、この動画なんだけど・・・」

 自分(チェリ)の動画チャンネルのページを敬一郎に見せた時だった。

「あ、チェリの動画配信だね!。いいよね。タイムリーなアニメのコスしてくれるし、ダンスはまだまだ練習がいるけど、頑張ってるのが伝わるし。オレ、ファンなんだ~」

 実はこれ私なの、と言おうとした瞬間、敬一郎の一言に気持ちと言葉を遮られた。

「でも、オレは桜子の方が好きだなぁ」

・・・・・・・・・・・・

(はぁぁぁぁ!!???)

 桜子は赤面しながら驚愕した。そして呆れた。というか、なんでそんな事言うの?と思った。

 『もしかしてチェリの正体は桜子?!』という答えを期待していただけに余りに予想もしていない変化球に対応が出来なかった。

 敬一郎の中で 桜子>チェリ ということであるなら、

(私がチェリでーす、って言っても敬一郎君は驚いてくれない?・・・・)

 でも地元では友達もあまりいない引込み思案の桜子と、動画で人気急上昇のコスプレヤー・チェリが同一人物であることに気づかないというのはただの鈍感というより、笠津敬一郎という男は何か感覚がズレているのではないか?、と疑うようになった。

 それは後ほど確信に至る。


 2年生の11月。毎年この時期に行われる島原農芸技術高校の文化祭にあたる「しまのぎ祭」の施設園芸課の出し物として、実習で採れた野菜を使った料理を提供するレストラン風カフェの企画があがった時、クラスの男子から「女子生徒にメイド服を着せてやらせよう」と言う意見があがったのだが、女子生徒は「えーー!」「恥ずかしいよ!」と、やりたくない様子。地方都市ではよくあることだ。

 そこでアニメ好きである敬一郎の意見が尊重されることになったが、その答えがこうだった。

「女子生徒がやりたくないなら無理にやらせるのは良くない。コスプレはやりたい人が楽しくやらないと意味がない」

 男子生徒からは期待していただけに呆れられるが、女子生徒からは賞賛の声が上がった。

 敬一郎はアニメオタクであるが、周りにはアニメを布教させようと思わないタイプのアニメオタクだった。実際、地方都市にはこのタイプのアニメオタクは存在する、オープンオタクなのに『隠れオタクのような性格』だったのだ。

 敬一郎の意見により、男女のイザコザも起きることなく、結局地元野菜を使った弁当の屋台を出店することになったのだった。

 また蛇足だが、敬一郎の「コスプレはやりたい人が楽しくやらないと」言う意見をキッカケに後にコスプレにハマる女子を生み出していた。

 アニメオタクだが過度にアニメを布教するでもなく、勉強も運動も農業実習も何でもござれな敬一郎は瞬く間に女子生徒の憧れの存在になった。

 桜子は彼氏の、敬一郎の周辺に認知されていく事の誇らしさを感じる反面、他の女子生徒にチヤホヤされる敬一郎を見ると胸が苦しくなり距離をとるようになる。

 これにより余計に自分=チェリであることを告白する機会を逃してしまう。


 桜子としては倦怠期気味になってきた高校3年の2月。

 この頃には一途に自分に好意を持ってくれている敬一郎に、()()()()()()()()()で彼女を()()()ようになっていた。

 卒業を控えた2月上旬。卒業旅行として2人だけで大分の九重に旅行し、一緒にスノーボードを楽しんた夜。

「結婚しよう」

 お風呂上りに、ストレートに言われ、泣きながら「はい」と答えた。

 お互い18歳にはなっていたので、入籍をして筑後桜子は笠津敬一郎の妻「笠津桜子」となった。

 敬一郎は地元長崎県の農業大学校への進学が決まっていたので、結婚式はしなかった。

 敬一郎のアルバイトで貯めたお金で10万円くらいのペアリングを2人で相談して購入し、これを結婚指輪としてお互いの左薬指に通した。


 桜子は進学はせず、出島大同青果株式会社に就職することになった。

 しかし、ここで問題が起こる。

 4月下旬、突然気持ち悪くなり病院で診察してもらったときの事だった。

「おめでとうございます。おめでたですよ」

 笑顔の医師に対して、桜子はかなり反比例して青ざめた表情になっていた。

 学生の夫を支えるにはその時の動画配信広告収入では心もとなかったため就職の道を選んだが、まさかここで自分が妊娠するとは・・・。

 やることやったから因果応報と言えばそうだが、桜子は『どうしよう』と不安に打ちひしがれていた。

 敬一郎に妊娠を報告する勇気はないし、隠れてオタ活をしている自分にはこんなことを相談できる人間がいなかった。

 翌日、出勤した時に直属の上司である山串部長にソワソワ不安そうにしていることを指摘された。その上でこう言われる。

「何に悩んでるのかわからないけど、まずは一度、社長に報告してみなさい。この会社は女性の社会進出に肯定的な青果業だから、たぶん力になってくれるわ」


 言われるがまま、社長に会いに行く桜子。

 社長に会うのは面接試験以来2回目だった。

 そしてすんなり社長室に通された桜子。

「あの・・・・(わたくし)事ではありますが、この度、妊娠いたしました・・・・」

 勇気を振り絞って、告白する。

「まぁ、それは良かった!。早速お祝いしなくちゃ!!」

「あ、でも社長。私まだ入社したばかりの平社員ですし、秋ごろには産休に入らなくちゃいけないので会社に迷惑が・・・」

「迷惑じゃないわ!。だってせっかく孫の顔が見れるんですもの!」

「は???・・・・」

 中国語にロシア語で返されたような、全くかみ合わない返答に、桜子の思考は一瞬で停止した。

(孫??まごって何?。社長のお孫さんも生まれるから、おめでたくて機嫌がいいから、ってこと????)

 でも、自分のそれとは関係ないのではないか。

 困惑したままの顔を表示させて続けている桜子に、社長は悪戯っぽく微笑んた。

「アナタを診察した女医さん、私の古い友人なのよ。フライングしてそのことを教えてくれたわ~♪」

 桜子はいきなり過ぎる展開や自分の個人情報がこんなところで露呈していることに混乱する。

「笠津桜子さん」

「・・・・・・・・・・」

「桜子ちゃん!」

「は、はい!!・・・・・」

 宙に浮いていた意識を一挙に引き戻されて、冷や汗をかく桜子。

 その時、桜子は社長のふくよかな胸に乗っかてる名札が目に入った。

 出島大同青果株式会社 社長 笠津かおる

「・・・・・か・・・・・か・・・・かぁ!?」

 桜子の冷や汗は大汗になっていた。

「笠津ぅぅぅ!!??」

 笠津、なんて苗字はそんなに頻繁に見る性ではない。しかし目の前の社長はまさに「笠津」だった。

 うかつだった。思わず頭を抱える桜子。

 面接試験の時は緊張して、社長の名前は見ていなかったうえ、今の今まで仕事に夢中で名前すら憶えていなかった。

「忙しくて封書で送られてきた保護者同意書に名前だけ書かせてもらっただけだからね~。たぶん桜子ちゃん、私の名前に気づいてないって思ったけど♪」

 悪戯っぽく笑う馨。そして冷や汗と共に震えだす桜子。

「も・・・・・も・・・・・申し訳ありません!社長!。いや、お義母様!!」

 その場で土下座する桜子。

 敬一郎から「母親は小さな会社を経営している」程度しか聞いておらず、忙しいとのことでなかなか顔合わせできないまま入籍してしまったため、桜子はこの時初めて義母に会った。

 正確には面接の時点で一度顔は合わせているのだが、その時は桜子は社長がのちの旦那の母とは知らず、馨も当時は息子の後の妻になる女性だとは思っていなかったのだから、ファーストコンタクトは今と言える。

「もう!、女の子が土下座するんじゃありません!。それは敬一郎の役目でしょ!」

 桜子を諭して、時間をかけて落ち着きを取り戻させた。

「重ねて申し訳ありません、お義母様」

「大丈夫、気にしてないわ。むしろ私の存在に気づいていなかったのは知ってたから、ちょっと楽しんじゃった♪」

 舌を出してウインクする義母に半分安堵、半分呆れる桜子。

「ともかく、悪阻つわり等による業務離脱の配慮、及び産休・育休の取得は予定通り認めます。そのあとの職場復帰も自分のタイミングで構いませんよ」

「お義母様・・・」

「私はアナタが笠津家の嫁となってくれたことと、孫の顔を見せてくれる事だけで本当にうれしいの!。あ・・・・・ただ・・・・」

 急に悪魔のごとくニヘラと笑った義理の母に寒気を覚えた桜子。


 その週の土曜日に敬一郎は嫁の妊娠を聞かされるも、出島大同青果に呼び出され

「こんなかわいい子になんて事するの!」

「もっと計画的にしなさい!」

 など、小一時間ほど説教を喰らい、その間土下座だったことは言うまでもない。


そんなこんなで、無事その年の秋に長女「秋桜こすもす」を出産。更に20歳で長男「りょう」も誕生した笠津家。

 敬一郎は農大卒業後、JA全農ながさき県に就職。

 桜子は梁を保育園に通わせられるようになってから、前々からオファーされていた「チェリ」として芸能活動も始めた。そこにも義母であり社長である馨の存在が大きい。

 さすがに協力者には秘密を告白して協力してもらわなければ、さすがに活動は無理だった。なので笠津馨は桜子がオタクでプロコスプレイヤー「チェリ」であることを知る数少ない人物である。

 ちなみに馨はオタクではないが、息子が重度のオープンオタクなので桜子の趣味趣向に理解があった事も協力してくれる要因の一つだった。


❸そして現在の隠れオタク妻は

『チェリちゃーん、おーきーてー』

 ホテルの廊下からまるで小学生のお迎えみたいな声が聴こえ、高校時代の夢から目を覚ました桜子(22)。

 目を擦りながらドアを開けるとスーツの女性はニヤニヤしていた。

「遅いよチェリちゃん!。1時間後、ロビーに集合ね!」

「もー・・・・早いよ大岬さん・・・・」

 バスローブがはだけた格好に、おしとやかな桜子の双岡が見えた。

「たいして大きくもないから見せても興奮しないなぁ」

「!!!!!!!!!!!!!!!!」

 桜子は慌てて自分の哀れな姿に屈みこんで部屋に引っ込む。

「もう!、大岬さんのバカ!!。私もこの前まで大きかったんだから!!」

「ハイハイ、梁ちゃんが生まれた時の期間限定ね。ごちそうさまでした~。1時間後ね~」

 マネージャーの大岬は手を振りながら先にロビーに向かった。

 1時間後、ロビーに来たチェリは「そんなに小さい方じゃないんだから」とブツブツ言っていた。


 同日、夕方。

「ふぅ、ただいまぁー」

 玄関に入ってきた桜子は力を振り絞って声を出した。

「ママ!お帰り~!!」

「マーマ、マーマ!。おかえい!!」

 我が家の天使2人が出迎えると、さっきまでの疲労感が一瞬で消え去る。

 奥からはエプロン姿の敬一郎も出てきた。

「おかえり」

「うん、ただいま・・・」

 敬一郎は桜子のお土産やキャリーバックを持ってあげた。

「ありがと」

「昨日はテレビでチェリを見てから、『 私もコスプレイヤーになる! 』って宣言してたよ」

 嬉しそうに秋桜の頭をなでる敬一郎。

「へ、へぇ。さすが敬ちゃんの娘だね・・・(わ、私も喜んでやりたい!、やりたいけどここは我慢ガマン・・・)」

 内心大興奮の桜子。

「それに梁がさ、その時のチェリ見て「マーマ」だってさ♪。同じ可愛い系美人だからそんな風に見えたんだろね~♪」

「あ、アハハハハ・・・・・(ダメだ、この人。全然気づいてない・・・)」

 とてもうれしそうに話す旦那に、桜子はもう苦笑いするしかなかった・・・。

 高卒後から今まで隠れオタクを打ち明けるタイミングはいくらでもあったが、超絶鈍感な敬一郎とタイミングが悪い桜子。その4年間、ズルズルこの状況を引きずってしまいある意味夫婦倦怠期より重症かもしれない。


 同日、午後10時。

 敬一郎が2人の天使を寝かしつけてくれているタイミングで、桜子は1人湯船の中で天井を見上げていた。

「もう、これだけアピールしているのに何で気付いてくれないの?、敬ちゃん・・・」

 ボソッと出た言葉。でも心は複雑だった。

 自分も夫とオタ活をしたい反面、世間的には非オタクを貫きたい自分がいて、だから自分からオタクを打明ける気になれず、でも敬一郎から気付いてほしいジレンマもあり、いま桜子の思考は大渋滞していた。

 でも、その中にありながら桜子の願いはただ一つ。

(・・・・・敬ちゃんとオタクトークしたい・・・・・)

 流れ出た雫は湯船に落ちて波紋を描いた。


❹急遽イベントはあらぬトラブルを招く

 4月某日。

 馬鈴薯の収穫・出荷が始まるこの頃に、全農ながさき県主催で、長崎県馬鈴薯出荷組合連絡協議会総会・馬鈴薯出荷協議会が行われることになっている。

 長崎県は北海道・鹿児島・に次ぐ全国3位の馬鈴薯出荷量を誇り、3~6月に出荷される春馬鈴薯の収穫量に関しては鹿児島と1・2を争う出荷量がある。

 当会議は生産者・農協・市場の連携を図るためと「これから一緒に頑張ろう!」という決起集会の意味合いもある。

 長崎県内各産地の総会に関しては担当している農協ごとに行われるが、長崎県全体の会合に関しては農協を取りまとめる立場にあるJA全農ながさき県が音頭取りをすることになっている。

 敬一郎はこの長崎県馬鈴薯出荷組合連絡協議会総会・出荷協議会の担当を任され、ここ一週間は大変大忙しだった。


 出島大同青果株式会社。忙しいのはこちらも一緒だった。

「社長、お呼びですか?」

 桜子は笠津馨社長の部屋に呼び出された。

「桜子ちゃん♪いらっしゃーい」

 いつになく嬉しそうな馨。小さな洋服を手にニコニコしている。桜子は嫌な予感しかしなかった。

「ねぇねぇ!。(りょう)ちゃんのお洋服に、と思って昨日買ってきたんだけど、どうかなぁ?」

「あ、あの、社長。頼みますから、会社では親子の会話はできるだけ控えていただきたいんですけど・・・」

「だってぇ・・私、忙しくて敬一郎の家になかなかいけないしぃ。こんな時じゃないと桜子ちゃんと会えないじゃなーい?」

「・・・・確か先週も家に2回来ましたよね?。一昨日も知らない内に来て帰ってましたよね・・・」

「だってぇ、タイミング合わないっていうかぁ、そういうのあるじゃなーい?」

「それで今日も内線使って呼び出したんですか・・・」

 4年前の入社直後に義理の母だとわかり、自分がオタクであることや芸能活動にも理解と協力を惜しまないため桜子としては頭の上がらない人物ではあるが、徐々に公私混同する馨の性格が露呈してきた。

 時々桜子を呼び出しては「秋桜ちゃんに~」「梁ちゃんが~」など、ただの孫が大好きなお婆ちゃん状態なのである。

 はじめのうちは引きつり笑顔で付き合っていたが、今ではジト目で突っ込むのが8割だ。

「で・・・・今日は梁の洋服選びですか?」

 若干投げやりな桜子に、孫息子に着せたい服を選びながらの馨。

「いいえ、今日はちゃんとお仕事よ~」

「あ、はい」

 ピシッとOⅬモードになる笹津家の嫁。

「明日の出荷協議会に行く予定だった担当者がね~、今日盲腸で入院しちゃって、いけなくなったの~。それでぇ、同じ部署で代役がいないーし。私が行ってもいいんだけどぉ・・・・」

(あ、これは・・・・貧乏くじ引きそうなパターン?)

 桜子の嫌な予感は的中した。

「桜子ちゃんが行ってくれない?」

「・・・・・えっと、明日なら時間は取れますけど、それってなんの会議ですか?」

「長崎県馬鈴薯出荷組合連絡協議会の出荷協議会よぉ」

「・・・・・・・・・・・・」

「長崎県馬鈴薯しゅ・・」

「なんで2回言おうとするんですか、お義母さん!」

「だって聞こえてないのかと思ったからぁ」

「聞こえてます!。それって・・・・」

「そうだよぉ。敬一郎が仕切ってる馬鈴薯会議ねぇ」

 ウインクする義母に(ハメられた!)と改めて貧乏くじを掴まされた気分の桜子。

「それで敬ちゃんと同じ会議に出ろと・・・」

 頭を抱える桜子。ニコニコの馨。

「あ、大丈夫よー。秋桜ちゃんと梁ちゃんのお迎えと夕飯のお世話も私が見るから、夜の懇親会まで頑張ってきて、夫婦で沢山の人にアピールしてきてーね♪」

 桜子はため息をついた。もうこの人に突っ込んだところで無駄打ちになるのは確定しているからだ。

「はい。わかりました・・・。出席しますよ・・・・」

「お願いねぇ」

(絶対、この状況を楽しんでるわ、お義母さん・・・)

 退室した社長室に背中を向けてデスクに戻る桜子の足取りは重かった。


 とは言っても、そこは桜子。早速翌日の馬鈴薯総会に向けての準備を始めた。

 明日の来賓として呼ばれている担当者は「土物(つちもの)部」。でも自分は「蔬菜(そさい)部」で専門ではないからこそ、ちゃんとした準備が必要だと考えたからだ。

 桜子の所属する「蔬菜部」はレタス、白菜、キャベツ、ブロッコリーなどの葉物野菜を中心に取扱い、卸先(おろしさき)のオーダー処理、産地から出荷される野菜の仕分け等々、様々な仕事がある。

 出島大同青果は「蔬菜部」の他に、馬鈴薯、玉葱、サツマイモなどの「土物部」。大根、人参などを扱う「根菜(こんさい)部」。トマト、ナス、メロン、スイカ、イチゴなど果実野菜を扱う「果菜(かさい)部」。フルーツ全般を扱う「果樹部」。全体の総括や小規模分野の野菜を扱う「総括部」がある。

 まず桜子は、本来出席予定だった担当者の資料やカンペを見せてもらおうと「土物部」へ行ってみたが、その担当者は毎度カンペは用意せず口頭で市況説明する、とのことだった。

 しかたがないので、馬鈴薯のここ最近の相場状況の資料だけ頂いた。

 あとはネットや過去の資料などを見漁り、明日の取りあえずのカンペを1時間ちょっとで作成。

 次は「蔬菜部」としての仕事。

 レタス産地のあるJA担当者へ翌日の出荷数量確認、明日(おろ)す予定の量販店との連絡。また、どちらも翌日の午後から別件で席を外すため、緊急連絡以外は控えて頂きたい旨も同時に説明した。

 桜子は高卒とはいえ、社会人5年目になる中堅社員である。女性に優遇された社風も相まってこの会社は女性の活躍が目覚ましいが、その中でも桜子の無双ぶりは群を抜いている。

 桜子はオタクとバレないように演技をしていた事から、自然と良き妻・良き社員も同時に演技していたのだ。

 これがアーティストやモノづくりのクリエイターだとうまくいかないのだろうが、こと社会人となると演技とはいえしっかりと実績と活躍を見せることで会社・社会の評価は上がるものである。

 本人としてはいたって普通の仕事をしている程度で考えているが、周りの社員は桜子のテキパキとした仕事っぷりに、ただただ感心するしかなかった。

 そのうえ人当たりもよく、誰からも好かれ、身長が低いうえに童顔という絶対的なスキルを持った彼女は会社の中で「デジマの妖精」「レタスの戦女神バルキリー」とまで呼ばれるようになっていた。

 それに関しては、恥ずかしいからやめてほしい、と思っている桜子とは裏腹にいまや取引先や生産者の間ではこの愛称で桜子の評判は広まっているのである。さむさん。


 翌日。

 敬一郎は馬鈴薯総会の会場となる長崎市のホテルにて、会場設営を仕切っていた。

 昨日は帰るなり「私も明日の会議に代理で出ることになったよ」と言われてびっくりしたが、すぐに「仕組んだのはお義母さんだろ?」と言うと(うなず)く桜子と2人で苦笑い合いをした。

 でも同じ会議に妻が来るとしてもそれとこれとは別。ちゃんと仕事はしなくては。

 全農に就職して3年目で未だ新人の域でもおかしくないが、持ち前のコミュ力と強い意気、回転が速い思考能力で次々に実績を上げ職場内でもかなり高い評価を頂くまでになっていた。

 今回の大きな会議の仕切りも来るべきしてきた抜擢だったのである。

 午後2時ごろ。

 会場入り口付近に来賓や参加者の受付台を設置して一息つくと、丁度ホテルでチェックインを済ませた市場担当者たちが続々とやってきた。

「お久しぶりです!。あ、お席はコチラの部屋に入ったら若いのが案内します。総会終了後にお呼び致しますので、どうぞごゆっくりお過ごしください」

 敬一郎は市場担当者を案内したり、初見の担当者とは名刺交換をした。

「敬ちゃん」

 出島大同青果の担当者代理、桜子もやってきた。

 敬一郎はニコリとほほ笑むと、さっそく仕事モードになった。

「ご出席ありがとうございます。JA全農ながさき県 特産課の笠津です」

 名刺を差し出した敬一郎。ハッとして桜子もポケットから名刺ケースを取り出した。

「この度は急遽担当者が欠席いたしまして代理としてやってまりました、出島大同青果の笠津です。よろしくお願いいたします」

 と名刺交換をして顔を合わせた。お互いちょっと照れているのか頬が赤い。

「名刺交換するの、初めてだね」

「アハハ、そうだな。・・・・っと、あちらの部屋で他の職員が案内いたしますのでどうぞ」

「はい、よろしくお願いします・・・(成り行きで引き受けたけど、敬ちゃんと仕事中に会えたの、なんか新鮮♡)」

 意外と悪くないな、と思った桜子は市場控室に入った。


 この会は「長崎県馬鈴薯出荷組合連絡協議会総会」と「長崎県馬鈴薯出荷協議会」の2部構成で行われる。

 長崎県馬鈴薯出荷組合連絡協議会総会は連絡協議会の決算・予算・事業予定の設定・役員改編などを行う場なので、市場は入れない。

 市場担当者が登場するのは総会あとの「馬鈴薯出荷協議会」からなので、それまで別室で待機してもらうのである。

 馬鈴薯総会は30分くらいで終了し、十数分の休憩ののち、午後3時から馬鈴薯出荷協議会が開催されることになった。

 休憩の間、会場入りする市場関係者を席まで案内する敬一郎に一人の中年男性が声をかけた。

「ちょいちょい、笠津主任」

「あ、名取課長。挨拶が遅れてすいません。どうされました?」

 神奈川丸神(まるがみ)青果の土物担当のふくよかな中年、名取課長。敬一郎が全農に入組してからの付き合いで、今では頻繁にメールのやり取りをする友人,もとい戦友のような存在となっている。

「さっき、出島大同の代理で来てた女の子、笠津君の奥さんなんだってね。名刺交換してどっかで聞いた苗字だなって思って聞いてみたんだよ。若くて可愛らしい人なのに気前がよくて、いい奥さんじゃないかぁ」

「あ、どうも、ありがとうございます」

「今度、紹介してよ♪」

「名取課長の奥さんにメールしますよ~」

「すまん。それだけはぁ・・・」

 漫才のようなやり取りをしながら名取課長を所定の席に促した。


 出荷協議会が始まった。

 本会の座長をしている全農特産課の上司である山口係長が「本県における栽培状況」の説明を求めたので、敬一郎が答えた。

「本県における栽培状況を説明させていただきます。今季の馬鈴薯は12月上中旬より作付が始まり、天候にも恵まれ順調に生育しました。2月は、高冷地が降雪により寒害が心配されたものの、全体的に影響は軽微であったようです。4月に入って先般の春一番の暴風と、この暴風による海岸周辺圃場の塩害が確認され収穫直前の馬鈴薯が被害を被りましたが、先日試し掘りしてみたところ一株に十分な数の芋を保有しており、当初計画通りの収量と6月上旬までの継続的な出荷を見込んでおります。以上です」

 敬一郎の説明に会場からは所々で拍手が聞こえる。

「続きまして、各市場より市況説明をお願いいたします。まず埼玉青果センターよりお願いいたします」

 山口係長が来賓市場に視線を向けると、市況説明が始まった。

 長崎から遠い市場より説明が行われる。

 来賓参加している市場は8社で、だいたいどこの市場も同じテンプレートのような説明が続き、生産者の代表者の中には飽きてしまったのかヒソヒソ話を始めてしまう人もいた。

 そして市況説明のトリ、出島大同青果の説明が始まった。

 立ち上がった、少女と見間違えそうな女性に少しざわつく会場。

「平素は当市場への生産物の出荷と多大なるご協力を賜りまして当社を代表いたしまして厚く感謝申し上げます。本来であれば土物担当者が当会議へ出席予定でありましたが、所用により参加がかなわなくなりましたので、代理として参りました出島大同青果、蔬菜部の笠津と申します。本来の担当ではありませんのでお聞き苦しい部分もありますが何卒、ご容赦いただければ幸いでございます。早速ですが市況説明いたします」

 ものすごくかしこまった説明を美少女のような女性が説明し始めたので一気に会場が静まりかえる。

「北海道産の減収により全体的に品不足が続いている本市場ではありますが、今年も輸入に頼らず春物に関しては3月の鹿児島産、4月の長崎産と産地リレーをすることで継続的販売戦略を展開していこうと考えております。3月末時点での市況は、鹿児島産ニシユタカで140円/kgと高値で推移しており、今後の品不足を(かんが)みると今後も需要が高まり続ける予想で、長崎産の本格出荷時期まで高値を維持できるものと見込んでおります。このチャンスを活かして皆様に利益還元していくためにも生産者および生産部会、関係各所の皆様に至りましては、適期収穫・出荷にご協力を賜りますことをお願いいたしまして、(はなは)だ簡単ではございますが当社の市況説明とさせていただきます」

『・・・・・・おおおお!!』

 パチパチパチパチ。

 参加した生産者の歓声と拍手が巻き起こる。

 市場担当者が小柄な女性というだけでも十分なインパクトではあるが、他市場の担当者に引けを取らない市況説明にみんなが引き込まれた。これもある意味プロコスプレイヤーとしての演技力が活かされているのかもしれない。

(土物担当じゃない桜子があそこまで説明できるなんて、相当勉強したな・・・)

 敬一郎は妻としてではなく、取引先として素直に感心した。


 出荷協議会はつつがなく行われ、そのまま馬鈴薯生産者の代表、全農、各地区農協、市場による懇親会が同じホテル内の別会場で行われた。

 敬一郎は付き合いもあるので飲酒をしたが、桜子は敬一郎と一緒に子供たちを迎えに行くためノンアルコールで懇親会に参加した。

 その席で敬一郎と桜子が夫婦であることが参加者の知れる所となった。

「妻がいつもお世話になっております」

「主人がいつもお世話になっております」

 と、お酒を注ぎながら夫婦で参加者に挨拶周りをした。

 本会議には参加していなかったが、懇親会から参加してきた笹塚主任にも挨拶した。

「笹塚主任。妻の桜子です」

「いつも主人がお世話になっております。出島大同青果の笹塚桜子です。よろしくお願いいたします」

「おおお!、笠津の奥様ですか!。可愛らしい方ですね~」

 中学生美少女のような容姿の桜子に鼻の下を伸ばしてデレデレする笹塚主任。

「あ、ありがとうございます・・・・(この人・・・・目がイヤラしいんだけど・・・・)」

 苦笑する笠津夫人。

 途端に怒りに近い表情を敬一郎を向ける笹塚主任。

「お前がこんな女性を射止めるなんて、世の中終わってるな!!」

 明らかに刺々しい嫌味に、隣で飲んでいた神奈川丸神青果の名取課長が反応する。

「笹塚主任!何てこというか!!」

 体格が大きい名取課長の怒りの表情に途端に怯える笹塚主任。

「い、いやぁ、冗談ですよ~。チョット後輩をからかっただけですって~」

 焦って釈明する笹塚主任に周囲は一気にシラケてしまった。

 が、すぐに賑わいを取り戻した。


 桜子がお手洗いを借りに行ったタイミングを狙って、笹塚主任も立ち上がりトイレに向かった。

 数分後、お手洗いから出てきた桜子と偶然な鉢合わせを装って話しかけたのはやっぱり笹塚主任。

「お!。笠津の奥さんの、えーッと名前はなんだったっけ?」

「さ、桜子です・・・(えーッと、確か敬ちゃんの上司の笹塚主任。でも役職の割には年齢が高いような・・・)」

 桜子は気持ちは乗らなかったが愛想笑顔で答える。

「見た目も名前もカワイイね~」

「ど、どうも・・・・(なんか変な人に捕まっちゃったなぁ・・・)」

「あんなアニメオタクの奥さんなんて、相当肩身が狭い思いしてるんじゃないですかぁ?」

「そ、そんな事ないですよ~(私もアニヲタですからね。隠れですけど・・・)」

「笠津のヤツは仕事はできないし、今日の会議もほとんどオレがお膳立てしてやったんですよぉ」

 桜子はこれは笹塚主任のウソだとすぐにわかった。

 敬一郎は帰宅してからでも関係各所への出席確認の電話、ホテルとの配置の確認等を行ったり、日付が解らなくなるくらいビッシリ馬鈴薯会議に関する予定が書かれたスケジュール帳の存在を知っているからだ。

 特に前日はもう一度市場各所への確認の電話と、各農家への栽培状況の確認の電話を子供たちが寝付いた後でもしていた。

 もとより、敬一郎はしっかり仕事をこなすタイプだということは付き合っている時から知っている。

 そんなことないです!と言いたかった桜子であかった。が、しかし、元々が引込み思案な性格が災いして言えなかった。

 笹塚主任は実際のところ、日中はスマホ片手に動画をデスクでコッソリ見ているだけで、現場周りを頼んでいた上司から怒られ、夕方も残業を頼まれていたのに「笠津のヤツがどうしても懇親会に来てくれっていうものですから~」と言って上司の目を(あざむ)いてきていたのだ。

 もちろん敬一郎は呼んでいないし、席も用意してなかったのだが。

 目が座った笹塚主任は突然桜子に迫る。

「咲子さん!!」

「桜子です!・・・(お酒臭い~!)」

「笠津の奴は見限って、俺と付き合いませんか!。俺だったら地位も給料も上だし、アニメしか知らないアイツよりはよっぽど楽しい人生を送れますよ!!」

 一体どこからそんな自信が出てくるのか不明だが、酔っぱらった勢いで本音がダダ洩れる笹塚主任。

「私たち、子どもがいますし~(だから顔近いって!!)」

「もちろん子供たちの面倒も見ますし~。私こう見えて親戚の子供たちのお世話は大得意でして~」

 本当は姪っ子に毛嫌いされていたり、甥っ子にパシリとしてこき使われいる中年独身男。

「どうです!咲子さん!!」

「だから桜子です!!(なんなのこの人! もう、イヤ・・・)」

 壁ドンされ、逃げ道をふさがれた桜子はもう泣いていた。

「どうしました?笹塚主任」

「あぁ?」

 その声にピタッと止まる笹塚主任。振り返ると壁ドンした相手の夫がそこに立っていた。

「お手洗いに立たれてずいぶんと時間がたったので、どうかされたのかなと思いまして」

 ニコリとする敬一郎。

「ちっ!」

 そっぽを向いてトイレに向かう笹塚主任。

 桜子は安堵して腰が抜けてしまいその場にへたり込む。

「敬ちゃん・・・・」

「桜子。だ、大丈・・夫?」

「うん。だ、大丈夫。なにもされてないから・・・・・・?」

 桜子は敬一郎の様子が少し変なのに気が付いた。

 敬一郎は震えていた。いや違う。

 握り閉めた拳から出血していた。

「敬ちゃん!、血が!!」

 桜子はハンカチで血を拭こうとするが、敬一郎は反対の手で桜子のハンカチを止めた。

「だ、大丈夫だよ。この・・・くらい・・・・」

「あ・・・・・」

 桜子はこの光景を一度見たことがある。

 高校3年の時、帰り道一緒に帰っていたら因縁をつけてきた不良グループとケンカになり、5対1なのに圧倒的に敬一郎が勝ったのだが、相手の一人が骨折して全治1カ月の怪我を負ったときがあり、その親が抗議して敬一郎は退学させられるところだった。

 他の目撃者などの証言から怪我をした不良グループにも非があったことから敬一郎の退学も取り消され、1週間の謹慎で済んだのだが、それが原因で桜子が怪我をした生徒の彼女から嫌がらせを受けた。

 それに対しても憤慨した敬一郎だが、そこで実力行使をすることはなかった。

 自分の行動で桜子に迷惑がかかったことを自覚して震えたのか、当時の敬一郎は握った拳から出血していた。

 桜子は出血した敬一郎の拳をゆっくり両手で包むと、ポンポンと優しく叩いた。

「私は大丈夫だよ。大丈夫だから・・・・」

 涙目の桜子はニコリ。

 敬一郎は力が抜けたようにその場に座った。

「ごめん。ごめんな・・・・」

「ありがとう、敬ちゃん・・・戻ろう」

「うん」

 2人は支え合いながらゆっくり立ち上がり、宴会会場に戻った。


 そろそろお開きかな?といった雰囲気が漂い始めた。

 しかし、この男は全くお構いなしだった。

「え、もう飲み放題のオーダー閉め切ったの?。あ、だったら別請求でいいからビール2本持ってきて!」

 懇親会場のスタッフに笹塚主任が放った言葉に数人が「えっ!?」と声をあげる。

 ホテルスタッフも困惑しながら栓を抜いた中ビンを渡す。

 場の雰囲気に反してまたもビール両手に()いで回る笹塚主任。

 中には「もういらないよ」と言ったり、取りあえず形だけついでもらって他の人と会話して「あっち行ってアピール」する市場担当者もいた。

 今度は名取課長の所に注ぎに来る主任。

 さすがの名取課長もゲンナリしていた。

「名取課長、実は相談がありまして~。ウチの笠津がアニメオタクで困ってるんですよ~」

 チラッと敬一郎を一瞥(いちべつ)しながら口走る笹塚主任。

 対する名取課長は()がれたビールに軽く口を付け、次には真剣な表情になっていた。

「ほう、それで?」

「イヤだから、アニメばかり見るオタクでしてね・・・」

「笠津君のアニメ好きは市場関係者でも有名な話だ。それがどうかしたのかね?」

「え、えーっとですね・・・・。アニメばかり見て仕事が・・・・」

「彼の趣味趣向が仕事に何か影響していると?。今の所、私には特に支障があるようには見えないが?」

「で、でもですね。自分たちの職場でアニメの話ばっかりして、こ、困ってるんですよ~。アハハ・・・汗」

 徐々にしどろもどろになる笹塚主任。

『え?そうだっけ?』

 周りの全農職員もコソコソ言い始めた。

「そ、それにですね。こいつはウチの女性職員にコスプレを強要したり、奥さんにメイド服を着せて楽しんでいるんですよ!!」

『え!?』

 その場の数名が「奥さんにメイド服」に驚いて敬一郎を見る。

 別の女性職員は「まぁ、似合いそう♡」という声もあった。

 敬一郎の隣で赤くなる桜子。

 だが、とうの敬一郎はいたって平然としていた。

「ということだが、笹津君?」

 聞いたのは名取課長。

 敬一郎は黙々とシメの炊込みご飯を食べ、飲み込んだ。

 軽く咳払いすると、キッと笹塚主任を睨む。無言でも強い気迫にたじろいてしまう笹塚主任。

「どうして、そんなことをする必要があるんですか?」

「え?」

 と言ったのは笹塚主任。

「コスプレというのはその本人が好きで望んで好きなキャラクターの衣装を着て楽しむものなんです。自分もそれを見るのは楽しいです。でもそれを自分の好みだからと言って強要したりはしません」

 そしてあ然とする笹塚主任に向けられた視線は明らかに怒っていた。

「本日話し合った馬鈴薯の販売も一緒です。自分たちが売る馬鈴薯を『美味しいから買え』と強要しているわけでなく『この前食べたジャガイモが美味しかったから、また長崎産を買いたい』という消費者の購買意欲があってこそ成り立つものです。そうなってくれると生産者も、市場も、もちろん自分たち農協も嬉しいじゃないですか。そこを目指して馬鈴薯の販売をしているのでは無いですか?」

 淡々というその言葉に威厳があり、言われるにつれて顔が引きつる笹塚主任。

「テレビのバラエティ番組で嫌々コスプレをさせられる光景がありますが本当に見ていてイライラします。それで楽しめる人間の気持ちが理解できません。それで楽しめる人間は、オレが楽しいからコレをしろ、なんて思うのではないでしょうか?」

「い、いや。それは・・・・・」

 威圧に言葉が発せなくなる笹塚主任。

「なので、オタクでもコスプレイヤーでもない妻にメイド服を着せて楽しむなんてことは、自分はしません!。同じように馬鈴薯もこちら側の独りよがりな趣向ではなく、沢山の消費者に食べてもらえるような工夫や手法でこれからも販売を継続していく気合いが大事だと思います!なので、これからも長崎県産の馬鈴薯だから消費者がとってくれるモノづくりを生産者と共に築きあげていきますので、各市場の皆様には変わらぬご愛好を宜しくお願いいたします!」

 かなり強引な気はするが、まるで演説のような敬一郎の弁論に周りからは歓喜と拍手が巻き起こった。

 笹塚主任はその場に居ずらくなり「トイレに・・・」と小声で言いながら出て行った。

 そのままの流れで山口係長がいう。

(えん)もたけなわではございますが、ここで本会をおひらきしたいと思います。シメのご挨拶を・・・・」

 桜子は万歳三唱が行われている中、夫の横顔をうかがった。いつもの全農職員、笠津主任だ。

 この時、桜子は敬一郎の『鉄メンタル』の一面を改めて実感した。

 かくして無事、懇親会は終了した。


 桜子が運転するスペーシアの後部座席には、ウトウトする敬一郎が乗っている。

 懇親会はそのまま2次会に突入する勢いだったが、山口係長が気を利かせて笠津夫妻は帰宅できることになった。

 午後7時。

 まだ義母の家で遊んでいるであろう子供たちをお風呂に入れる時間はありそうだ。

 ルームミラー越しの夫はさっきから前かがみに船を漕いでいる。

「敬ちゃん。・・・・・ありがとね」

 思わず言ってしまってから、少し赤くなる桜子。

 一体何に対してのありがとうなのかわからなかったが、なんだから守られた気がした。

(でも、本当の私はオタクでレイヤーなんだけどね・・・)

 そして複雑な気持ちでもあった。

 桜子はそれでも、やっぱりこの人と結婚してよかった、と思った。

 自分の正体には気づいていないのに、それでも自分を守ってくれる旦那様に感謝せずにはいられなかった。

「ありがとう、敬ちゃん・・・・」



❺エピローグ

 翌日の夕方。

 桜子は先ほど子供たちと一緒に帰宅した。

 いま秋桜と梁はリビングでママゴトをしている。

 キッチンでは桜子が夕飯のシチューを作っていた。

 煮込みに入ってしばらく時間が空いた。

 深くため息をつく桜子。

 残業があるので遅くなるが夕飯までには帰る、と敬一郎のメールを今さら確認した。

 スマホから今度は、キッチンの片隅に置いている衣装ケースに目線を移す。帰ってきてすぐに自室から運んでいた。

 桜子は昨日の出来事で思うところがあった。

 笹塚主任の「奥さんにメイド服を着せて楽しんでいる」の部分。

 今日はその言葉が頭から離れなくなり、一日中思考回路をヘビロテした。

 衣装ケースを開けると、出てくるのはメイド服、メイド服、メイド服。

 動画配信で何回も着たチェリの衣装だ。自分の好みでもあったので特にメイド服は数多くコスプレした。桜子が一人は入れるくらい大きなこの衣装ケースはメイド服専用である。

 桜子は一着一着取り上げては赤面した。

「ああ、コスプレしたい・・・・」

 一番お気に入りの青い水玉模様があしらわれた爽やかなイメージのメイド服を自分にあてがった桜子は思考を巡らせた。

 桜子的 シミュレーション❶

「ただいまー」

「おかえりなさい、敬ちゃん」

「え、あ、さ、桜子・・・どうしたの、そのコス」

「えへへ、久しぶりに着ちゃった♡」

「え!?もしかして桜子ってレイヤーだったの!?」

「うん!それに実は高校生の時からオタ活してたんだ~♪」

「そうかぁ!桜子も同じオタクだったんだね!とーっても似合ってるよ!」

「よかったー!敬ちゃん!だーい好き♡」

「オレも好きだよ!桜子!!」

(きゃーーーーーーーー♡)

 メイド服を抱きしめてもだえる桜子。

 しばらく思考ループしていた。

 数分後。

 桜子的 シミュレーション❷

「ただいまー」

「お、おかえりなさい・・・敬ちゃん」

「桜子・・・・、一体どうしたんだ?」

「チョット恥ずかしかったけど着てみたんだ・・・・。どう、かな・・・」

「・・・・・・・昨日の主任から言われたのを気にているのか?」

「い、いや、そういうことじゃなくて・・・実は私・・・」

「無理して俺に合わせる必要はないよ。桜子は桜子のままでさ」

「いやだからそういうことじゃなくて、私もオタ活を・・・」

「桜子!この家でオタクは俺一人で十分だよ・・・」

 ・・・・・・・・・・・・・

(あのマジメ鬼人なら言いかねないわ・・・)

 桜子は頭を抱えた。

 数分後。

 桜子的 シミュレーション❸

「ただいまー」

「け、敬ちゃん。お、おかえりなさい・・・」

「さ、さ、桜子!? どうしたんだ?!その格好!?」

「お願い、今日は私を、た、べ・・・・・」

(きゃーーーーーーーー!♡)

「ママー」

「はぅ!!???」

 氷水を背後から不意に浴びせかけられたかのように超絶ビックリする桜子。

 青ざめて恐る恐る振り返るとそこには秋桜がいた。

「ママ。梁が寝ちゃったから、ブランケットちょうだ・・・・い・」

 言ってる途中で母の異変に気付いてバツが悪い顔をした秋桜。

「あ、あああああ、あ(秋桜に見られた!?)」

 涙目になる桜子。

「あ、りょうには、コスモスのブランケット掛けてあげるね」

「ふぇ?」

 秋桜のナイスフォローに泣き止んだ桜子。

 秋桜は3歳にして親の気持ちを汲み取れる子だった。

「あ、ママ。・・・・クネクネしてたの、パパにはナイショね♪」

「こすもす~。わ―――――――ん(涙がチョチョギれる~)」

 アニメ的に泣き出した母親にニコリとする娘の図。

 ただ、桜子が一体何をしていたのかは、この時の秋桜には知る由もなかった。


 結局、出張から帰ってきた敬一郎にはいつも通りのエプロンを来た姿を見せた桜子だった。


#1 END




 初めて小説投稿サイトに出してみましたので、誤字脱字や文法も何もない読みづらい文章だったかと思います。

 この作品の夫婦のモデルは自分たち夫婦です。とは言っても自分もそれほど強かったり鉄メンタルではなく、妻も隠れオタクでもなければレイヤーでもないですが、所々似ているところがあります。

 自分が昔から妄想の中で描いていた物語を文章に起こした程度のクォリティーですが、ちょっとでもくすっと笑ってくれる人がいたら本望です。

 また、地元大好き人間なので、これからも長崎を舞台の作品を作っていけたらな、と思っております。

 散らかった後書きになりました事をお詫び申し上げます。  加津佐の雪男

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