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歯科医とヴァンパイアの牙  作者: ぼっちりぼっち
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堕天使の羽根

モモカは決定するとすぐに、海水浴の準備を終わらせた。それから、自分の部屋に黒森を招いた。できる限り、ヴァンパイアのこと、そして黒森自身のことを知りたいと思ったからだ。

「お前らは、こんな粗末な台の上で寝るんだな。」

 黒森はモモカのベッドに視線を送りながら、まるで奴隷のようだと嘲笑する。

「いや、これは至って平均的ですから。ヴァンパイアさんは一体どれほどステキな寝床を使っていらっしゃるのですか」

 モモカはヴァンパイアを知りたいとは思ったが、寝床事情を知る予定ではなかった。しかし、馬鹿にされては引くわけにもいくまい。そしてここを切り口にもっと深い話を聞いてやろうではないか。

そうだな、と黒森は記憶を辿る。

「こんな簡素なベッドではなく、5体分の堕天使の羽根が散りばめられた、この部屋一部屋分の大きさのベッドだ」

 堕天使の羽根…⁉モモカの驚きは声になって出ることはなく、息を呑む音に代わった。

「え、一人一人のベッドがその大きさなんですよね?堕天使の羽根って…、そんなに堕天使って多いんですか⁉」

「何を言ってるんだ、お前。堕天使の羽根はむしればそのうち生えてくるだろ。そんなに何人も落ちこぼれ天使がいたら、神も大変だろうが」

 崇高なイメージのあった天使。しかし、その羽根は鳥のように、何度も生えてくるものらしい。黒森は当たり前のように言ったが、もちろんモモカには初耳だった。しかし、神の苦労を想像して共感するような、はたまた労わるような黒森の口ぶりには、モモカも思わず笑ってしまった。何を笑っている、と黒森は眉を寄せる。

「驚いたり、笑ったり忙しいやつだ」

「こうして少し話しただけでも、想像もつかなかった事が出てくる…。もっとヴァンパイアのこと、それからあなたのことも教えてくれませんか」

 むしろお前が俺に色々教えるはずじゃないのか、と黒森は首を傾げつつも、モモカに、そのためにこそ必要なことだと言われてしまえば、何でも話さざるを得なかった。

 まずはヴァンパイア一般の体質の話。ニンニクが苦手で、持つと炎が出て、手を火傷してしまう。十字架は胸糞悪いもので、人間の立場で言えば、墓を持ち歩かれている気分らしい。太陽が苦手な夜行性で、コウモリを使って連絡を取り合ったり、情報を探り合ったりする。空が飛べて、人間の数十倍の力がある。治癒能力にも優れており、平均して数百年は生きる。それぞれ何かしらかの魔法が使えて、黒森は氷を使いこなせるという。

 それから、黒森自身の話。彼が物心ついた時、すでに父は行方知れずで、骨肉の争いというヴァンパイアの慣習には触れずに育ったらしい。

「言いたくない話だったら言わなくていいんですけど、さっき牙をごみ箱に捨てたと言ったら、自分が落ちこぼれだからか…みたいなことを言っていましたが、落ちこぼれってどういうことですか」

 一通り話を聞いてモモカは尋ねる。

「ヴァンパイアが共食いの種族だという話はしたな?ヴァンパイアというのは、殺したヴァンパイアの数を名誉とするのだ。そしてそれが強さの証明でもある。生きる意味なのだ。俺が落ちこぼれだというのは、力が強くないのもそうだが、それよりも殺したヴァンパイアの数が、他に比べて圧倒的に少ないからだ」

「でも()ることは()ってるんですね」

「そりゃあな」

 黒森含めてヴァンパイアにとっては、なんてことない「そりゃあな」なのだろうと、モモカはぼんやりと思った。

モモカと黒森は三〇分ほど話をして、明日は朝早くから出るからと、適当なところで切り上げた。

今日は歯医者としての初勤務で、朝から緊張していたところにヴァンパイアの登場。黒森が寝るために廊下へ出ていくと、モモカはすぐに眠ってしまった。

黒森は太陽が苦手なので、明日の朝から動くことに抵抗感を抱きながらも、この家族の頑張りに免じて素直に「人間の誇り」を考察する覚悟を決めた。


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