ニンニク
黒森がヴァンパイアかどうか、モモカは半信半疑だった。いくら尋常でないほどに発達した犬歯を持っていたからって、全身黒ずくめだからって、ヴァンパイアの定義には、「ファンタジー上の生物」という但し書きがあると思っていたからだ。
しかし今日の夕食で、彼をヴァンパイアとして認めざるを得ない出来事が起こった。先ほど父が言っていたように、今日はモモカのデビュー記念で、モモカの好きな焼き肉パーティーをすることになっていたのだが、家に帰ると「あとは焼くだけなの」と母がニンニクをすりおろしていた。父は、黒森がモモカについてくるためにヴァンパイアだと嘘をついたに違いないと思っていた。しかし、
「ちょうど良いわ。ニンニクを握らせてみましょうよ。」
なんて言って、母はためらいもなく、ためらう黒森の腕を引っ張ってニンニクを握らせた。しばらく何もないように思えたが、静けさの中に、彼の掌からジュウっと音がして炎が上がったかと思うと、香ばしいニンニクの香りが漂い、黒森の手は火傷してしまった。
「あら便利ね、これは」
と言って黒森の火傷に気づかない母と、父とともにあっけに取られるモモカとを見比べながら、黒森は目を細めた。
「お前の傍若無人な治療態度は、母親譲りなのか。」