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【第3話】春香殿ぉおおお!!

「そっかぁ…そんなことがあったんだね」


 水を飲んだミクロから話を聞いた春香はるかが深刻な顔をする。


「だから私は早く元の世界に…うっ!?」

「ダメだよまだ起き上がっちゃ!?深くはないけど傷だらけなんだから!」

「しかし…!!」

「そもそもどうやって元の世界に帰るの!?」

「それは…!」


 焦る気持ちから起き上がろうとしたミクロ。

 しかし春香はるかの核心を突いた言葉で彼は動けなくなった。

 どうしたら自分の国に帰ることが出来るのか?

 彼は皆目見当も付かなかった。

 そもそもどうやってここに来たのかすら分からないのだから。


「どう…すればよいのだ!!私は!!」


 国を守れなかった自分。

 怪鳥にとどめを刺せなかった自分。

 未だに国は危険な状況だというのに何も出来ない自分。

 そんな不甲斐ない自分にミクロは自己嫌悪し、やり場のない焦りと怒りに取り乱した。


「あのね…ミクロ君。何も知らない私が言ってもなんの説得力も無いけど、国の皆を信じたらどうかな?」

「信じる…?」

「うん。ミクロ君の話を聞く限り、マイクロ王国は滅びたわけじゃないし、まだ兵士さん達も残っているんでしょ?怪鳥は大きな傷を負ったようだし、しばらくは動けないと思うの。仮に何かあっても生き残ってる兵士さん達が何とかしてくれるんじゃないかな?」

「それは…」

「だから今ミクロ君は傷を治すことに専念して、動けるようになったら元の世界に戻る方法を探そう!私も協力するから!」


 自信がなくも笑顔を浮かべる春香はるか

 何の根拠も無い言葉。

 だが目の前の少女は別世界から飛ばされてきた自分を迷わず助け、あまつさえ傷の手当てをしてくれた優しい心の持ち主。

 それだけではなく…彼女は今こんな自分の心すら救おうとしてくれるのか…。

 言葉ではなく彼女のその温かい優しさがミクロの心を救った。


春香はるか殿……そうだな…春香はるか殿の言う通りだ。帰る方法が分からない以上焦っても仕方がない。皆を…誇り高きマイクロ王国の民を信じ、今は傷を癒すのが優先だ。帰る方法を探すのはそれからでも遅くはない」

「そうだよ!私も手伝うから大丈夫だよ!!」

「ありがとう春香はるか殿…しかし…」

「ん?どうしたの?」

「いや…それまでどこか雨風をしのげる場所を探さなければと…な」

「へ?今日からここに住まないの?」

「いや!流石にそんな虫の良い事は…!!」

「そんなことないよ!むしろこんな状態のミクロ君を追い出す方が嫌だよ!!それに私はミクロ君が一緒にいてくれたら嬉しいな」

春香はるか殿…」


 ミクロの心はとても熱くなり、心地よい何かで満たされていた。

 こんな気持ちは人生で2度目…そう、仕えるべき主、マイクロ王国国王に初めて出会った時以来だった。

 身に余る優しい言葉。

 この命が惜しくないと思える器。

 騎士として生きて来たミクロの体は自然に動いていた。


「え!?ミクロ君!?」

春香はるか殿。このミクロ、あなたのお側にいる間、いついかなる時もあなたの剣となり盾となり、あなたをお守りすると誓おう」


 傷だらけの体でミクロは机の上でひざをつき、春香はるかに誓った。

 それは騎士とし生きて来た彼のケジメ。

 彼の騎士道に基づいての行動であった。

 忠臣ちゅうしんは二君に仕えず。ミクロが国王以外に膝をつくのは忠義に反するかもしれない。だがミクロにとって、これだけの厚意、恩義にむくわない事は騎士にあらず。

 それすなわおのが騎士道へ背くこと。

 騎士という存在を侮辱し、けがし、ひいては陛下の顔に泥を塗る愚行。

 ゆえに彼は迷わずひざをついた。


「止めてよミクロ君!私そんな大したことしてないよ!?…でも…嬉しいな。えっへへ。こんなこと言われたのは初めてだもん」

謙遜けんそんをなさるな春香はるか殿。人に優しくするというのは言うは易し行うは難し。あなたが私にして下さった事は、あなたが思っている以上に難しく大きな事です」

「えっへへ…ありがとうミクロ君。その…これからよろしくね!」

「こちらこそよろしくお願い申しあげる。春香はるか殿」


 こっちの世界に来て初めてミクロの表情が柔らかくなった。

 故郷を心配する気持ち。それゆえ焦り取り乱した心。それを温かく包み込み、優しく解きほぐしてくれた春香はるかという存在が彼に笑顔を浮かべさせたのだ。

 王国騎士団長としての重責を抱えているミクロ。そんな彼の心に安らぎを与える。それは彼女が考えている以上に困難かつ凄いことだった。


「それじゃあまずお風呂に入ろうか!」

「あぁ……ん???今なんと?」

「一緒にお風呂に入ろう!」

「…なぜ?」

「だってミクロ君気を失ってたから汚れたまま手当しちゃったし。傷は浅いようだからお風呂で体を綺麗にしてからもう一度手当した方がいいでしょ?大丈夫!二回目はもっと上手にやるから!」

「そういう問題ではないぞ!?年頃の女子おなごが冗談でもそのような事を言うべきではないぞ春香はるか殿!!」

「冗談じゃないよ!大丈夫!少しお湯がしみると思うけど我慢して!」

「いやだからそういう意味では…!ちょっ!?春香はるか殿!?春香はるかどのぉおおおおおおおおおおおおおお!!」


 こうして異世界から来た騎士ミクロはべに春香はるかと生活を共にすることになった。

 自分の世界に帰る方法を見つけるまで。


「ご慈悲を!!何卒なにとぞご慈悲をぉおおおおおおおおおおおおお!!」


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