【第2話】軍神敗北
気が付くとなぜか真っ暗闇の中に立っていた
何も見えず何も聞こえない暗闇
上も下も右も左も関係ない暗闇
いつから?いやそもそもここはどこだ?
どうして私はここにいるのだ?
そんな疑問が頭に浮かぶと声が聞こえた
「ミクロ!ミクロ!!」
「団長!団長!!」
聞きなれた声たちだ
自分の真後ろから聞こえる
その声に反応して振り向いた
「陛下!陛下ぁああああ!!」
「うわぁあああああ!?」
「団長ぉおおおおお!!」
「父上!父上ぇえええ!!」
そこには真っ赤に燃え盛る故郷が
大切な人々が
消えゆく声が
そして……
「ギヤァアアアアアア!!」
全てを破壊つくし奪い去る大きな黒い影が…
「うわぁあああああ!?」
悲痛な叫びと共にミクロは目覚めた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
不快な脂汗で体はグッショリと濡れていた。
乱れる呼吸と大きく上下する肩。
あれは夢だったのか…。
それを理解したミクロは額の汗を拭い、大きく深呼吸をした。
「嫌な夢を…うっ!?」
突然身体に痛みが走った。
驚きで自分の体を確認する。
「なんだこれは!?」
目に映ったのは包帯まみれの体。
なぜこんなことになっているのか理解が追い付かないミクロは取り乱した。
「そもそもここは一体!?」
眼前に広がる見たことのない景色。
その光景は数々の危機を乗り越え、軍神と畏れられた騎士団団長のミクロすら混乱させるものだった。
なぜなら目に映るもの全てが自分の理解を超えた物だったからだ。
全てが初めて見る物。自分の故郷とは全く違う異質な景色。
だが何よりミクロを驚かせたのは…その全ての大きさである。
その部屋にある物は彼にとっては全てが大きく、部屋の扉に至っては城門程の大きさだった。
ガチャッ
見つめていた大きな扉が突然音をたてた。
その音を聞いてミクロは驚き身構えた。
見つめている扉がゆっくりと開き…そして…
「あっ!?もう起きたんだね!丁度良かったよぉ」
自分の身長の数倍はあろう女性が入って来た。
何が起きているのか、自分か今どういう状況なのか全く理解出来ないミクロはかたまった。
「大丈夫?怪我痛まない?ごめんね…私あんまり手当とかしたことなくて下手で…」
傷だらけのミクロを家に連れ帰った春香は、気を失っていた彼のために、柔らかいバスタオルで簡易的なベッドを作り、それを部屋の中央の丸テーブルに置いた。
そしてそこに彼を寝かせ、不慣れながらも丁寧にミクロの傷の手当てをした。
それから目を覚ました時に何か食べれるように、丁度キッチンから色々探して持ってきた所だった。
目の前にいる巨大な女性は何かを喋っている。
奇跡的にも女性の言葉の意味を理解できるミクロだったが…その言葉は全く頭に入らなかった。
「あっ!?ごめんね!いきなり色々言われても混乱しちゃうよね…えっと…私の言葉分かるかな?それとお話出来るかな?」
この巨人は私に話しかけている。
どうやら私と意思疎通を図りたいようだ。
それを理解したミクロは呆気にとられながらも、ゆっくりと首を縦に振った。
「本当!?私紅春香っていうの!君は!?お名前は!?」
「ミクロ…」
「ミクロ君っていうの!?可愛いお名前だね!」
ミクロが言葉を理解し、話せるという事実を知って目を輝かせる。
余ほど嬉しかったのだろう。
興奮気味にミクロに近づき、その顔を覗き込んだ。
「そうだ!お腹すいてない!?色々持って来たんだ!何か食べたいものとかあるかな?あっ飲み物もあるよ!」
あまりの勢いに押されるミクロ。
今まで数々の危機的状況を乗り越え、あの怪鳥との戦いの時ですら怯むことが無かった騎士が、今目の前にいる一般的な女子高生に押されていた。
「何が食べたい!?何が飲みたい!?」
「あ…いや…では…」
「うん!」
「み…水を頂けるか?」
「水だね!それならミネラルウォーターがあるよ!あっ!?でもこれじゃあ飲めないよね!今ミクロ君でも飲めるように何か入れ物を持ってくるね!」
そう言うと春香は脱兎のごとく部屋を出て、大きな足音を立てて1階へ降りて行った。
「……」
それを呆然と見ることしか出来なかったミクロ。
この時彼は久方振りに敗北感のような何かを感じた。