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靖国刀怪奇異聞  作者: 菊藤耕太郎
9/9

余 優勝インタビュー

十一月三日に開催された全日本剣道選手権大会、奇跡の三連覇を果たした工藤正選手の館内インタビューは以下の通りである。

 

 「それでは、優勝インタビューです。工藤選手、前人未到の大会三連覇、本当におめでとうございます」

 「ありがとうございます」


 (工藤選手一礼)

 (館内に拍手と歓声)


 「全日本剣道選手権で三連覇を果たせる剣道家はこの世に存在しないとまで言われていた強烈なジンクスを打ち崩したお気持ちはいかがですか?」


 「……いやあ、素直に嬉しいです。あまりに感激が大きいせいか、夢の中にいるような感じで、正直、今も足元が覚束ないんです」


 「全試合、二分以内の二本先取による勝利という素晴らしい戦績でした」


 「無我夢中でした。自然と剣を振るえたことをただ嬉しく思っています」


 (館内に一際大きい拍手と大歓声)


 「今日の大会には、どのようなお気持ちで臨みましたか?」


 「……………………」


 「工藤選手?」


 「あ、いえ、失礼しました。そうですね。今日の大会には、今までの自分の積み重ねを全てぶつけるつもりで臨みました。勝っても負けても、悔いのない剣を振ろうとだけ心掛けていました」


 「工藤選手といえば、大きい応援団を持つことで有名ですが、今大会の優勝もやはり応援団の方々に捧げますか?」


 (館内の四分の一を占める席上から、うおーという盛大な歓声と拍手)


 「もちろんです。彼らは私が学生時代からの剣道仲間で、今も良い友人でいてくれる面々です。試合直前まで調整という名目で私の稽古にも付き合ってくれましたから。例えこれから私の費用持ちで宴会になったとしても、我慢できると思います」


 (館内全体から笑い声。そして応援席からは、うおーという歓声が再び)


 「工藤選手にとって、今大会はどのような大会でしたか?」


 「私を支えてくれた人物に対して改めて感謝する機会となりました。職場と道場の仲間、家族にありがとうと言いたいです。そして、今回の大会は新しい世界を知る機会ともなりました」


 「今大会で剣を交えた新たなライバルのことですか?」


 「もちろんそれもありますが、大会前に出会うことができた人々から教えてもらった世界です。会ったときは、何でこんな事にと恨みがましい気持ちにもなりましたが、あれは私が剣道に改めて向き合うために必要なことだったのだと、今は思っています」


 「あの……工藤選手……」


 「すいません。少し、思い出に浸ってしまいました。大会前に知り合った新しい友人の話です。人懐こい笑みが特徴な誰よりも勇敢な少年……ではなく、青年。大会前に彼と知り合えたことは、私にとって宝となる新しい縁です。彼のお陰で私はより広大な剣の世界を知り、自分の未熟さを思い知りました。それでも劣等感など微塵もなく、敗北感を全て受け入れ、大きく前進することができたと信じています」


 (会場、静まる)


 「とは言え、いつも私を信じて支えてくれた、剣友たち。そして何より、私を応援して下さった応援団の方々たちのおかげで優勝することが出来たと思っています。皆さん、ありがとうございました!!」


 (工藤の礼)

 (館内を拍手と歓声が満ちる)


 「今大会に向けて剣道界では、様々な話題がありましたが、その中にあって、工藤選手は日本剣道会の新たな牽引役として、改めてその存在感を示すことができたのではないでしょうか?」


 「いいえ、とんでもありません。私はそのような大それた者ではありません。これからも、一稽古一試合に懸命となるだけです。そして、その積み重ねが、今日のような結果に繋がるよう願っています」


 (館内、大拍手)


 「三連覇の偉業、是非、応援してくれた皆さんと、喜びを分かち合って下さい」

 「ありがとうございます」


 (工藤、礼)

 (館内、大拍手と大歓声)


 「本日は、おめでとうございました。工藤正選手でした」

  

                                       了

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