第四章 無我の剣士
地べたに張り付いた顔を引き剥がし、屈折していた膝を発条のように一気に伸ばして工藤は大きく後ろに跳んだ。これで距離を稼ぐ算段であったろうが、対峙する剣士にそんな悠長な工夫などまるで無意味であった。
工藤の引き足と同時に、恩賜軍刀組の老剣士は踏み込み、左片手突きを蛇のように伸ばした。その切っ先が工藤の喉を引き裂く直前に、工藤は強引に体を後ろに反らして回避したが、完全にかわし切ることはできず、工藤の顎の先端はスッパリと斬り開かれ、細い血を吹いた。
体勢を崩した工藤であったが、野良猫のような身軽さで地面を後転すると、顎から垂れ続ける血など少しも顧みず、流れるような所作で素早く剣の構えを取り直した。それが気に入らなかった刑部は、脇に構え直した一刀を、今度は鞭のようにしならせて四連の瞬撃を見舞った。下から順に、敵対者の膝、腿、肘、肩を狙ったいずれも必倒の剣撃だ。
膝と肘への剣撃こそ防いだ工藤であったが、腿と肩は浅く切り裂かれ、衝撃と激痛でその場で尻をついてしまった。すぐに立ち上がり体勢を整えてみせるのだが、肩と腿の裂傷からは太い血の筋が流れ落ちていた。
行動不能となるような重傷でこそないが、工藤は早くも満身創痍。対する刑部はというと、急所となる頭部と心臓はもちろん、幽体のどの箇所にも一切傷は見当たらなかった。
刑部の圧倒的な優位である。
年端もいかない子供さえ理解できるこの現状でありながら、当事者である刑部は表情にこそ出さなかったが、心中で激しい焦燥を覚えていた。
先に放った二つの剣撃は、実は世界大戦時に日本全土から収集され、日本陸軍及び海軍の幹部候補生たちに伝授された古武術流派の極意の技であったのだ。刺突の技が『大蛇』、横薙ぎの技が『凪の太刀』と云う。無念を全身に漲らせた古武術の当代師範たちは「初見で見切れる者はいない」と太鼓判を押したはずの技だ。それほどの妙技をもって二度も仕留め損ねたのだ。刑部には、相手を追い詰めているなどと、少しも考えることはできなかった。
工藤が中段に構えた剣の切っ先がユラリと左右に揺れた。
鼓動しないはずの刑部の心臓が、確かに一度高鳴った。昂ぶりなどではない。これは動揺、あるいは恐怖だ。ただ、生死を掛けた真剣勝負において、それは当然に付き纏う精神の脆弱さであるから、それを殊更問題視する必要はない。戦争経験者である刑部には、分かり切った事実であった。
刑部は自分の精神状況を極めて冷静に認識したうえで、剣の速さ、強さ、そして巧さの全てにおいて上回るはずの自分が、工藤という剣道家の何に対して怯みを覚えたのかという問題の分析を試みる。
答えはすぐに出た。
工藤の我執の酷薄さである。
真剣での立ち合い。それはきっと初体験となる修羅場であるはずなのに、工藤にはそれを恐れている様子が少しも見受けられなかった。緊張はしている。数合の剣の撃ち合いを通じて、工藤の身体の強張りを如実に感得することができたからだ。
ただ、真剣勝負におけるかような工藤の冷静さは、勇気によってもたらされたものではないと刑部は踏んでいた。正面から向き合っているはずなのに、時折、刑部の目から工藤の姿が消失する。虚空に一刀が残され、鬼火のようにそれが揺れるのだ。先ほど工藤が刀を左右に動かしたときが、正にそうだった。
霊体である自分より自我の存在感を薄め、それに反比例して刀剣の存在を濃厚に相手の脳裏に焼き付けてくる。『剣心一如』とはよくぞ言ったものだ。
工藤正。なるほど認めざるを得ない剣士だ。刑部は、目前の剣士を、世界大戦と黄泉で研磨した剣技の全てを叩きつけるに相応しい相手だと認識した。
工藤の足が一歩前に出た。今まで受け身であったはずなのに、今度は攻勢に出ようというらしい。身体の震えは消失している。真剣勝負に早くも順応しているというのなら、この男の我執の薄さは、最早、無念無想に至る途上なのかもしれない。だとしたら、恐るべき事態だ。
刑部は再び手にした一刀を肩に担ぎ上げようにして構え、盛大な気声を放った。工藤がこれ以上の剣の道の深奥へと至る前にその歩みを止めるための働きであったが、双眸に虚無の色を刷いた全日本剣道選手権連覇の剣士の動きには寸毫の影響さえ与えることはできなかった。
しかし、そんなことは想定済みである。
刑部は自身が最も長く鍛錬を積み、絶対の自信を持つ剣の構えを取った。左肩に担ぐようにしていた剣を右側頭部に直立に立たせながら、体は正面。左足を前に進め、右足は体の正面に向かいほぼ直角に開き大地を掴む。腰が落ちて正中線は安定し、両肩の力は抜けて目は敵対者の全身へと配られる。
これぞ『蜻蛉の構え』。
一度剣を抜いたならば、全身全霊をもって目前の敵を粉砕することを流儀の意地とする恐るべき破壊の剣、すなわち示現流である。しかも、刑部の構えから鑑みるに、これは東郷重位を祖とする俗称『東郷示現流』であると推察できる。何を隠そう、生前の刑部の実家はこの流派の剣を綿々と承継する武家の一族であった。そして刑部自身は、幼少の頃に麒麟児として一族ほぼ全ての耳目を集め、将来を有望視される武人であった。
戦時中、多くの古武術流派が、各々の秘伝の技を軍の幹部候補生に伝授したものだが、刑部は正直、自分の流派の技と比較して、伝授された技の脆弱性を痛感していた。示現流こそ最強という自負と自信は、大戦で散華した後も強烈に魂に刻印されたままだったのだ。
刑部が示現流の剣士であることを認識しているのかいないのか、工藤の進撃の足は留まるどころか、むしろ早まった。それを目撃して刑部は美髯の下で舌なめずりした。
(向かってくるか……ならば、望む所よ)
蜻蛉の構えを維持したまま、刑部は録画の早回しのように運足を猛烈に早めた。遠間から相手の懐へと一気に飛び込んでいくための示現流特有の動きだ。そして、工藤が刑部の間合に入った瞬間、必殺の気魄を込められた刑部の剣は瀑布の勢いで工藤の頭部に襲い掛かった。
剣の化身に続く路を進んでいたはずの工藤の心に、忽然と、己の命に関わる執着が湧いた。猛進していた足はピタリと動きを止め、次の瞬間、筋肉が断裂することも厭わないほど爆発的に躍動し、工藤の体を大きく後退させたのであった。
間一髪。
見るがいい。この世のものとは到底思えない絶叫と共に繰り出された刑部の一撃は、上体を反らした工藤の左胸を掠めて一気に振り下ろされ、刀身の半ばまで地面に食い込んでいるではないか。二人の剣士が立つ地面は土壌でもなければ、もちろん豆腐でもない。アスファルトで舗装された強固な駐車場の敷地である。信じがたい威力。生身で受ければ、間違いなく骨まで両断される。剣で受けたとしても、その剣を易々と粉砕して、そのまま敵対者に致命傷を及ぼすことは想像に難くない。
工藤は左胸に鈍痛を覚え、続けて火を付けられたかのような灼熱感を覚えた。チラリと目を向ければ、左胸からは短冊ほどの幅を持つ血流が生じていた。掠めた程度の威力がこれなのだ。
地面から無造作に刀を引き抜き、刑部は自慢の美髯を一度撫でてから、莞爾と笑い、そして呟く。
「次は外さん」
工藤の全身が凍結したかのように活動を止めた。筋肉は痙攣し、死という圧倒的な現実を前に思考も粘泥のように鈍重なものになっていく。呼吸は乱れ、額からゴプリと溢れた脂汗が顔面を不快に濡らしていく。
手にした剣に意識を吸われていたときと違う。工藤の意識は明確なものとなって、それ故に深い恐怖に心身を震わせた。歯茎は小刻みに震え、足と腰は氷雪に纏わりつかれたように激しく縦と横に震えた。思考は働かない。闘う意思が湧かない。自分の命の惜しさに剣を放り棄てたい衝動に駆られる。
悲鳴を上げながら背中を見せるという無様な逃走を決意した瞬間、工藤の背後で突如夜天を震わせるほどの破壊音が轟いた。慌てて振り返ると、そこには今まで静寂を誇っていた日本武道館の天井が大規模に崩れ落ちるという凄まじい破壊光景があった。
そして、その破壊をもたらした事象は、工藤の意識ばかりか、彼を追いつめていたはずの刑部の集中力さえも根こそぎ奪い取った。
「何という美しさだ……」
刑部が嘆息と共に吐き出した言葉のとおり、崩落した武道館の天井から天を衝かんばかりの勢いで飛翔していった竜を象る紅炎は、それを眼にした人間の美意識を大きく変動させるほどの美しさと力強さを誇っていた。
続いて夜のしじまを引き裂かんばかりに響き渡った奇獣の悲鳴は、全く怖気づいていた工藤の心に再び闘志の火を焚き付けるのに十分な効果を発揮した。工藤は瞬時に悟ったのだ。
(サービス君……君は今も闘っているんだな……)
そうだ。自分は一人で闘っている訳ではない。自分よりずっと年下の少年が、世にも恐ろしい怪物と対峙し、今も熾烈な戦いを繰り広げているのだ。きっと先程の火竜もサービス少年が何かしらの技術によって放ったものに違いないのだ。
工藤は猛烈に自分の不甲斐なさを恥じた。サービスがここを駆け去る間際、自分の背中に投げ掛けた言葉は一体何だった? そして、その後で、自分が格好をつけて刑部に吐いた言葉は一体何だった?
顔から火が出る思いとは正にこれだ。我慢がならず、工藤は自分の頬に向けて自ら拳骨を放った。ゴギンと重い打撃音は、天に昇る赤き竜に意識を奪われていた刑部の目を向かわせるのに十分な生々しさがあった。
「自虐の趣味でもあるのか?」
口の中の肉が深く切れたらしく、工藤は唾の交じった粘り気の無い血を滝のように下唇から垂らした。それから口をモゴモゴと上下左右に動かし、口の先を尖らせて口内の異物を噴き出した。地面に転がった物は、血に濡れた奥歯だった。恐ろしいことに、歯茎の肉までこびりついている。他人に本気で殴りつけられたとしても、ここまで深い傷にはならないだろう。
滾々と口端から垂れ落ちる血流を延々と舐め上げながら、それでも全身から今までとは比較にならない程の闘志を炎のように燃え立たせる工藤を、美髯の老剣士は呆れ顔で、だが、確かに感嘆の意を込めた眼で眺めた。
「仕切り直しです」
再び口内に溜まった血を勢いよく吐き出すと、剣を握り直した工藤は、焔の着いた眼を猛々しく輝かせる。
だが、それも一瞬のこと。再び中段の構えを取るや否や先例の如く剣に意識を吸われ、双眸は虚ろな色を刷いた。
(……今度はだいぶ深いな。先程とは比べ物にならんぞ……)
顔色こそ不変だが、刑部は眼前の敵が没我によって俄かに漂わせ始めた虚無の気配に戦慄を覚えていた。砕かんばかりに刀の柄を強く握り締め、刑部は『蜻蛉の構え』に戻る。天に浮かぶ月の中点に一刀の切っ先が掛かり、刀身は月の銀光を受けて周囲に華美な光を振り撒く。
「大詰めだな。行くぞ、剣の権化め!」
嫌味、あるいは真意からの言葉を会心の笑みと当時に吐き出し、刑部は今度こそ決着をつけるべく静かにそして速やかに運足を開始する。腹奥から絞り出され、喉彦を震わし、遂には口腔から吐き出された気声は、深き夜の静寂を薙ぎ払い、前面に立つ工藤の体を物理的に震わせた。それは海岸を覆う程の巨大な怒涛が漏斗により一点に集約されたかのような尋常ではない迫力。武道の経験が無く、敵意を持つ存在と闘うための心構えの鍛錬を重ねていない者であれば、刑部の剣が届く前に膝を屈し、絶望の涙を流すことだろう。
しかしながら、工藤は当然に動く。彼もまた武芸者なのだ。人生における起床時間の大半を、剣を振ることに費やしてきた時代錯誤の大馬鹿野郎なのだ。
工藤の足は、向かい来る刑部に対して動き出している。正面から実に堂々歪みなく。意識を剣に吸わせ、前方へ突き出した剣に引かれる様に、工藤の体は一息の度に加速していく。
肩に担ぐように構えていた剣の峰に這わせた必殺の意思と覚悟を推進剤として、刑部は足元の大地さえも両断せんとする勢いで剣撃を放つ。
同時に、工藤の左足が大きく前に踏み出され、中段に構えられていた剣が弾かれたように跳ね上がり、上段の構えへと移行する。それは果たして刑部からの渾身の一刀を防ぐための工夫であったのか。
しかし、
(片腹痛いわ!)
実戦ばかりか黄泉平坂で六十年以上に渡り練り上げた文字通りのお家芸である東郷示現流の一刀だ。戦艦の甲板さえ両断せしめる剣を、どうして一振りの刀剣などに防ぎ切れようか。無念無想の境地に至らんとしている剣士でさえこの程度なのかという落胆と、その思いから湧き上がった凄まじい手前勝手の憤怒により、刑部は歯噛みし顔面を悪鬼の如く醜く歪めた。
殺意に塗れた邪な黒剣と我執を拭われた清き白剣が激突し、刃同士が正面から噛み合った刹那、暗夜に火の大華を散らすと同時に靖国刀の柄頭を握った工藤の左腕は脱力し切り鞭のようにしなると上段の位置から真横に振り払われた。それは大気が破裂するほどの鋭迅な剣働き。刑部の振り下ろした剣は威力の方向性だけを逸らされ、技を放った本人の制御を離れて、またも地面に食い込んだ。
しかし、今回は剣を地面から抜く機会などありはしない。即座に得物を放棄し、後方へ跳ねようとした刑部の意識の速さこそ見事だが、死に体に堕ちた剣士を見逃すほど彼の対峙者は未熟ではない。
剣から離れていた工藤の右腕は機器の如く無駄なく動き柄の鍔元を握るや否や電光の如く閃いて、虚空に銀色の斜線を引いた。剣を振り切った工藤は弛まない足運びで素早く残心を取る。
刑部は後方に跳んで工藤からの距離を稼いでいた。その動きに乱れはない。工藤の油断の無い構えから察するに、彼は千載一遇の好機を逃してしまったのだろうか。
いいやそうではない。あれを見ろ。
刑部はおもむろに膝を崩したではないか。流石に手を地面に着けるような無様こそ見せなかったが、両膝を地に着けて右の掌で頸部を強く押さえていた。その指の間からは、光る液体が短い間隔で間欠泉のように噴き出していた。
しかし、次は工藤の番だった。両膝の皿を地面に叩きつけるように落として、刀を杖にして縋る様に体を支える。雪山に裸で放り込まれたように全身を激しく震わせ、顔から血の気はすっかり失せていた。満面を脂汗に濡らせ、胃の腑の奥から込み上げた吐き気に耐え切れず、黄色い胃液をズボンに撒き散らした。心蔵は今にも胸から飛び出しそうなほど激しく鼓動を打ち、胃液で爛れた喉はカラカラに熱い。犬の様に喘ぎ続けた。
初めての果し合い。剣を交えた時間は四分にも満たない短時間であったが、極限とも言える緊張は、工藤の身体から体力と気力を一切合切強奪していた。剣を握ることはできても、もう振ることはできない。立ち上がることも無理だ。闘うことなど想像することさえできない。今の工藤なら、幼児でさえ容易に押し倒せるだろう。それでも、刑部を見つめる工藤の目は、どこまでも澄んでいて強い光を発していた。命を奪われる直前、否、命を奪われた後であっても、これはきっと変わることは無いのだろう。
刑部は呆れながらも、心底から愉快とばかりに高らかに笑う。
「こいつは、なかなかどうして、大した野郎だぜ」
伝法めいた口調で刑部は自身の感想を語る。それから、
「私の負けだ。正直、驚いている。そして、感服した」
実に清々しく敗北宣言をした。
片手で首の傷を抑えたまま、意外としっかりとした動きで立ち上がり、地面に突き刺さったままの靖国刀の元へと行き、これを引き抜くと器用に片手一本で鞘に納めた。
「貴様、立てるか?」
正直、言葉を出す元気も無いのだが、ここは意地だと工藤は首を縦に振り、震える両足を両手で無理やり抑え付けて立ち上がった。剣は枝ではないので、いつまでも地面に着けている訳にはいかない。右手で握ったまでは良いが、構えることはできず、右脇にダラリと垂らしただけになった。
両足はガタガタと震え、両腕は脇に垂れたまま。背筋は逸らしているものの、頭は俯き加減だ。子供が片手で少し押しただけで崩れ落ちてしまうだろう。それでも立っている。もはや根性の賜物だ。
「そうだ。日本男児たるもの、そうでなければいかん。ましてや貴様は私を倒したほどの剣士なのだからな」
そう言いつつ、刑部はなんと工藤に肩を貸すのであった。
工藤はとても驚いていたが、最早、刑部に敵意が皆無であることを悟り、素直に体を預けた。身体を楽に出来たことと、何より真剣勝負が終焉を告げたことを認識し、少しずつ工藤の気力が回復してきた。
「……お、恐れ入ります。『剣の神子』の役目とは、英霊と剣を交え、ご満足を頂くことだと聞き及びました。これまでのものが掛け値なしの私の全力です。如何でしたでしょうか?」
「技は未熟よ。研ぎ澄ませる余地はまだまだある。また、体力も心許ないな。真剣勝負の一度や二度で顎が出るようではいかん。もっと鍛錬を重ねろ」
「はい。申し訳ありません」
「だが、心構えは大したものだった。私の時代にも、あそこまで心と剣を融け合せ、我執を捨てることができる者はいなかった。この一点だけを評価するなら、貴様は正に剣の申し子よ」
余りに過分とも思える刑部からの高評価に、工藤は唖然となって言葉を喪った。
「何だ貴様? もしかして、自分の特性に気が付いていなかったのか? 呆れた男だな。不器用にも程があるぞ。その調子では、ここまで来るのによほど苦労しただろう。剣を捨てなかったのが不思議なほどだ。よくぞ耐え、練り上げきた。遥かに年下だが、敬意を払うぞ」
刑部は笑った。口角など少しも上がらない微笑にさえ至らない細く薄い笑み。それでも、そこに籠った真情はとても温かなものであった。工藤は鼻頭が急速に熱くなっていく感覚を覚えた。
「あ、ありがとうございます……」
くぐもった声でそう答えるのが精一杯だった。このまま黙っていては落涙しかねない。生粋の軍人の前で、男としてそんな最悪の醜態を晒せるものか。
鼻を一度だけ啜り、工藤は他の事柄に意識を向けようとして、すぐにサービスのことが思い当たった。真剣勝負に全ての意識を向けていたから気が付けなかったが、日本武道館の内部からは、盛大な破壊音と金属音が轟き、その節々には、聞く者に鳥肌を立たせる奇怪な鳴き声まで響いてきているのであった。
日本武道館内に侵入していった蟲の形を模した黒き魔剣と、それを追ったサービスとの戦闘は、今も継続しているに違いない。
「……サービス君」
自分も助力に成らんと、意識は前に出るのだが、体がこれに追従しない。気力は戻りつつあったが、身体の疲弊は工藤の想像を超えて深刻なものであったようだ。
「そんな身体で何ができる。かえってあの小僧の足手纏いになるぞ」
前後左右にふらつく工藤の身体を抑えながら、刑部は諭すように言った。
「し、しかし……」
「冷静になれ。そして、あの建物の内から聞こえてくる音をよく聞き、状況の分析をするのだ。私はあの小僧のことなど何も知らんが、それでも、貴様が心配する必要など無いと思えてくるぞ」
刑部の声に漂う妙な落ち着きが気になって、工藤は言われた通り、もう一度、今度は注意深く日本武道館の内部から漏れ聞こえてくる多種多様な音に耳を澄ませてみた。
すると、すぐに一つのことに気が付いた。魔剣蟲が上げているのであろう気味の悪い鳴き声は、殺戮にふける化物の禍々しい叫声などではなく、もっとずっと弱々しい、聞く者の心に憐憫の情さえ誘発するほど悲嘆に満ちていたのだ。
そして、その鳴き声は、重々しい打撃音と衝撃音が響く度に、一際高くなり、一層愁嘆の色を濃くしていくのだった。
「……これは、もしかしなくとも、サービス君の方が押しているのでしょうか?」
工藤の推測を、刑部は即座に否定する。
「押しているだと? 馬鹿を言うな。それどころではない。これはもはや……圧倒だ!」
刑部の断言を合図にしたかのように、日本武道館西口玄関の扉が内側から吹き飛び、全身から白煙を吹き出した異形の怪物が砲弾にも匹敵する凄まじい勢いと速度で飛び出してきた。
地面で一度大きく弾んだが、勢いは少しも殺されず、刑部と工藤の鼻面を掠める様に転がり過ぎて行ったそれは、駐車場のアスファルトで全身を削られながら二十メートル以上も転がって街灯の鉄柱に激突してようやく止まった。鉄柱はその先が地に着くほど深く飴細工のように垂れ曲り、西口玄関からそこへと続くアスファルトは、土壌が確認できてしまうほど深く抉れていた。
「こ、これは一体……何が……何が起きているのでしょうか?」
余りに現実離れした戦闘破壊の痕跡に、愕然としながら工藤は体を今まで以上に激しく震わせながら尋ねた。
「分からん。私にも分からん。しかし、ここからすぐに離れるぞ。たった今、飛び出してきたのは間違いなくあの蟲の形をした黒刀の怪物だ。あれは恐ろしい存在だ。私と同じところ……いいや、そこから更に深い闇から現出した怨念の塊だ。本来なら霧のように大気に漂う無害な気配程度のものが、数十年の間に凝り固まり凝縮されたことで、遂には物質化を果たして目に見える災厄にまでなった。恐ろしい力を秘めているはずだ。私や貴様など歯牙にもかけないほどにな。それがあの体たらくよ。私たちの目の前で起きていることは間違いなく伝承、神話どころか御伽噺の類に属する勧善懲悪の物語に違いない」
工藤に肩を貸す刑部はその体を引きずり、魔剣蟲から距離を取ろうとする。怪物は動こうとしなかった。命果てたのかとも思ったが、節足の先が微かに震えている。まだ息の根は止まっていない。
工藤が危機感を抱くと同時に、魔剣蟲は節足を発条のように弾ませて高く跳び上がり、地面に着地した後、破壊により今や大穴が開く形となっている西口玄関に向かい、黒い切っ先を向けて、甲高い咆哮を上げた。その大声量は天地を震わせるほどのものだったが、その響きには、さながら人間のように不退転の決意を滲ませた悲痛な色があった。
直後、魔剣蟲の身体に変化が生じた。全体に気泡のような痘痕が幾つも浮いたかと思うと、それらは瞬く間に気球のサイズにまで膨らみ、そして弾けた。
弾けた気泡は汚怪な液体となって駐車場全体に振り撒かれ、濃い白煙を立ち昇らせる。凄まじい異臭。まともに呼吸はおろか、眼を開けることさえ難しい。工藤はもちろん、刑部までも目を細め、咳き込んでいる。魔剣蟲もまたこの世にあらざる存在のため、その影響は霊体にさえ及ぶのだろう。細くぼやけた視界の中で、工藤と刑部は、変化を果たした奇獣の姿をハッキリと捉えた。
二人は眦が裂けんばかりに両目を見開き、言葉を喪失した。
全長はおよそ二十メートル。歩肢の並んだ長大な胴部をくねらせ、頭部には一対の触角と口器があり、頭部の次の体節には顎の形をとる顎肢がある。そこにはどうも毒腺があるらしく、先から垂れる黄緑色の毒液は、アスファルトを易々と貫通し大地を深く腐溶させた。全ての体節には、十ずつの歩肢が備えられており、全体の歩肢の数は軽く四百対を超えている。恐るべきことに、それら歩肢の先端は全て先ほどまで魔剣蟲の本体となっていた黒刀の刀身により構成されていた。
「……俵藤太を呼んで来い」
刑部の台詞は冗談でも何でもない。実に的を射た言葉だった。
俵藤太。それは通称で、本名は藤原秀郷。平安時代の武将であり、山を七巻き半もする大百足の怪物を退治した英雄である。唾を塗った矢で百足の化生を仕留めた昔話を耳にした者は、決して少なくないだろう。
そう。工藤と刑部の目の前に出現したのは、正に百足の大怪物であったのだ。
全身の外骨格は黒い鋼を思わせる硬質な輝きを湛え、蛇のように頭部をもたげ、頭部の角で夜天を突き崩さんばかりに上体を大きく反らした。再びの咆哮。
だが、そこには先ほどまでの悲痛な響きなどすっかり散失していた。王者然とした絶対の自信を備えた不動確固たる声音。それも当然と捉えられる巨大な力の気配を、百足の怪物は自然に発していた。
「……終わった……」
一生命体では到底抗えない力の壁を前に、強い諦観の念に囚われた工藤は、そのように細く呟いた。その横面を、刑部は力の限り、首の切口を押さえていた腕で殴りつけた。
「貴様、しっかりせんか!」
戦場で鍛えられた分、刑部の方が絶望に対する耐久度が高いようであったが、斬り裂かれた首の傷から間断なく霊体を現世にて活動せしめる力の源が流出していることと、直面した状況が彼にとっても余りに現実離れしていたことが相俟って、確実に刑部の気力を削いでいった。その証拠に、既に刑部の拳に力はほぼ無なくなっており、抵抗なく殴りつけられたはずの工藤は一滴の血も垂らしていなかった。
幸いにも、魔剣蟲が変じた大百足は戦意どころか生きる気力さえ失いつつある工藤たちには目もくれず、歩肢の先端を余すことなく自身が吹き飛ばされてきた日本武道館の西口玄関に向けている。化物の狙いが何であるのかを工藤はすぐに理解することが出来たが、この期に及んで彼に何が出来たであろうか。敵の姿の規格と力の規模は、個人の戦闘力で対応できる域を超越し、一国家が擁する軍事力の行使を要するレベルに至っている。比較するのも馬鹿らしい彼我の実力差の前に、まず工藤の膝が折れた。それを支えていた刑部の膝まで支え切れず、膝が徐々に折れていく。
濃厚な絶望の気配に思考能力まで薄らぎ始めたそのとき、工藤の耳朶に唐突に機械質な声が届く。
【工藤殿。すぐにこの場から退避をして下さい。間も無く、そこへ凄まじい力が届き、剣の魔物を即座に討滅します】
余りに冷静で迷いの欠片も無い断言に、工藤の意識は急速に明確化し、両膝に力が込められ、今度は彼が刑部の身体を支える形で仁王立ちした。
「だ、誰だ!?」
虚空に放たれた問い。それをぶつける対象を見いだせず、工藤は困惑した。
しかし、
【私の名称はキット。この世で最も勇敢な者を支援する目的で製造されたブレイブ・サポート・ドライバー『勇気のベルト』のインターフェイス・システムに搭載された人工知能です。平たく言えば、サービス・ホープの相棒です】
不思議と応える者があった。しかも、その不思議な存在はサービスの近しい存在であると主張する。
【もう一度お伝えします。これから、そこに巨大な力が迅雷となって向かいます。その力は正確無比な指向性を誇りますが、それでも万が一の事態に備え、最低でも駐車場の敷地から退避をお願い致します】
丁寧だが、有無を言わせぬ口調。反感を覚えても不思議ではないはずなのに、工藤の身体は自然と反応して、刑部の体を引きずりながら、姿なき声の主の進言の通り、駐車場からの退避を果たす。
「キット……と言ったが、君の姿が見えないんだ。何処にいるんだ?」
首を上下左右に動かして、工藤は尋ねるが、周囲には人影一つない。それでも、キットと名乗る存在の声は、まるで脳に直接に語り掛けてくるように鮮明だ。
【私は特定の姿形を持ちません。0.01ナノメートルにも満たないサイズの機械の集合体なのです。現に語り掛けているのも、私のそうした微小な分身が、貴方のこめかみに貼り付き、骨伝導によって声音を届けているのです】
学生時代と社会人になってからの大半を武道に費やしてきた工藤の頭には巨大な疑問符が浮いた。
【難しく考えないでください。私たちは二人で一つの存在と言えます。そうですね、サービスの役割が武官ならば、私のそれは文官です。主な仕事は情報の収集と分析です。その対象は、サービスの相対する人物や事象の全てです……普段はサービスの装身具に化けておりますがね】
キットの言葉に工藤はあっと口を大きく開いて硬直した。彼の脳裏に、サービスの異常なまでの情報通ぶりと、年齢不相応と思しき高級腕時計が浮かんだのだ。
【ご明察です。今までサービスが口にして、貴方がドキリとした情報は、私が世界中のあらゆるデータ・ベースに接続・収集したうえで彼に知らせたものです。私とサービスの繋がりを信じて頂けたなら、どうか今だけで構いませんので、私の指示に従ってください。お願いいたします】
キットの方はそれ以上の説明や解説などを務めるほどの余裕が無いようで、駐車場から離れた二人に向かい更に遠くへの避難を促している。工藤も思考が停滞していたこともあって、半ば混乱気味で、キットの指示に従い退避行動を続けるのであった。そして、遂には日本武道館の北方に位置する田安門の前まで辿り着いた。駐車場までの距離は直線距離でも三、四百メートルは下らないというのに、工藤の目には日本武道館の屋根に据えられた擬宝珠を見下ろすことができるほどの大百足の異形は依然として明瞭で、その異様から発される威圧も弱まるどころかむしろ強まっていた。
「サ、サービス君は、本当にあんな怪物と闘うつもりなのか……」
独り言のように呟いた言葉であったが、キットはこれに応える。
【闘います。敢然と。どのような異常な事態が生じようと、一度帯びた使命の放棄は許されません。彼は今年の『剣の神子』ですが、それ以前に、『天然宗』の法力僧であり、
『Earth Cavalier』の騎士なのです】
「……使命……『天然宗』……『Earth Cavalier』……」
キットの言葉を繰り返すように工藤が呟くと、弱体化しずっと項垂れたままになっていた刑部が、弾かれたように顔を上げた。
「……今、何と言った貴様?」
刑部の顔色は青白く、そして暗い。幽霊なのだから当然だが、その色は、今は更に色を失している。工藤の呟きを耳にした瞬間の反応だ。
「『Earth Cavalier』と……確かに、そう言ったな?」
刑部の濃厚な鬼気は、半ば物理的な壁となって工藤を圧迫した。声を出して返事が出来ず、首を何度も縦に振るばかりであった。
「ああ、何てことだ! あの小僧は事もあろうに『地球の騎士』の一人なのか!?」
刑部は半狂乱となって、頭を掻き毟った。
「地球の……騎士……?」
「そうだ。靖国の地で眠る軍人は英米の言葉は好かんからな、彼らをそのように呼称する。万感の敬意を込めてな。信じられるか? 想像ができるか? この国、この世界、この星どころか、太陽系を超え銀河系の宙域までも対象に、宇宙規模であらゆる敵性存在からの侵略の脅威に対抗する役目を担う偉大な騎士たちの存在を。それは紛れもなく、この世で最古にして最大、そして最強の退魔集団……工藤よ、貴様はこれから瞬きの数を意識して減らさなければならん。これから貴様が目にする光景は、武人ならば誰もが千金を積んでもその目撃を望む代物だ」
大仰な言い回しだが、刑部の表情はどこまでも真摯であった。刑部はもう工藤を見ていない。ただひたすらに、大百足の姿を凝視していた。その目には畏怖や嫌悪の色は無い。それどころか、歓喜とも思える明るい感情さえ見て取れた。刑部の視線はさながら、活劇映画の中で正義の味方の出番を心待ちにする子供が放つ純粋無垢な熱望のそれであった。
工藤は固唾を飲むと、自らの視線を刑部の視線に沿わせて大百足に焦点を当てる。刑部に言われた通り、意識的に瞬きの数を減らす一方、工藤の視線もまた興奮と期待によって急速に熱を帯びていった。
日本武道館西口出口へと向かって疾駆する純白に彩られた清澄な影があった。それは小柄な人間の姿をしていながら、ただ一つだけ特異な点があった。それは頭部である。白き人影の頭部は、驚いたことに人のそれの形をしていなかった。
鼻と口が大きく前方に伸びており、その口には刃のような鈍色湛えた白牙が生え揃っている。両の耳は角のように頭頂を超えて伸びており、顔の正面の鋭い双眸からは爛々と黄金の光が放たれている。それは、驚いたことに、この世で最も獰猛な生物の一種でありながら、ときに万物の霊長を上回る知恵を見せる気高き野生の結晶、食肉目イヌ科イヌ属に属する哺乳動物、狼の頭部であった。
狼の頭部に人の身体。
西洋の怪奇譚に登場する人と狼とが混合した獣人‐人狼‐である。
だが、待て。果たしてその表現は適当なのか。見るがいい、人狼の全身を。それを構成するものは体毛や肌などではなく、極めて人工的な材質ではないか。全身を余すことなく覆う密着型スーツは柔らかな光沢を漂わせるピュア・ホワイトに彩られており、両肩、胸、背中、そして肘から先の手と膝から先の足を包むプロテクターはメタリック・ブルーに塗色されている。スーツとプロテクターは共に金属のように無類の堅硬を誇示しながら、同時に陶器のような優美な輝きを誇っていた。
人狼を模した人影は駆ける。
地面に届かんばかりの長尺の襟巻を翼のように背後へとなびかせて駆けている。
この人狼こそ、先ほど魔剣蟲を日本武道館の外にまで蹴り飛ばした存在であり、驚くべきことに、サービスがキットの力を借りて変じた戦いの姿であった。
追い詰めたはずの魔剣蟲に止めを刺そうと動いているのだが、外から流れ込んでくる大気に濃厚な邪気が混ざり始めたことを感得して、事態が終焉に向かいながらも同時に深刻になりつつあることを、サービスは経験で察していた。サービスがこのように漠然とした危惧の念を抱いたとき、その内容を具体的に説明する役割は、いつだって情報の収集と解析を務める彼の相棒が担う。
【敵は内包していた力を一気に解放した模様】
声は狼頭を模したヘルメットの内部からサービスの脳へと直接響いた。キットはサービスが纏っているコンバット・スーツ及びアーマーの全機能を統括するAIなのだ。
【力量と全貌は、今までとはかけ離れたものとなっている。相手はすでに捨身となっているぞ。敵はそもそも太平洋戦争における日本の戦没者たちの無念と怨念の力が凝縮して生じた魔獣だ。本来ならば、身の内に溜めた暗黒感情の力で、五十年はこの国に破壊と悲劇をもたらす心積もりだったはずだ。そのための力を、今この瞬間に全て解放し、消費する覚悟だ。寿命と自身の生の意義のほぼ全てを代償として得る敵の力は絶大だ。多神教において一柱と数えられても不思議ではないほどの力だろう。君とはいえ、最大限の注意が必要だ】
「あいよ、もろもろ了解。そんなことより、工藤さんは避難されたか?」
【ああ。すでに避難は完了している。しかし、君にも見せたかったぞ。流石は王牙殿が着目する剣士の一人だ。対戦相手だった刑部の言葉を借りるならば、剣の権化】
「へえ、やっぱり凄ぇんだな。この仕事が終わったら、是非一手ご指南願いたいもんだな……さて、キット。お前さんの話が本当なら、いくら森綱さんが張った結界でも、あの魔剣蟲を抑えることはもう無理だ。現世にいられる時間が短くなったとは言え、それでも小一時間程度はいられるんだろ? 擬きの神でも、その力は東京を滅ぼすことだってできるはずだぜ?」
【そうだな。日本ほどの経済国の首都が壊滅すれば、下手をすると世界的な経済恐慌への火種にもなりかねない。それだけは何としても阻止しなければならないぞ。人の命だけでなく、その財産を護ることが武人の役割なのだから】
「仰る通りで、相棒。それで、オレにその武人の役割とやらを叩き込んでくれた我儘理不尽不条理大王からの許可は下りたか?」
【ああ、つい先ほど思念通信で届いた。解放時間は最大で一分、神通力の解放率は0.0001%を上限とする条件で『行け、阿呆』とのことだ。しかし、その……なんだ……どうも少し、王牙殿は機嫌を損ねられているようだった】
「そんなこと知るか。オレの方はとっくに怒り心頭だぜ! 英霊以外にあんな怨念の化け物が出てくるなら、先に言っておけよって話だ。意地悪したかったのか、面倒臭がったのか、単純に忘れていたのか、何にせよ工藤さんを巻き込む事態に陥っちまった。この落とし前をどうつけてくれようか? 今後こそ絶対にぶちのめしてやるぜ!」
【たちまち返り討ちに合い、地べたに這いつくばる姿が目に浮かぶんだが……まあ、止めはせんよ】
「オレだって日々成長しているんだぜ。この力に天地開闢以来の、それこそ全宇宙が味方してくれたような空前絶後の大幸運が加わってくれれば、もしかするとだけれど、もうほとんど無くなっちまった王牙さんの薄毛の先を揺らすぐらいはできるかもしれないだろう。しかし、それも全部後の話だ。今は眼前の敵に集中だ。一丁、派手に行こうや、相棒!」
【ああ。共に死線を越えよう】