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注射で手が震えそうになる薬剤師の話。

 今回は病院薬剤師の業務の一つである、注射薬についてお話したいと思います。

 その中でも混注作業と呼ばれる、メッチャクチャ神経の使うお仕事のお話。



 ところで“注射薬”と聞いて、みなさんはどのようなイメージが浮かびますか?


 入院先のベッドサイドにあるスタンドに吊るされた点滴バッグから、ポタポタと落ちているアレ。

 ギラリと光る注射針がついたシリンジで腕にブスっ、ピャッと打たれる予防注射。



 そんな感じの想像ができますでしょうか。

 我々が普通に生活するうえで見かける注射薬といえばそのあたりかと思います。


 しかし、ひと口に注射薬言っても様々な種類があるのです。

 先に挙げた点滴バッグというのにも、用途によって数え切れないほどの薬剤が存在しています。


 熱中症や脱水の際には体液の代わりに補充するもの。

 栄養不足の時はカロリーやビタミンなどが詰まった栄養剤。

 病気の時には症状を抑える薬や原因を除去する薬剤、などなど。



 これらは調子が悪すぎて飲み薬が服用できなかったり、早く効果を出したい時には注射薬なんかが使用されることが多いです。

 あとは特定の部位を治療したい場合などですね。



 とまぁ、こんなお薬もドクターや看護師さんに使いたいからちょーだい、と言われて薬剤師が「はいっ、どうぞ!」と言ってお渡ししているわけではございません。


 ちゃんと患者さんにとって適切なお薬なのか、量は大丈夫か、他の薬との相性はetc……沢山の、本当にたっくさんのことをチェックしてからお渡ししているのです。



 ここでさらに複数の薬剤を使いたい、なんてことも出てくるという事も出てきます。

 簡単に例に挙げられるだけでも解熱剤、胃薬、抗がん剤、栄養剤、利尿剤、精神安定剤、抗生剤、痛み止めなどなど。

 これらを用途によって様々な組み合わせにして使用するのです。


 それらを一つ一つ注射器に吸い取って、一回一回患者さんの腕に注射……なんてしていたら腕が穴だらけになってしまいますよね。

 時間も手間もかかり過ぎてしまいます。


 そこで混ぜられるお薬はなるべく投与する前に、あらかじめ混ぜてしまうのです。



 実際に注射を入院患者さんに投与するのは看護師さんであることが多いので、病棟に居る看護師さんが混ぜるのが殆どです。


 しかしモノによっては薬剤師が担当しています。

 混ぜるのに技術や器具が必要だったり、陽圧や陰圧といった特殊な環境を作る部屋でないと危険があったりということもあるからです。



 学生時代から実習でこの混ぜる作業、混注業務をやっているので、慣れて覚えればそれほど技術を心配する必要はありません。

 というよりやれなければ実習が合格できないので、そもそも薬剤師に慣れないのですが。



 しかしタイトルにありますように、どうしても手が震えそうになる薬剤を混注する必要がある時があるのです。

 それはいったい、どんな薬剤なのか――?


 その答えは簡単。

 ぶっちゃけやりたくないとまで思わされたその薬剤とは、



 ――超高額な薬剤



 はい、そうなんです。

 いやいや、ちょっとそんなので? と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、実際に目の前へ、ひと瓶百万を超える薬のバイアルをポンと渡されて「はい、やってね。混ぜにくかったり異物混入しやすいけど頑張ってね」なんて言われたら、震えあがるのも当然というものですよ。


 しかもそれを使用する方が何人も回って来ると、目の前の薬だけで一千万。

 これを己の手で活かすも殺すも変わってくる、といったプレッシャーは尋常じゃありません。


 そりゃあ患者さんの命に比べたら取り返しのつく部類ですが、どうしても脳裏を「これを落としたら百万円、手順間違えたら二百万……」というセリフがよぎるのです。



 それを毎日のように繰り返す……慣れはしますけど、やはり怖いです。




 ちなみにコレ、看護師さんや患者さんは恐らく値段を知っている方は少ないはず。

 破損しても病院が負担してくれるし、医療費減額制度や上限によって患者さんの支払う金額はそれほどにはならない。


 特に患者さんには「軽自動車買える金額が今、自分の中に入って来るのか……」とか思っていたら治療に支障がでそうですし。




 ということで今回のエッセイの裏テーマは、


『世の中には知らなくてもいいことがある』


 ……そういう教訓のようなお話でした。





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― 新着の感想 ―
[一言] いちおう病院薬剤師の端くれをやっております。えけ、ほんと高い薬は高い・・・、オ○ジ○ボとか、ス○○ーラとか・・・混注もですが、冷所保管品は使ってなくても問屋に返品できなかったりすることもある…
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