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序譚

「リリア様!もうこれ以上は持ちません!!」


「ここは我らが食い止めます!リリア様は早くお逃げください!」


兵士達の声が屋敷の中を反響する。怒声と咆哮が入り交じるこの空間はまさに阿鼻叫喚であった。私は何故こんな状況になっているのか。何故こんな所に居るのか。頭が思考する事を止め、私はその場に崩れ落ちる。


兵士達が殺られていく姿を横目に周りを見渡す。焼け崩れていく屋敷の柱に、既にこと切れている兵士達。私は死を覚悟した。


「そのオンナをよこセ。我が王がお待ちダ」


身長が180を超えていよう黒装束の男がこちらへと歩いてくる。近づいてくる足音はまるで死のカウントダウンのようだ。一歩、また一歩と近づく男に私は何も出来ない。腰が上がらない。


「リリア様に近づくな!!この化けものがァ!!」


兵士の一人が黒装束の男へと切りかかる。その剣先は黒装束の男へと向かっていき、腹の辺りを突き破る。しかし、男が右手を上げると、その一秒後には切りかかった兵士の体が左右半分づつになっていた。内蔵は飛び散り、眼球がこぼれ落ち、脳髄が地面へとぶちまけられる。あまりの一瞬の出来事に私は理解が追いつかなかった。そして、その光景に私の脳はパンクする。


「うげろヴォろろ…」


びちゃびちゃと音を立て私は地面に吐瀉物をぶちまけた。焼ける死体の臭いと、危機的状況に体が危険信号を送っている。


「キタナイオンナだナ。王は何を持ってこのオンナを欲するのカ。まぁ、オレには関係の無い事だガ」


「……けほっけほっ…待って…お願い…助けて!なんでもするから!!」


「案ずるナ。殺しはしなイ。それは王の決める事ダ」


「やめて!近づかないで!!ほら、金でしょ!!それともここの領地!?そんなもいくらでも上げるから!!」


黒装束の男は頭をポリポリと頭を搔いた後に呟く。


「ウルサイオンナだナァ。殺したくなってきタ」


「ひ、ヒィ!や、やめて!お願い!なんでもするから!!本当になんでもするから!!」


もう領主の威厳なんてものは無い。いかにしてこの化け物から助かるか。私にはそれしかない。しかし、そんな私の希望を男は聞いてくれはしない。腰から小さなナイフを取り出すと縦に振り上げる。


「オマエもキレイな縦割りダァ」


そう言ってニチャアと悪う男の顔を私は一生忘れる事は出来ないだろう。いや、ここで死んでしまうのだからそんな事は関係ないか。


死ぬ直前になりある種の冷静さを取り戻すと私は強く目をつむった。これが夢でありますように。目を開けたら暖かい布団の上で目が覚め、じいが暖かい紅茶を持ってきてくれる。きっとそうに違いない。


目を強く瞑り現実逃避をしていると、黒装束の男が立っている目の前から爆音が鳴り響く。耳を#劈__つんざ__#く様な音をたてたあと、その音の後を追うように強い光が瞼の裏の眼球にまで伝わってくる。


「な、なんダ!!!」


音と光が止み、私は小さく目を開けるとそこには見た事のない格好をした男達が三人立っていた。皆状況が飲み込めず無言になるが、少しの間沈黙が続いた後、光と共に現れた男の一人が口を開く。


「んんん…???ここはどこだ??俺達は#大倉御所__おおくらごしょ__#へと向かっている最中のはずだが…」


ハテ?と一人で首を傾げる男に、その隣の男が語りかける。


「#資経__すけつね__#様。確かにそこも気になる所ではござりますが、まわりを見渡してみてくださいませ。何やらただ事では無さそうな雰囲気でござりまする」


「うむ、確かに。これは一大事であるな。何やら変な服装の男に変な舘が襲われている」


資経と呼ばれた男は三人の中で一番長身で、長い髪を後ろで束ねている。こんな男らに変な館扱いされたのは尺ではあるが、彼等が救世主である可能性に希望をかける。


「いやいや、殿。#景晃__あげあきら__#が言いたいのはそういう事では無いでござりましょう~。目の前をお向きくだされ~。まだ年端もいかぬ#女子__おなご__#が血を出しておりましょうが」


「うむ!確かに!!これは一大事にこざるな!女子が襲われておる!」


何やら奇妙な言葉遣いをする男達が突如現れ、場の空気をぶち壊す。先程まであんなにも恐れていたあの黒装束の男さえ霞んで見えてきた。当の その男はというと、自分を無視され勝手に現れ話している男達に対する怒りからか、ワナワナ と震えている。


「キサマらぁ…勝手に現れてなんの用ダァァ!!!」


黒装束の男は叫び右手を上げる。まただ。また目の前で人が死ぬ!!何者かは知らないが、あの男達も殺されるのだ。


私はあの光景をまた見ぬようギュッと目を瞑る。


私が目を瞑っているとキンっという金属同士のぶつかりあう音が聞こえてくる。そしてその後、先程の男の一人の叫び声が聞こえてきた。


「貴様!名も名乗らず斬りつけるとは何事かッ!!」


「!!??ナゼオレのナイフを止めていル!!」


私は男のその言葉に耳を疑った。あの攻撃を止める??そんな事絶対に不可能だ。


私は目を見開く。そして目をぱちくりさせる。それもその筈だ。先程、景晃と呼ばれていた男は今立っている場所から一歩も動くこと無く、黒装束の男の目に見えぬ斬撃を全受け切っている。長身ではあるが細身の、それにあんな優男の顔をした男のどこにそんな力があるのか!これが驚かずに居られるだろうか。


「時に、そこの少女よ。ここは明らかに戦場であろう。何故そのような場所に女が居る」


景晃と呼ばれていた男が打ち合っている横で、一番迫力のある資経と呼ばれていた男が冷静に問いかける。


「い、いくさってなによ!!戦場なんて言われても知らないわよ!!こんなの戦争じゃない!そいつが突然来てみんな殺されたの!ただの虐殺よ!!!」


あまりに非現実的な状況のあまり声を張り上げてしまう。


「そうであるか。虐殺であるか」


男はそう言うと腕を組み、何かを考え始める。目の前で仲間を殺されかけているのになんて悠長なの。まるでこの状況をなんとも思っていないような…


「静まれい!!!!!!」


資経のその声に皆電流が流れたかのように動きが止まる。まるでその言葉が生きているかのように直接響く。


「そこの変な男。貴様名をなんというか」


「へっ。答えるギリはナイが冥土の土産に教えてやろウ。我が名はアルカンタ。あの世でこの名を叫ベ」


「あるかんた??やはり貴様等日の本の者では無いのか。しかし目の前で少女が泣いておる。見捨てる訳にも行かぬな。よし、ここは俺と貴様の一騎打ちと行こうではないか」


「オマエはなにを言っていル?」


「我こそは音に聞こえし鎌倉殿に使える御家人、武蔵国、楠資経なり!そなたを名のある者と見て手合わせを望む!」


「貴様、大丈夫カ?」


アルカンタを名乗った黒装束の男は資経のよくわからない言葉を無視して突っ込む。


ニチャァと笑った男はまたナイフを掲げ接近していった。


「フン!」


資経がそういって腰に差さった剣を抜く。


_______刹那、一瞬にしてアルカンタの首が飛んでいた。


「うむ。今日も切れ味は悪くない」


ほんの数秒の出来事であった。


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