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4 禁じられたドア

 先に、三つ目の部屋も探索したと僕は言った。忘れない内に、その事も話しておこう。

 

 三つ目の部屋…僕らは恐る恐るドアを開けた。弟の部屋からそこに行く事ができた。僕らは怯えていて、もしかしたらそこに誰かいるかもしれないと思っていたのだが、ドアを開けたら拍子抜けしてしまった。そこは誰もいなくて、なんというか、共同部屋という感じだった。そこにはふかふかした座る所があったり、また、体を動かす為の器具が置いてあった。それが体を動かす器具だというのは、それを見た時、僕も弟も同時に思い出したからだ。かつてそれで運動して、体がなまるのを防いでいたって。それ以上の記憶は出てこなかったけれど。

 

 僕らは失望すると同時にほっとして、三つ目の部屋を見回った。僕は右の壁に沿って弟は左の壁に沿って。部屋には、誰も見えないし気配も感じなかったので、僕は気楽に散歩気分で部屋を見ていた。ところが、反対側で弟が急に鋭い声を上げた。弟は向こうの方で何かしていた。

 

 「兄さん!」

 

 弟は僕を見て手招きした。僕はそっちへ向かった。そこには何かありそうだった。

 

 弟の横に並んだ僕が見たのはドアだった。それは、またあのまわりに沢山金属がついた大げさなものだった。「兄さん、これ」 弟が言って、指差した所には、文字が書いてあった。ドアの真ん中に大きく、木の板が掛けられていて、そこには赤い字で次のように書いてあった。

 

 『絶対に開けるな!』

 

 僕らは顔を見合わせて、「開けるなってどういう事だろう?」と話し合った。弟は、ドアの向こうには危険があるんじゃないかと言った。僕は、考え込んだ。なぜ、このドアだけは開けてはいけないんだろう? そういえば、あの見取り図にはこのドアは記されていなかった。秘密のドアなのだろうか? 興味をそそられたが、弟と話し、とにかくドアは勝手に開けない事にしようと約束してからそこを離れた。そうして僕らは弟の部屋に戻ったのだった。

 

 ※

 

 僕と弟は寝ていた。探したら毛布のようなものが沢山置いてあったので、上にかぶって寝た。枕がなかったので、毛布をまるめて、枕代わりにして寝た。

 

 僕らは一通り探索して、缶で栄養を取ると寝っ転がった。休憩のつもりだったのだが、弟は眠り出した。隣からは穏やかな呼吸音が聞こえる。

 

 僕は起きて、考え込んでいた。どうして、僕らは二人なんだろう。以前には二人以上いたのに。ここではない場所で生活していたのに、どうしてここに移されたのか。どうして弟と共にこの部屋で起きたのか。そもそもこの部屋は何なのか。僕らが以前生活していた場所とどう違うのか。

 

 記憶を探ろうとすると、イメージがぼやけていく感覚がした。どうしても以前の事が思い出せない。この部屋で起きる以前。僕は…僕は…以前、部屋に住んでいた。ここよりももっとみすぼらしい所で。弟と僕…食卓に座っている風景。もう一人、二人いた気がする。そして…

 

 考えていく内、ふと、一つのイメージが頭にひらめいた。僕は…部屋を飛び出した事がある。どうやって? 何か、開けてはいけないドアを開けたのだ。(開けてはいけない?) …自分で考えてみても、はっきりしないが、とにかく開けてはいけないドアを開けて、部屋を出た気がする。

 

 僕がドアを開けて出た所は、部屋の中とは違うものだった。なんというか、全部が遠くで遥かで、向こうの方で何かがチカチカしていると共に、空気の動きが普通と違って、体がなんだかグラグラ揺れるような気さえした…あれはなんだったんだろう? 緑色の塊が遠くに見えて、遠く…そんな風に広がっているものがあるというのがよくわからなくて、それはすぐ近いんだろうと思ったけど…いや、あれは本当にそんな風景だったのだろうか? 今の僕には自信がない。

 

 まごまごして、色々な見えるもの聞こえるものに驚いていると、いきなり後ろから太い腕で抱きすくめられて「この小僧!」と言われて、僕は部屋に戻されたのだった。そうだ…そうだった気がする。

 

 僕は弟が眠っている間にそんな記憶を再現していた。やがて僕も眠くなってきたので寝たが…。僕にはその時見たものはとても大切なものだった気がする。というのは、部屋の中ではない場所に始めて歩いて行ったという記憶なのだから…そうか! その時、思考の淵にいた僕は急に思い立った。そうだ! 僕は、『部屋の外』にいたぞ! あの時、僕がいたのは『部屋の外』だった!

 

 やがて僕は、目が覚めたらこの話を絶対に弟にしようと思い定めて、眠りについた。絶対にこの話をしよう。大切な話だから。そう思い定めた。そうして僕は『起床』以来、始めての眠りについた。

 

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