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ソゥラ

「えっ、あ、うん。この地方の人から依頼を受けて、邪悪竜をやっつけに来たんだよ」


 ハッキリとした深いため息が、ソゥラの小さな唇から聞こえてきた。

 あらら、どうやら、歓迎されてないみたいね。


「悪いことは言いません。すぐに、スーリアから出て行った方がいいです。この地に長くとどまると、きっと良くないことが起こります。お願いします、できることなら、今すぐ引き返してください」


 苦労して来たばかりなのに出てけと言われて、正直ちょっとだけカチンときたが、その怒りはすぐに収まった。


 ソゥラの表情が、本気で俺たちの身を案じているように、不安そうだったからだ。……まさか、巫女さんだから、スピリチュアルなパワーで、俺たちの悪い未来を予知したとかじゃないよな。


 まあ、こちらとしても、別に長居する気はない。

『邪悪竜とやらをやっつけたら、すぐに出ていくよ』

 そう言おうとしたのを、ウーフが怒ったように遮った。


「客人に対して、無礼だぞソゥラ。謝りなさい」


 有無を言わさぬ、厳しい口調。

 しかしソゥラは、プイとあっちを向いて、返事をしない。

 どうやらこの兄妹、あまりうまくいっていないようだ。


 ウーフは、一人でこの辺りをうろついていたソゥラの身を真剣に案じていたのだから、仲が悪いわけではないのだろうが、思春期真っただ中の妹をどう扱っていいか、手を焼いているといった感じだろうか。


 まっ、人それぞれ、色々な事情があるのだろう。

 家族のことに外野が口出しするのは野暮ってもんだ。

 俺は、「それじゃ、もう行くから」と短く言って踵を返し、その場を出発しようとした。

 その背に、再びウーフの怒声が響いてくる。


「ソゥラ、彼女たちに謝るんだ」


「だから、いちいち命令しないでって言ってるでしょ。……私、命令されるのは、もう嫌なの」


「お前、何をそんなに苛立っているんだ? ふぅ、昔は素直だったのに、近頃は特に聞き分けがなくなって、困ったものだ」


「……何よ、私が普段何を考えてて、今どんな気持ちなのか、知りもしないくせに。だいたい、シャーマンよりも、ピジャン神の巫女の方が、格は上なのよ。これからは、二度と頭ごなしに命令しないで!」


「なんだと! 兄に向って、その態度はなんだ!」


 うおぉぉ……なんか、すっごい険悪なムードだ。

 家族の問題だから、首を突っ込むのはやめておこうと思っていたが、これほど荒れた状態の兄妹を放って行くのは、さすがに心が咎める。俺は、そろりそろりと二人に近づいて、恐る恐る声をかけた。


「あ、あのぉ~……ヒートアップしてるところ、申し訳ないんですけど、あんまり騒いでると、それを聞きつけて邪悪竜の眷属が来るかもしれないし、ここは一旦、お互いに矛を収めて、安全な集落に帰った方がいいと思うんですけど……」


 その言葉で、ウーフは我に返ったのか、俺に頭を下げ、なるべく平静を装った声を出す。


「……そうですね。見苦しい姿を晒し、申し訳ありません。行こう、ソゥラ」


 これ以上ここで言い争いを続ければ、俺たちに迷惑がかかると考えたのだろう、ソゥラも大人しく頷くと、ウーフに促され、俺たちに背を向けて、この場を離れようとした。


 その、二人の後姿に、余計なお世話かとも思ったが、一声かける。


「あの、兄妹、仲良くね。ほら、こんな時だし、余計に力を合わせないとさ」

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