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お告げ

「どういうことだ? 意味が分からん。さっき、邪悪竜が暴虐の限りを尽くしていると説明していただろう。どこにいるかも分からない、誰も見たことのないような奴が、人目を盗んで、暴れまわっているとでも言うのか?」


 首をかしげてそう尋ねるイングリッドと、俺もまったく同意見だった。

 あちこち移動していて、どこにいるのか分からないというならともかく、誰も見たこともないなんて、変な話だ。


 訝しがる俺たちの視線を、ウーフは真正面から受け止めながら、淡々と話す。


「あなたたちが奇妙に思うのも無理はありません。しかし、誰も見たことがなくても、邪悪竜が復活し、暴れているのは間違いないのです。ピジャン神から、そう『お告げ』があったのですから」


 お、お告げって……

 こりゃまた、えらくスピリチュアルな単語が出てきたな。


「シャーマンは、夢の中で神のお告げを聞くことができます。私は一ヶ月前に、邪悪竜が復活したとお告げを聞いたのです。それからは毎日のように、邪悪竜が暴れているという神の啓示を夢で見るようになりました。だから、これは間違いないことなのです」


「つまり、こういうことか。実際に邪悪竜の存在を確認してはいないが、夢の中の神様が『いる』と言っていたから、それを信じていると」


「そうです」


 静かな沈黙が、テントの中を満たす。

 少し経ってから、イングリッドが俺だけに聞こえるよう、耳打ちした。


「駄目だな、これは。旧文明的すぎて、話にならん。……邪悪竜など、実際は存在していないのではないか?」

「いや、でも、眷属? だっけ? あの大トカゲが集落を襲ってるのは本当みたいだし、そんな、疑ってかかるのも……」


 と言いつつも、俺もだんだん、邪悪竜なんていない気がしてきた。

 だって、お告げがあっただけで、実際に見ていないなんて言われたら、誰だっておかしな話だと思うよなあ。


「私が思うに、このスーリアのどこかに、それなりの力を持った竜がいるのは、本当なのだろう。そいつが、眷属を生み出しているのも、本当だろう。実際に私たちも襲われたわけだしな。だがその竜は、百年前に封印された邪悪竜などという仰々しい存在じゃない。世界中、どこにでもいる、ちょっと強いドラゴンの一匹。ただそれだけのことだ」


「あー……うん。やっぱ、そんな感じなのかなあ……」


「まあ、どちらにしろ、私たちのやることは変わらん。さっきも言ったが、とっとと竜をやっつけて、帰るとしよう。この辺りは湿気が多くて、あまり好きになれん」


 そう言うとイングリッドは、すっくと立ちあがり、ウーフに言った。


「竜がどこにいるかわからんと言うなら、私たちで勝手に探して、勝手に駆除させてもらう。それでいいな?」

「それは、もちろん構いませんが、スーリアは似たような地形が多く、迷いやすい地域です。特に、土地勘のないイハーデンの方々にとっては。当てもなく林に入ると、迷ってしまいますよ」


 実際、俺たちはこの集落に到達するまで半日以上迷っていたので、彼の言葉には説得力がある。

 だがイングリッドは、自信満々に、不敵な笑みを浮かべた。


「問題ない。この集落に暮らす人々のオーラは、このコユリエが覚えた。それを探知すれば、簡単にここまで戻ってくることができる。なあ、コユリエ」


 イングリッドは、魔装コユリエに話しかけながら、片目をつぶる。

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