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アドロロ・ズー

『アドロロ・ズー』という名前を聞いて、ウーフは合点がいったように頷き、それから深い溜息を吐いた。


「そうですか……アドロロなら、イハーデンの冒険者ギルドに依頼を出してもおかしくありません。彼は隣の集落の族長でありながら、古くからの掟である、他地方との交流禁止の令を破って、通商まがいのことをしている男ですからね。それにしても、シャーマンである私に一言も相談せず、依頼を出すとは……まったく……」


 忌々しげにそう言うウーフを見て、彼はどうも、俺たち――というか、イハーデンの者がやって来たことを、喜んでないような気がした。


 そもそも、『他地方との交流禁止の令』とやらがあるのなら、今こうして、俺たちと話をするのも、彼にとって、あんまり良いことではないはずだ。


 モヤモヤした気持ちを抱えたまま依頼に取り掛かるのも嫌なので、俺は、素直に思ったことを口に出す。


「もしかして、俺たち、あんまり歓迎されてない感じっすか?」


 ウーフは、困ったような笑みを浮かべて、言った。


「正直に言えば、そうです。我らの神、ピジャン神の教えで、基本的にはイハーデンの者との交流は禁止ですから。集落の者たちも、テントに籠って、出てこないでしょう? ただ……」


「ただ?」


「スーリアの惨状を知り、こうして駆けつけてくれたあなたたちを邪険にするのは、人としての道に反します。それに、人々を苦しめる邪悪竜を倒すためなら、あなたたちに協力することを、ピジャン神もお許しになるでしょう」


 ふぅ、よかった。

 最悪の場合、このまま帰れと言われることも一瞬覚悟したので、どうにか協力を得られそうで、ホッとした。


「あの、それで、依頼者のアドロロさんにも、詳しい話を聞きたいんですけど」

「アドロロは、死にました」

「えっ」

「つい先日、彼の集落が邪悪竜の眷属に襲われたようなのです。それで……」


 ウーフは俯き、重たい溜息を吐いた。


 なんてこった。

 俺たちが来る前に、依頼者が殺されてしまうなんて。


 道に迷ってもたもたしていなければ、被害を防げたかもしれない。

 そう思うと、申し訳なくて、俺は何も言うことができなかった。


 しばらくの沈黙の後、ウーフは話を再開する。


「あの邪悪竜が復活したのは、一ヶ月前のことです。我々の先祖によって施された封印が、恐らくは経年劣化で壊れてしまったのでしょう。よみがえった邪悪竜は、次々と眷属を生み出し、暴虐の限りを尽くしています。まだ、被害はスーリア地方の集落だけですが、いずれはイハーデンにも、奴の魔の手が伸びてくるかもしれません」


 深刻そうなウーフとは真逆に、それまで黙っていたイングリッドが、事も無げに言う。


「なるほど。では、その前になんとかしなければな。ぐずぐずすることもない。まだ日も高いし、早速やっつけに行こう。その邪悪竜とやらは、どこにいるんだ?」


 まるで、ネズミ退治にでも行くような軽い言い回しが、やけに頼もしい。

 邪悪竜の眷属とやらも、イングリッドにかかれば一撃だったし、親玉も大したことないだろう。


 俺もイングリッドの提案に賛成だ。

 レニエルも、特に異存はないらしい。

 ウーフは、どう答えるべきか、少し逡巡し、言葉を返した。


「それが、邪悪竜がどこにいるかは、良く分からないのです。もっと言うなら、その正体すらも、ハッキリと目視した人間はいないのです」

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