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光石

 思わず、なんじゃこりゃと口走りそうになったが、こういうのって、原住民の人にとっては重要な意味があったりするから、侮辱にならないように、とりあえず黙っておくことにした。


 それにしてもこのテント、外に比べてかなり涼しいな。


 と言うより、少々肌寒いくらいだ(上半身がバンダナ一枚なせいもあるだろうが)。陽光を取り入れる窓のようなものが一つもないから、内部の温度が上がらないのだろう。


 だが、不思議なことに、テント内は柔らかな明かりで満たされている。

 こりゃいったいどういうカラクリだ。

 そんな俺の疑問を氷解させたのは、またしてもレニエルの博識だった。


「あっ、これはめずらしい。ピジャンの光石を、照明灯の代わりにしているんですね」


 ピジャンの光石って何?

 そんな問いが、言葉にしなくても、俺の顔いっぱいにあらわれていたのだろう。

 レニエルは、小さく微笑んで、解説を始める。


「ピジャンの光石とは、光の魔力を含んだ石のことです。スーリア地方のみで採取できる特殊な鉱石で、何もしなくても、半永久的に光を放ち続けるんですよ」


「へぇ、そりゃ便利だ。光熱費が浮くな。一つ分けてもらうか」


「い、いえ、それはちょっと……ピジャンの光石は……」


 俺の図々しい提案に、レニエルが困ったように口ごもり、青年の方を見る。

 青年は、申し訳なさそうな笑みを作り、俺に頭を下げた。


「申し訳ありません。ピジャンの光石は、我々の崇める、慈愛溢れる神――ピジャン神からの、スーリアの民に対する恵み。ピジャン神との約束により、イハーデンの方々に、お譲りするわけにはいかないのです」

「いや、そんな、いいんすよ。頭を上げてください。ちょっと言ってみただけなんで。あはは」


 俺の笑い声が終わると、青年は頭を上げ、床に敷いてある円座に腰を下ろすよう、俺たちに促した。


 レニエルと俺は、小さく頷いて、座る。


 ピジャンの光石を、子供のような眼差しで、不思議そうに眺めていたイングリッドが、俺たちが座ったのに気がついて、慌ててそれに倣い、ぺたんと座り込んだ。


 最後に、青年がその巨体をどっしりと下ろして、一度深呼吸し、話を開始する。


「自己紹介がまだでしたね。私はウーフ。この集落の族長であり、スーリアの呪術者を統括するシャーマンです」


 へえ、族長。

 族長って、もっとお年を召した爺様じいさまがやるイメージがあったけどな。

 この青年――ウーフは、二十歳そこそこに見えるが、まあ、若くても優秀なのだろう。


 それにしても、『族長』は意味が分かるが、『呪術者』だの『シャーマン』だのは、よくわからんな。


 まあ、俺たちの住む地方で言う、魔法使いみたいなもんだろう。いちいち聞き返していては話が進まないので、俺は黙ってウーフの言葉に耳を傾け続けた。


「ところで、皆さんは邪悪竜討伐の依頼を受けて、ここまでやって来たとのことですが、いったい誰から、依頼があったのですか?」


 誰からって、そりゃ、スーリア地方に住んでる誰かだろうけど、そういう個人名って、書いてあったっけ?


 俺は、レニエルに目配せして、依頼書の写しを確認してもらう。

 すると、すぐに依頼者の名前は分かったらしく、レニエルはコホンと咳払いして、言う。


「ええっと、依頼者は、『アドロロ・ズー』という方ですね。独特な響きですから、やはり、スーリアの人だと思うのですが……」

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