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溶解

「なんだ? 俺の服がどうかし……あっ」


 そこで、気がついた。

 精霊の服が、ボロボロに溶解し、自分がほぼ半裸状態になっていることに。


「おっ!? おおぉーっ!?」


 驚きと羞恥で、珍妙な声を上げてしまう。

 なんだこりゃ。

 服だけを溶かす攻撃なんて、エロ漫画の世界でしかないと思っていたが。


 一応、皮膚を確認する。

 火傷や、ただれのようなものはまったくない。

 ものの見事に、服だけ溶けている。


 イングリッドが、こちらを舐めるように見て、言う。


「うーむ、なんてハレンチな攻撃だ。これはけしからんな……ふふっ」

「おい、今お前、笑わなかったか」

「笑ってない。……それにしてもけしからん……ふふふ……」


 やっぱり笑ってやがる。

 こいつは、女同士のくせに、時々俺の着替えをじーっと見てスケベな笑みを浮かべたりするので、なるべく裸を見せたくない。


 自然と、腕で胸を隠すようにしていると、またしても大トカゲの方から、飛翔体が向かってくる風切り音が聞こえた。


「また来るぞ! あぶなっ……」


 あぶない!

 そう叫びかけた言葉が、バシャアァンという感じの、水が弾けるような音でかき消えた。


 俺は見た。

 イングリッドが、こちらにいやらしい視線を向けたまま、飛んでくる物体を見もせずに、一撃で斬り捨てたのを。


「飛んでくる方向が分かっていれば、見るまでもない。気配、それに空気の動きで、目標を特定し、そこに剣を振るだけで防げる」


 彼女は、相変わらず俺の半裸を凝視しながら、事も無げに言う。

 達人の言動だ。

 鼻の下を伸ばして、俺の胸の谷間を見ていなければ、非常にかっこよかったのだろうが……


 イングリッドは、やっと視線を俺から地面に移して、言葉を続ける。


「これは……どうやら、あの大トカゲ、圧縮した水を、大砲のように飛ばして攻撃してきたらしいな。言うなれば、超強力な水鉄砲だ」


 なるほど。

 味な真似をしやがる。

 そこで、レニエルが何かに気がついたように声を上げた。


「圧縮した水……そうか、それで、ナナリーさんの服が溶けてしまったんですね」

「えっ、どゆこと?」

「忘れてしまったんですか? 古道具屋の店主さんから貰った注意書きに、精霊の服は水が弱点で、濡れると著しく防御性能が落ちるって書いてあったじゃないですか」


 あー。

 言われてみれば、そういうことが書いてあったような、なかったような……


 しかし、防御性能が落ちるっていうのが、まさか服が溶けてしまうってことだとは。

 そりゃ、服が溶けてなくなってしまえば、必然的に防御性能もクソもなくなるわけだが。


「なるほど。そういうカラクリだったのか。この水、毒や酸ではないようだし、とりあえずは一安心だな」


 イングリッドが、現在の状況に合点がいった感じで頷くと、大トカゲに向き直る。


「さて、いつまでも裸体を眺めていては、あなたに軽蔑されてしまうからな。あの大トカゲを仕留めるとするか」

「もう若干軽蔑してるよ……」

「そうか。では、今からの剣さばきを見て、私に惚れ直してくれ」


 惚れ直すも何も、最初から惚れてはいないが……

 そう言い返そうとしたときには、イングリッドは大トカゲに突進していた。

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