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ひさしぶりの冒険

 新顔のイングリッドに、マチュアは軽く挨拶する。


「あら、綺麗な人。ナナリーさんのお友達ですか?」

「自己紹介が遅れたな。私は、イングリッド・バルガード。この方の、将来の妻になる女だ」


 言いながら、イングリッドは俺の肩に手をやる。


 マチュアは、冒険者ギルドの受付として、奇人変人とのやり取りには慣れているのか、『女同士で結婚するんですか?』とか、余計なことは聞かず、さして驚くこともなしに、俺に「そうなんですか?」と尋ねてきた。


 俺は小さく微笑んで、「違うよ」と返す。

 そこで、依頼帳の中から、ちょうどよさそうな案件を見つけた。


【町はずれの廃屋に潜む低級モンスターを駆除してほしい】


 ……うん。しばらくぶりの冒険なら、この程度の依頼でいいだろう。簡単そうな内容の割に、報酬も悪くない。


 そう思い、マチュアに声をかけようとすると、いつの間にか俺の隣に来ていたイングリッドが、キャッキャとはしゃぎだした。


「あなた、あなた! 私、この依頼がいい!」

「耳元で喚くんじゃない。なんだよ、この依頼って」


 やかましそうに俺が聞くと、イングリッドは、【町はずれの廃屋に潜む低級モンスターを駆除してほしい】の隣にある依頼を指さした。


「なになに……【緊急事態。百年の封印から復活した邪悪竜を討伐してほしい】か」

「なっ? 楽しそうだろう?」


 どこが。

 やばそうな雰囲気が漂ってるじゃねーか。


 まあ、その『やばそうな雰囲気』が、この女にとっては楽しそうなのかもしれないが。俺は一応、イングリッドとは反対側の隣にいるレニエルに相談してみる。


「レニエルはどう思う? こんなやばそうな案件、普通は余裕でスルーだよな」

「そうですね……僕とナナリーさんだけなら、挑むのは危険すぎますが、今はイングリッドさんが一緒ですから、達成不可能ということはないと思います」


 レニエルの言葉を受けて、イングリッドがふふんと胸を張る。

 そのドヤ顔に若干イラつきながらも、俺は再びレニエルに向き直った。


「でもさぁ……明らかに危険そうな依頼なのに、報酬額もいまいちだし、わざわざこんなの受けないでも……」

「確かに、実入りは良くありませんが、これを見てください」


 言われて、レニエルが指さした、依頼の詳細部分をよく見る。

 そこには、邪悪竜の手下か何かが暴れたせいで、すでにかなりの負傷者が発生し、いくつもの集落が損害を受けていると書いてあった。


 うーむ、なるほど。確かにこいつは邪悪な所業だ。

 眉を顰める俺に、レニエルは真剣な眼差しで話を続ける。


「これだけのモンスターを野放しにしておいては、もっと被害が拡大するでしょう。イングリッドさんも乗り気のようですし、この際、僕たちがサポートして、彼女に邪悪竜を退治してもらうのが、世の中のためだと思うのですが……」

「世の中のためねえ……まあ、確かに、イングリッドがいれば、邪悪竜だか何だか知らないが、負ける気はしないが」


 イングリッドは、不得手な素手での格闘でも、怪物じみた強さだったのだ。

 本来の剣術を使った戦いなら、どれほど強いのか想像もつかない。


 ……結局、俺はこの依頼を受けることにした。


 正直、こんな危険なお仕事はご遠慮願いたいのだが、依頼帳に載っていた、負傷した人々の痛々しい写真を(写真といっても、カメラで撮影された精巧なものではなく、魔法で念写されたおぼろげな画像だが)見ると、このまま放っておくのは少々気が咎めたのだ。レニエルの正義感が、俺にもちょっぴりうつってしまっているらしい。

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