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ひさしぶりのギルド

 ああ。

 そうか。

 なるほど。


 そもそもが、決闘の場から宿に帰る時に、イングリッドの奴、『子供が欲しい』だの『ねやを共にする』だの喚いてたからな。


 それで翌日、俺とイングリッドが同じベッドで寝ていたのを見つければ、いかに純真なレニエルといえど、『そういうこと』があったのかどうか気になるのが人の情というものだ。


 俺は、さして悩みもせず、あっけらかんと言う。


「どうもこうもないよ。もう滅茶苦茶に疲れてたし、普通に寝ただけだよ。イングリッドの奴も、さすがに床で寝かせるわけにもいかないから、俺のベッドに入れてやっただけさ」

「そうですか」


 そっけないほどの、レニエルの返事。

 しかし、その『そうですか』という短い五文字の中に、なんだか安心したようなイントネーションが含まれているような気がした。



 あの決闘から、一週間が経過した。

 へろへろのめろめろだった俺の肉体疲労もようやく回復し、ひさしぶりにギルドに顔を出す。


 もちろん、依頼を受けるためだ。


 これまでの冒険で、多少の貯蓄はあるものの、いつまでもボーっと休んでいられるほど、裕福な身分ではない。


 俺とレニエルはコンビで活動しているから、俺がまともに動けない内は、基本的にレニエル一人だけでギルドに行くことはなく(そもそも、分魂の法の事情で、あんまり離れ離れになるわけにはいかないしね)、こうして、二人揃ってギルドの門をくぐると、日常生活が戻ってきたという実感がわく。


 しばらくぶりに、受付嬢のマチュアと対面すると、彼女はなんだかびっくりしたような顔になった。


「あれっ!? ナナリーさん、生きてたんですか!? なんか、女騎士と決闘して死んじゃったって聞いてたんですけど」

「勝手に殺すな。誰だそんなデマ流した奴は」


 冒険者というのは、存外適当なもので、少しの間でも顔が見えないと、『あいつ、〇〇〇〇で××××して死んだらしいぞ』と、根も葉もない噂話が飛び交う。


 おおかた、俺がイングリッドと戦う羽目になった経緯だけを誰かが聞いて、その結果を勝手に創作して吹聴したのだろう。


 まあ、戦う相手が聖騎士の中でも指折りの実力者なのだから、俺が負けて死んだと思っても無理もないかもしれないが。


「いやあ、でも、生きててくれて良かったですよ。それで、今日はどうします?」

「もちろん、依頼を受けるよ。何か適当なのは……」


 そう言って依頼帳を眺める俺の耳に、背後から注文を付けるような声が響く。


「強力な怪物と戦えそうな依頼にしてくれ。たまには強者と戦わないと、腕がなまってしまう」


 声の主は、あの聖騎士イングリッドである。

 この女、あれ以来、俺とレニエルの泊まっている宿に、居着いてしまったのだ。


 イングリッドは、一度俺に拒否されても、めげることなくねやを共にしようとし、『あなたの子をこの身に宿すまでは、リモールに帰る気はない』と言い出す始末だ。


 以前、彼女は『これからやることは決まっている』と言っていたが、それはつまり、何が何でも俺の子供を妊娠するということらしい。


 正直、俺にはまったくその気がないのだが、イングリッドの頑固ぶりから言って、ちょっとやそっとでは諦めないだろう。


 そういうわけで、これからも同じ宿に住み続けるのなら、生活費のしになるように、冒険者稼業を手伝ってくれと頼み、こうして今に至るというわけだ。

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