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どうでした?

按摩あんま? ああ、マッサージのことね。うん、マッサージしてもらえば、少しは楽になるかも。よし、行こう。今すぐ」


 そして俺は、ベッドでグースカ寝ているイングリッドを放っておいて、レニエルに支えられながら、近所の按摩師のところへ向かった(ありがたいことに、宿から数軒先の場所だったので、あまり歩かずに済んだ)。


 プロの処置は流石に凄いもので、お灸、針治療の後、入念なマッサージを受けることで、死ぬほどだった苦痛が、かなり楽になった。


 按摩師に礼を言い、来た時と同じように、レニエルの肩を借りながら、帰路に就く。


 いや、傍から見ると、『肩を借りながら』なんて格好の良いものではないな。

 まだまだ足に力が入らないので、俺はほとんどレニエルにもたれかかりながら、生まれたての小鹿のように、フラフラと歩いている。


 そこで初めて、この小柄な少年が、俺の体を、しっかりと支えてくれていることに気がついた。自然と、感心した声が出る。


「お前、けっこうちからあるんだな」


「曲がりなりにも、一ヶ月間、冒険者としてやってきましたからね。これでも、少しは鍛えているんですよ」


「なるほどね。……一ヶ月か、お前と出会ってから、随分経ったような気がしてたけど、まだそれだけなんだな。もうずっと、一緒にいるような気がするよ」


「期間にすると、たった一ヶ月ですが、色んなことがありましたからね」


 しみじみと言うレニエルの金髪が、爽やかな朝の風に吹かれ、軽くそよぐ。


 肩までだった髪が、一ヶ月で少し長くなったように感じる。セミロングとまではいかないが、肩よりは明らかに伸びており、より女性的な印象だ。


「髪、伸びたな」

「えっ? あっ、そういえば、そうですね。あまり、意識していませんでした」

「へえ、意外だな。お前、女っぽく見られるの、嫌なんだろ?」

「それが、自分でも不思議なんですけど、最近そういうの、あまり気にならなくなってきたんですよ」


 ほう。


「もちろん、しっかり男性として扱ってもらえるのは嬉しいですが、女性と間違われても、以前のように腹が立たなくなったんです。……今にして思えば僕は、王の庶子であるという出自にコンプレックスを感じていて、誰にも侮られぬように、男として強くあらねばと、虚勢を張っていただけなのかもしれませんね」


 そう言って、気恥ずかしそうに笑うレニエルの顔には、無理をしている様子も、過去の自分をあざけるような調子もない。


 ただ純粋に、人として成長した――そんな雰囲気だ。


「ふぅん。まあお前、せっかく綺麗な髪してるんだからな。ある程度伸ばした方が、似合ってて良いと思うぞ」

「ふふっ。ナナリーさんがそう言うなら、もう少し伸ばしてみましょうか」


 そこで一旦会話は切れ、宿の入り口に差し掛かったところで、レニエルはもう一度口を開いた。


「あの、ナナリーさん」

「なに?」

「昨日、僕も疲れちゃって、早く寝ちゃったんですけど」

「あー、うん。そーだったね」

「あの後、イングリッドさんとは、どうでした?」


 どうでした?

 なんとも抽象的な聞き方だ。

 俺とイングリッドが、仲良くしてたかどうかを知りたいのか?


 そこまで考えて俺は、今朝、イングリッドが俺のベッドで寝ているのを発見したレニエルの、なんとも言い難い表情を思い出した。

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