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心の変化

 それから、数分もしないうちに、寝息をたててイングリッドは眠りの世界に落ちて行った。


 なんて切り替えの早い奴だ。俺は、先程起こったことに対して、少々混乱し、眠気が飛んでしまったというのに。


 というのも、イングリッド――女に迫られたというのに、俺ときたら、正常な男としての反応――つまり、期待とか、興奮とか、もっとハッキリ言うなら、欲情するような、そういう想いを、一切感じなかったのだ。


 それどころか、今の俺は女なわけだし、同性同士でそういうことをするなんて、ありえないとすら思った。


 俺は、どうしてしまったのだろう。

 体は女だが、心は完全に男のつもりだったのだが。


 ……そういえば、昔、何かの本で読んだことがある。

 心身相関――つまり、心と体は、互いに密接な相関関係にあり、体の調子が心に影響を受けることもあれば、心のありようが、体に引っ張られるように変わっていくということもあるらしい。


 そこそこの間、女の姿で過ごすうちに、俺の心も、しだいしだいに女になりつつあるのだろうか?


 考えてみれば、色々と思い当たる節もある。

 今日も、決闘前に、パンツだけになって戦うのは恥ずかしいから嫌だと思った。

 以前の俺なら、そんなこと思いもしなかったはずだ。


 うーん……やっぱり、本格的に、精神まで女になってきてるのかなぁ……

 まあ、精神が女になったからと言って、別に困ることもないのだが。


 ふぁ~あ。

 あくびが出た。


 ああ、そうだ。

 俺は眠いんだった。

 凄く眠いんだった。


 答えの出ない問いを考えるうち、消えたはずの眠気が、Uターンして戻ってきたらしい。……もう、考えるのはよそう。


 楽観主義が俺のいいところだ。

 心がどう変わっても、俺は俺だ。

 何が起こって、状況がどう変わっても、それを楽しんで、しぶとく図太く生きてやるとしよう。


 あー、それにしても、今日は本当に長い一日だった。

 疲れた……

 おやすみなさい……



 翌朝。

 目を覚ました俺を待っていたのは、想像を絶する筋肉痛だった。


 いや、筋肉痛が起こるのは、昨日の時点で重々承知していた。

 ジガルガと精神を交換し、潜在能力の限界まで肉体を酷使したのだから、それくらいは当然である。しかし、それにしても、これは……


「うっ、ぐ、ぉ、おおぉぉぉぉぉ……っ」


 身をよじり、体を起こそうとするだけで、全身に稲妻のような衝撃が駆け抜ける。


 これ、大丈夫なやつ?

 足とか、実は折れちゃってるんじゃないの?

 ほら、疲労骨折とか、そんな感じで。


「骨に異常はないようですが、全身の筋肉の張りが凄いですね。まるで、痙攣し続けているみたいです」


 俺の悶絶する声で起床したレニエルが、ピクピクと痛みに震える足を擦り、診察する。その際、治癒魔法をかけてくれているのが分かったが、大して痛みは引かず、まさに焼け石に水といった感じだった。


「な、なんで治癒魔法が効かないんっ、んほおぉぉぉぉっ……!」


 言葉の途中で、首の筋肉がつり、間抜けな声が溢れたが、恥ずかしいだのなんだのと思うような余裕は、今の俺にはない。


「脱臼や骨折をしているわけではなく、ただ肉体が疲労の極致にあるだけですから、傷を治す治癒魔法では、あまり苦痛を取ることはできませんね……。このまま寝ていれば、自然と回復するとは思いますが、あまり辛いなら、按摩のプロの方に施術してもらった方がいいかもしれません」

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