どういう関係?
確かにな。
イングリッドは、むしろ『お前は弱い』と挑発した俺の方に、強い執着を向けていた。
だいたい、レニエルを始末するなら、こんな回りくどい方法を使わなくたっていいはずだ。言葉にするのも汚らわしいが、毒殺なりなんなり、いくらでもやり方はある。
「結局、詳しいことは何もわからずじまいか。クソ術者の野郎の目的も正体もわかんないなんて、なんか気持ち悪いな」
「案外、ただの愉快犯かもしれませんよ」
「どゆこと?」
「あれだけ高等な術法を使える人間が、より明確な攻撃の意思を持っているとしたら、きっと僕たちは、こんなふうに落ち着いて食事を取ってはいられないでしょう。宿まで帰ってこられたかどうかも怪しいものです」
まあ、そうかもな。
自分の姿を完全に隠すことができるような術者だ。そんな状態で、疲れた俺たちを攻撃してこられたら、ほぼ間違いなくやられていただろう。
少なくとも、邪鬼眼の術者には、俺たちに対する殺意はないのかもしれない。
「するってえと、俺たちは、超常的な術を身につけた暇人に、イタズラでからかわれたってことか? そりゃ、いくらなんでも……」
「しかし、現状では、邪鬼眼の術者の正体を探りようがありませんから、そう思っていた方が気楽ですよ。悩んでも仕方ないことを悩んでも、疲弊するだけですから」
「お前、随分楽観的になったな」
「ふふっ、ナナリーさんの性格が、うつったのかもしれませんね」
「俺、そんなに楽観的?」
「ええ、かなり」
そこで俺たちは話を切り、互いの顔を見合わせて笑った。
レニエルの言う通りだ。
今、手持ちの情報だけでは、邪鬼眼の術者の正体も目的も探ることはできない。
それなら、とりあえずは深く悩まない方が、心の健康のために良い。
またちょっかいを出してきたら、その時は必ず尻尾を掴んでやる。
……話し込んでたら、少し腹がすいてきたな。
俺は箸を取り、ちょっとだけ肉をつまみ、口へと運んで、味わう。
うん、美味しい。
調理法は、軽く塩を振っただけなのだが、シンプルな味付けゆえに素材の良さが引き立ち、肉そのものの、芳醇なうま味が口いっぱいに広がっていく。
本当に、良い肉だ。
高いんだろうな。
明日、タルカスに礼を言おう。
そんなことを考えながら咀嚼する俺の顔を、イングリッドがジト目で見つめていた。
「……なに?」
「今、随分その坊やと良い感じだったが、二人はどういう関係なのだ?」
「どういう関係って……俺とレニエルが?」
「姉弟……ではないな。顔立ちは似ていなくもないが、髪の色が違いすぎる」
「その通り、銀髪と金髪だもんな。あっ、でも金髪の父親と銀髪の母親の子供なら、そういうこともあるんじゃない?」
「そんなことはどうでもいい! 姉弟でないなら、いったいどういう関係なのだ!」
なにこいつ。
いきなり怒鳴って……怖……
少し考えて、俺は口を開く。
「た、旅の仲間、かな?」
ちらりとレニエルの方を見る。
彼も、『旅の仲間』を妥当な表現と感じたのか、小さく頷いた。
イングリッドは、疑り深げに呟く。
「では、男女の仲ではないのだな?」
「全然違うよ……なんでそうなるのよ」




