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事実上の死刑

「お嬢さん、随分あの子に肩入れしてるんだね。何かあったのかい?」


 俺は、レニエルが魔王討伐の命を受けてここまでやって来たことを話した。

 マスターは、苦虫をかみつぶしたような顔で、言った。


「かわいそうに、そりゃ、事実上の死刑だね。あのお嬢ちゃんが、いったい何をしでかして王の不興を買ったのかは知らないが、聖騎士は王の命令に背くことはできない。そして、あの子が魔王を討伐できるはずなどない。つまり、魔王と戦って、いさぎよく死ねってことですね」

「そんな……あいつ、まだ子供だぞ。それが王の――いや、人間のすることかよ……」


 これなら、我が魔王様の方がよっぽど人道的である。

 首を左右に振りながら、マスターは言葉を続ける。


「人間なんて、そんなもんですよ。あの子が町を出て、どれくらいです?」

「えっと……そろそろ、三十分かな」

「それじゃ、もうモンスターと遭遇していてもおかしくありませんね。街道に出てる頃ですから」


 俺は、立ち上がっていた。

 あんな子供に、王命とは名ばかりの死刑宣告がなされていると聞いてしまっては、やはり、見殺しにすることなどできない。

 店を飛び出そうとすると、マスターにぴしゃりと言われた。


「やめときなよ。あんたが行っても、どうにもならんでしょう」


 俺は、ニヤリと笑った。


「そうでもないさ。これでも足には自信があってね。あの子を担いで逃げてやるさ」


 店を出て、町を出て、俺は走り続ける。


 いた。

 レニエルだ。


 まずいぞ。

 もう、グレートデーモンに見つかってしまっている。

 それも、三匹もだ。


 奴らは、可愛らしい獲物相手に、嗜虐心たっぷりの笑みを浮かべ、舌なめずりをしている。

 レニエルは、震えあがっていた。

 腰に帯びた剣を抜こうとしているが、手が震えて、柄すら握ることができない。


 その哀れな姿を見て、一匹のグレートデーモンが地獄から響くような声で爆笑した。声の圧力だけで、レニエルの金色の髪はぶわりと乱れ、足はバランスを崩し、その場に倒れ込む。


 彼は今頃、死を覚悟していることだろう。


 俺は、呪文を唱えた。

 晴天に、一瞬で暗雲が広がり、三匹のグレートデーモンへ稲妻が叩きつけられる。たいした魔法ではないが、一応、俺の使える最強の攻撃呪文だ。


 グレートデーモンたちは、目を白黒させてふらついているが、それほどダメージを受けたようには見えない。どうやら、ただ単純に、突然の稲妻にビックリしているだけらしい。


 まったく、化け物じみた耐久力だ(実際に化け物なのだが)。


 まあ、こちらとしても、最初から奴らと戦うつもりなどない。

 レニエルを救い出すための隙を作りたかっただけだ。

 俺は、グレートデーモンたちがふらついている間に、レニエルを抱え上げようとする。


 ぐっ。

 意外と重いな、こいつ。


 ああ、そうか。

 この甲冑のせいだ。

 さっさと脱げ、こんなもん。


 俺は、舌打ちをして甲冑を脱がせようとするが、自分では着たことも外したこともないので、どうやればいいのかよくわからない。


「おい、レニエル! そのクソ重い甲冑、脱げ! 逃げるぞ!」


 レニエルは、どうして俺がここにいるのかよくわかっていないようだったが、素直に頷いた。流石に、三匹のグレートデーモンと実際に出くわしては、『それでも行かねばならない』などと世迷言を述べる気力は残っていないらしい。


 彼がもたもたと甲冑を外していくと、中からは顔と同じく、どう見ても女の子としか思えない、ほっそりとした体が現れた。俺はその痩身を担ぎ上げ、一目散に逃げだす。

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