再びの眠り
ジガルガがふらふらと、眠そうに頭を前後させ、それから一度、がくんと倒れそうになる。おいおい大丈夫かよと思っていると、俺の頭も、一瞬立ちくらみのようになった。
次に気がついた時には、俺の意識は、もともとの俺の体に戻っていた。
『あっ、戻った』
『ふふ……眠るのは、我自身の……体の方が、色々と都合がいいからな……』
『うおぉ……なんか、すっげー体が重い……めちゃくちゃ疲れてる……』
『それはそうだ……ぬしの潜在能力を、限界近くまで使ったからな……思う存分肉体を操縦することができて、まあ、そこそこ……楽しかったぞ……』
『楽しんでもらえて何よりだけど、明日、すっごい筋肉痛になりそうだな……』
『それくらい我慢しろ……それじゃ……我は……もう寝る……ぞ……』
肩を見ると、小さな黒髪ツインテールが、今にも倒れそうにふらふらとしている。俺はその頭を、軽く撫でた。
『今日は、本当にありがとな』
子ども扱いするなと怒られるかと思ったが、ジガルガは案外素直に頷くと、そのまま霧散するように消えてしまった。きっと、本格的な眠りに入ったのだろう。
俺は、久しぶりに(と言っても、ジガルガと入れ替わっていたのは、せいぜい十分ちょっとだが)戻った自分の体、その瞳で、邪鬼眼の術者が隠れていた――あるいは、見えないように姿を変えて、いまだに隠れているかもしれない森に、視線をやる。
ジガルガが眠ってしまった以上、俺たちだけで捜索しても、術者を見つけることはできないだろう。下手に深追いすれば、未知の術法で攻撃され、手ひどいダメージを負ってしまうかもしれない。
このクソ術者のせいで、俺も、イングリッドも大変な目に遭ったのだし、意趣返しをしてやりたい気持ちは大きいが、ここは一旦、引くべきだろう。
何より今日は、気力・体力共に、あまりにも疲れすぎた。
まだ日暮れ前だが、風呂に入って、飯食って、あとはゆっくり、泥のように眠りたい。
術者の目的が分からないのは不気味だが、いずれ正体を突き止めてやる。
俺は、疲労しきってふらつく足で立ち上がりながら、今までジガルガと入れ替わっていたことをレニエルに説明した。
「なるほど。どうりで、いつものナナリーさんと雰囲気が違ってたんですね」
「ああ。でも、あいつのおかげで本当に助かったよ。ジガルガがいなかったら、俺は今頃生きちゃいないだろうし、そこでへたり込んだままのイングリッドも、ずっと狂暴化したままだったかもしれないからな。……おっ、とっと」
話している途中に、くらりと軽いめまいを感じて、俺はレニエルにもたれかかった。やっぱり、相当に疲弊しているらしい。
「うっ……ナナリーさん、結構重たいですね。最近太りました?」
「レディーに体重を聞くんじゃないよ。しかし、参ったな。この調子じゃ、ここから宿に帰るのも難儀しそうだ」
ここって、町のはずれだから、宿のある中心部までは、かなり歩かないといけないんだよな。タルカスは嫌がるだろうが、おんぶでもしてもらうか。
そんなことを考えていると、俺の体が、強い力でひょいと持ち上げられる。
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