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術者の行方

 疲労困憊したジガルガがその場に座り込み、大きく肩を揺すって呼吸を整えていると、広場近くの小さな森の中から、邪鬼眼の術者を探しに行っていたレニエルとタルカスが戻ってきた。


「どうだった? 術者はやっつけられたのか?」


 俺はジガルガの肩の上で飛び跳ね、レニエルに事の顛末を聞き出そうとする。

 しかし、レニエルは俺には目もくれず、倒れたままのイングリッドを、驚いた顔で見つめていた。


 ……なんか、無視されたみたいで感じ悪い。


『あの小童は、ぬしを無視したわけではない。今のぬしは、我の体に入っているのだから、その声が彼に届かぬのは当然のことだ』


 ああ、なるほど。そういうことね。

 俺の代わりに、俺の体に入ったままのジガルガが、レニエルに尋ねる。


「おい、念波を送っていた術者は見つかったか?」


 一瞬、レニエルが固まる。

 恐らく、声のイントネーションが、いつもの俺と違うからだろう。

 しかし、すぐに気を取り直して、レニエルは口を開いた。


「それが、その、念波の発生源はすぐに特定できたのですが。奇妙なことに、そこには誰もいなくて……」

「ふむ。何らかの術を使って、姿をくらませているのだろう。邪鬼眼の術を使えるほどの術者なら、それくらい造作もないことだ」


 結局、術者は見つからなかったのか。


 ……それじゃ、イングリッドが意識を取り戻したとき、また邪鬼眼の念波が送られてきたら、さっきみたいに狂暴になっちまうんじゃないか?


 そんな俺の懸念に、ジガルガは笑って答えた。


「心配するな。二度と術にかからぬよう、今からこの女に『くさび』を打ち込んでやる」

『楔?』

『まあ見ていろ』


 それから、ジガルガはつかつかとイングリッドに歩み寄り、倒れていた彼女の体を抱き起す。


 ぱぁんっ。

 乾いた、激しい音が鳴る。

 ジガルガが、イングリッドの頬を平手で叩いたのだ。


「はぇっ?」


 少々間抜けな声と共に、イングリッドは目を覚まし、二回、三回と、大きく瞬きした。


「目が覚めたか」


 ジガルガは、短くそう言いながら、射るような眼差しを向ける。

 その視線のあまりの鋭さに、イングリッドの気の強そうな瞳が、軽く委縮したようだった。


「うっ……頭が、ふらふらする……私は、お前に突進し、それから……」

「黙れ。何も考えるな。お前はただ、我の言うことに返事だけしていればいい」

「は、はいっ」


 まるで石を投げつけるような、硬く、有無を言わさぬ命令口調に、イングリッドはぴしゃりと背筋を伸ばして頷いた。

 ジガルガは、一切表情を変えることなく、先程までと同じ、鋭く、厳しい調子で話し続ける。


「お前は今まで、悪しき心操術の影響を受けていた。だが、暴れていた間の記憶はあるな?」

「あ、ああ……自分の心と体が、自分のものではないように、怒りが心の中で渦巻いて……」

「返事だけしてればいいと言っただろう! たわけが! 二度言わせるな!」

「は、はいぃ……すいません……」


 凄まじいジガルガの剣幕に、イングリッドは大柄な体を縮こまらせて目を伏せる。おいおい……何もそんなに、キツイ言い方しなくても……


 そんな俺の反応に、ジガルガは俺だけに分かるよう、小さく片目をつぶって微笑を浮かべると、心の中で語りだす。


『我も、好きで怒鳴ってるわけではない。これが、楔を打ち込むための重要なプロセスなのだ。黙って見守っててくれ』

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