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74/266

73%

『随分軽く言うんだな。失敗したら、ぬしは死ぬんだぞ? 特攻するのは我だが、攻撃をはずした場合に反撃を食らうのは、ぬしの体なのだからな』


『そうなんだけどさ。なんとなく、失敗する気、しないんだよね。お前の、凄い身のこなしを見たからかな。絶対成功するって、期待感が凄いのよ』


『勝手に期待してくれるな。もちろん成功させるつもりでやるが、どんなことにも運の要素はつきものだ。どうしたって、外れる時は外れる』


『まあ、そうだろうなあ。あっ、そうだ。俺が死んだら、俺に取りついてるお前も死んじゃうんだっけ?』


『さっきの話の続きになるが、ぬしを生かすために分魂の法で使われている、あの小童の魂に乗り換えれば、生き続けることはできる。もっとも、ぬしとは条件が違うから、あの小童には、我を見ることも、会話することも出来んがな』


 ああ、俺はこいつの体を塵ごと芋と一緒に食っちゃったから、特別なんだっけ。


『でも、とりあえずは、賭けが失敗しても、お前は死なずに済むんだな。良かったよ』


『ふっ……誰にも見られず、会話することもできずして、生きていると言えるかどうかは疑問だがな』


『まあ、大丈夫だよ。たぶんだけど、成功するって』


『ぬしのその、まったく根拠のない励ましが妙に頼もしいよ。それじゃ、やるとするか』


 それ以降、ジガルガは心の中で喋るのを止めた。

 恐ろしく集中しているのが、伝わってくる。


 一度。

 二度。

 三度。

 イングリッドの攻撃をかわす。


 肩が激しく上下し、息が、全力疾走した後のように上がっている。

 もう、スタミナは限界だろう。

 たぶん、次、イングリッドが突っ込んできたときに、カウンターを当てるつもりなのだ。


 来た。

 獣の咆哮と共に、イングリッドが猛然と突進してくる。

 今までで一番のスピード。


 よりによって、こんな時に最高の力を発揮してくれなくてもいいのに。

 こんなんじゃ、的確に顎へ踵を当てるなんて不可能だ。


 その時、頭の中にジガルガの声が響いた。


『我を誰だと思っている。いかに速くとも、奴の動きは単純。当てるのはたやすい。それに、勢いが良い方が、カウンターでこちらの蹴りの威力も増すと言うものよ。喜べ、賭けはぬしの勝ちだ』


 言葉を最後まで聞き終える頃には、すべてが終わっていた。

 俺は、今眼前で起こったことを、ゆっくりと瞬きして、反芻する。

 まさしく、飛燕の早業だった。


 ジガルガが操縦する俺の体――その踵が、美しい弧を描いて、イングリッドの顎先をかすめるように走り抜けた。

 一瞬、蹴りが外れたのかと思ったが、そうではない。

 踵は、イングリッドの顎を斜め上から斜め下に擦るようにし、その反動で、彼女の頭は大きく、そして激しく揺すられた。


 どすんという、音。

 イングリッドが、地面に倒れ伏したのだ。

 両手両足がピクピクと痙攣し、もう立つことはおろか、身じろぎすらできないのは、誰の目にも明らかだった。


『ま、こんなものだな。64%というのは、少々低く見積もりすぎだったかな。奴の動きの単純性を考慮に入れて再計算すると、正しくは73%というところだったか』


 どこか誇らしげに、肩に乗ったままの俺に向かって片目をつぶるジガルガへ、俺は飛びついた。

 何か声をかけてやりたかったが、高揚する心からはまともな言葉が出てこず、俺はただ、歓声を上げていた。

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