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深手

 潰す?

 目玉を?

 突然の物騒な言葉に、俺は上ずった声を(心の中で)上げた。


『ちょ、ちょ、ちょっ、潰すって、目を潰すのか? イングリッドの?』

『当たり前だ。他に誰の目玉がある。ぬしの目を潰してほしいのか?』

『んなわけねーだろ!』

『分かっているよ。冗談を言っただけだ。久方ぶりに実体に移って運動をしているから、少し気分が高揚していてな』


 なんだ、冗談か。

 しかし笑えない冗談だ。

 イングリッドの目を潰すなんて。

 ホッとした俺の心に、ジガルガのきょとんとした声が響く。


『何を言っている。それは冗談ではない。冗談と言ったのは、ぬしの目を潰してほしいのかといった部分だ』

『じゃあまさか、本気でイングリッドの目を潰す気なのか? どうして?』


 そこで一度、ダイナミックなイングリッドのキックが飛んできて、ジガルガはそれをバック転で華麗にかわし、会話を続ける。


『さっき言わなかったか? ぬしとこの女では、オーラに差がありすぎて、いかに我が達人の技を使って攻撃しても、ほとんどダメージなど与えられんのだ。しかし、目玉のような繊細な部分なら話は別だ。だから、そこを攻撃するのだ』


 な、なるほど。

 理屈は通っている……


『い、いや、でも、そんな、こうやってかわし続けていれば、そのうちレニエルたちが邪鬼眼の術者を倒してくれるかもしれないし、そこまでしなくても……』

『無理だ。とてもそれまで待っていられない』

『どうして!?』

『この体……つまり、ぬしの体の、スタミナがそろそろ限界なのだ。今の調子で攻撃をかわし続けられるのは、……そうだな、せいぜい、あと一分程度だろう』


 うっ……

 それは、なんとなく分かっていた。

 超人的なイングリッドの猛攻を、同じく超人的な身のこなしでかわし続けているのだ。当然、動くごとに激しくスタミナを消費していく。


 俺は、体の敏捷性には自信があるが、正直言って持久戦みたいなのは苦手だ。

 ちらりと、華麗な回避を続けているジガルガの体――いや、俺の体を見る。

 呼吸が荒くなり、体中から大量の汗を流し、身を揺するたびに、それが玉の雫となって飛び散った。


 誰がどう見ても、疲れてきている。

 このままじゃ、間違いなく、イングリッドにやられてしまうだろう。

 だから、ジガルガが俺のためを思って、イングリッドに攻撃しようとしているのは分かるのだが……


『その、どうしても、目を潰さないと駄目なのか? 他に、方法はないのか?』


 嫌だった。

 イングリッドに、そんな深手を負わせることが。


 眼球の損傷は、手足の挫傷や骨折などとは、深刻度が全く違う。

 一度視力が失われれば、治癒魔法を使っても元には戻らない。

 逡巡する俺の気持ちが伝わったのか、ジガルガは、呆れたような、叱るような調子で、言う。


『何を甘いことを言っている。やらなければやられるぞ。なぜ躊躇ちゅうちょするのだ? ぬしとこの女、特別な間柄というわけでもあるまい。それどころか、ぬしはこの女に強い反感を持っていただろう』


 決闘の場にやってくる前はね。

 そりゃもう、感じの悪い女だと思ってたよ。

 でも今は違う。

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