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わけあり聖騎士

 グレートデーモンの恐ろしさを、多少誇張して話してやると、レニエルの顔はみるみる青ざめていった。


 この様子じゃ、大した戦闘経験もなさそうである。

 やはり、何としてでも止めなければ。


 その後も、思いつく限りの、魔王城周辺の超強力モンスターの情報を並べ立てると、レニエルはとうとう、恐怖のあまりその場にへたり込んだ。


 勝った!

 ……何に勝ったのかは分からないが、これでもう、魔王討伐などと馬鹿なことは考えないだろう。


 と、思ったのもつかの間、レニエルは子犬のように首をぷるぷると左右に振って、立ち上がる。


 そして、悲痛な面持ちで町の出口――魔王城方面の街道を目指し、歩き出した。

 こいつ、俺の話、ちゃんと聞いてたのか?


 俺は、やれやれと肩をすくめ、「おい」と声をかける。

 レニエルは、瞳の端に涙を溜めながら振り向いた。

 悲壮感漂う決意のこもったその目を見て、俺は何も言えなくなった。


 そこで、やっと気がついた。

 彼は先程、『国王陛下の命を受け』と言っていた。

 どんなに恐ろしくても、どんなに不可能でも、王の命に反することなどできないのだ。


 俺は、レニエルの事情も考えずに、ぺらぺらと恐怖を煽りたてた自分を恥じた。

 黙ったままの俺に、レニエルは軽く会釈すると、弱々しい足取りで先に進んでいく。


 これ以上、何か言えるはずもない。

 俺は、遠ざかっていく彼の小さな背中を、立ち尽くしたまま、見守るしかなかった。


 ……十分程、そうしていただろうか。

 俺は踵を返し、先程の酒場に戻った。


「おや、『従者』のお嬢さん。金髪の『お嬢様』とは一緒じゃないんですか?」


 マスターが、含み笑いしながら声をかけてくる。


「よく言うよ。俺があの子の従者なんかじゃないって、分かってるくせに」

「まあね。それで、何の御用です? 言っておきますが、文無しに出すようなものは何もありませんよ」

「何もいらないよ。腹は膨れてる。……ちょっと、あんたと話をしようと思ってね」

「こう見えて、忙しいんですがね」


 俺は店を見渡す。

 いるのは、マスターと俺だけだ。

 皮肉たっぷりに、言ってやる。


「透明人間の団体客でも来てるのかい?」


 マスターは、笑った。


「くくっ、あんた、面白いね。……それじゃ、他に客が来るまでだよ。何の話がしたいんですか?」

「マスター、リモール王国って知ってる?」

「ええ。もちろん、存じてますよ。というより、知らないやつはいないでしょう」


 俺は、自分の顔を指さして微笑する。


「ところが、ここに一人いるんだ」

「そうですか。あなた、よっぽどの世間知らずなんですね。リモール王国は、強力な聖騎士団を擁する、世界最大の国です」

「へえ。聖騎士って、強いのか?」

「そりゃもう。全員、一騎当千の強者らしいですよ」


 それじゃ、あのレニエルも、実は相当な強者なのだろうか。


「気がついたか? 俺の飯代めしだいを払ってくれたあの子、聖騎士らしいぞ」


 マスターは口を手で押さえ、おかしそうに吹き出した。


「あの、虫一匹殺したこともなさそうなお嬢ちゃんが聖騎士だなんて、あんた、本当に面白い人だ」


「でも、本人が言ってたんだ。自分はリモール王国の聖騎士だって。俺には、あの子がウソつきとは思えない」


「ふむ。確かにあの白銀の甲冑は、高貴な騎士が身にまとうような、素晴らしいものでしたね。……ああ、分かりましたよ。きっと、あのお嬢ちゃんは、『わけあり』聖騎士なのでしょう」


「わけあり?」


「ええ。たまに、いるらしいんですよ。実力はないが、王族に取り入ったり、特殊な事情で聖騎士に抜擢される者が。あの子もその口でしょう」


「ふぅん。あの子は、卑怯な手を使って聖騎士になるようなタイプには見えないから、きっと、『特殊な事情』ってやつがあるんだろうな」

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