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ただの暴力

 少し考えて、一番やりやすそうなのは、近くにいるという邪鬼眼の術者を見つけて、とっちめてやることだ。


 イングリッドも被害者のようだし、なるべくなら彼女を傷つけたくない。

 俺は、レニエルの肩を抱き寄せ、大急ぎで言う。


「レニエル、イングリッドの様子がおかしいのに気づいてるか?」


「は、はい。あれは、人の目つきじゃありません。厄災のイングリッドなどと呼ばれ、困った人だとの評判はありましたが、それでも彼女は聖騎士です。それが、こんな狂暴なオーラを立ち上らせているなんて……」


「単刀直入に言うぞ。こいつは今、何者かに操られてるんだ。そして、その何者かはこの近くにいる。お前もプリーストなら、魔力の波動を追うことができるだろう? いまだにあっちを向いてるタルカスと一緒に、クソ術者を探してやっつけてきてくれ」


「ナナリーさんは?」


「俺はここでイングリッドを引きつけておくよ。どういうわけか、彼女の興味は俺だけみたいだし。心配すんな。俺の逃げ足の速さは知ってるだろう? ステージの上をぐるぐる回ってるから、その隙に術者をやっつけてきてくれ! 大至急な!」


 言い終わると同時に、俺は一気に駆けだした。

 それを追うように、狂獣と化したイングリッドが突進してくる。


 レニエルの行動は、素早かった。

 これ以上ごちゃごちゃとやり取りをすればするほど、俺がイングリッドを引きつけておかなければならない時間が長くなると考えたのだろう。

 手際よくタルカスを引き連れ、レニエルは広場の近くにある小さな森の中に入っていった。


 この付近で、誰かが隠れられそうな場所はあの辺りだけだ。

 頼んだぞ、二人とも。


 びゅんっ。

 何の音だ?

 上を見る。

 かかとだ。

 俺のじゃない。

 ということは、消去法でイングリッドの踵である。


 背筋に、冷や汗が垂れ落ちた。

 イングリッドは、突進したまま飛翔、空中で前転し、俺の頭めがけ、踵落としを放ってきたのだ。


 俺は、大慌てで身を横にずらし、ギリギリでそれをかわす。

 格闘技の技というより、獣の本能に任せたような、恐ろしい攻撃だった。

 頬から、何かがぬらりとしたたっているのが分かった。


 なんだ?

 手で触れてみる。

 それは血だった。


 誰の血?

 俺の血か。


 ゾッとした。

 イングリッドの蹴り――踵は当たっていない。

 間違いなく、かわした。

 それなのに、俺の頬に、長さ5cmほどの裂傷ができていた。


 魔法?

 この女、何か魔法を使ったのか?

 呪文を唱えられるような、理知的な状態には見えないのだが……


『その通り、今のは呪文などという高等なものではない。ただの暴力だ』


 ジガルガの淡々とした声が頭に響く。


『ただの暴力?』


『うむ。ただ、少しばかり強力な暴力だ。奴の蹴りが空気を切り裂き、人工のかまいたちとなってぬしを襲ったのだ』


『嘘だろ? 魔法じゃなく、蹴りの風圧で衝撃波を飛ばすなんて、人間業にんげんわざじゃないぞ』


『うむ。伊達に七聖剣などという、仰々しい称号で呼ばれているわけではないようだ。人並外れた身体能力が、高いオーラでさらに強化されているからこその芸当だろう』

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