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印象が違うのは何故?

 そういえば、俺がなんて言ったとき、こいつが一番怒ったんだっけ。

 ……ああ、そうだ、確か『お前は弱者だ』って言ったら、それまでは一応冷静だったのに、顔つきが変わったんだよな。


 誰しも、心をえぐられるような、絶対に言われたくないことというのはある。

 きっと俺の言葉は、彼女の心を無神経に抉ったのだろう。

 俺は、少し考えて、静かに口を開いた。


「あんたのことを弱者だなんて言って悪かった。あんたは強いよ。肉体的にも、精神的にも」

「……本当に、そう思うか? 心の底から、私を強いと思うか?」


 イングリッドは、疑り深げな眼差しで俺を見下ろし続ける。

 くどいというか、何というか……この女、自分が強いか弱いかということに、異常な執着があるらしい。


 ただでさえ強い聖騎士。

 その中の選りすぐりである七聖剣の一人にまで上り詰めているならば、そんなことにこだわる必要などない気もするが、まあ人のこだわりや願望というものは、他人には分からないものだ。


 俺は、真剣にイングリッドの目を見て、先程と同じ言葉を、もう一度繰り返した。


「あんたは強いよ。肉体的にも、精神的にも。……とても俺のかなう相手じゃない。ギブアップがないのは知っているが、あんたは力の劣る相手が、明らかな降参の意思表示をしているのに、それをいたぶるような卑劣な人間じゃないはずだ。ここらで勘弁してくれ」


 ふぅっと小さなため息が聞こえる。

 イングリッドが、困ったような顔で口から漏らしたものだ。


「勘弁するも何も、貴様がそうして膝をついたままでは、私は自分の信念上、攻撃することはできない。かといって、日が暮れるまでこうしているわけにもいくまい。……仕方ない、勝負無しだ。引き分けということにしておいてやる」


 そう言う彼女の口元には、小さく安堵したような笑みがあった。


 いったい、何に安堵したのだろう。

 これほど実力に差があるのだ。まさか、俺に負けずに済んだことを安堵しているわけではあるまい。


 となると、俺に大怪我をさせずに勝負が終わったことを、ホッとしているのだろうか。


 よく分からない。

 少し、イングリッドについて興味が湧いて来た。

 ちょっとだけ話がしてみたいなと思っていると、頭の中に声が響いてくる。


『なんだ、これで終わりか。つまらん。せっかく、我のデータベースの中に詰め込まれている殺人術を使って、この女を叩き潰してやろうと思っていたのに』


『あのさぁ……ジガルガちゃんさぁ……そういう怖いこと言うのやめてくれる? 話が丸く収まりそうで、いい感じにホッとしてたのに台無しだよ』


『ふん、ぬしに泣きつかれて、全知能と全智識を総動員して奴と戦う方法を考えていた我の苦労を少しは思慮しろ。まったく、無駄に頭を使ったわ。……しかし、あの女。ぬしの知識から覗き見た第一印象とは、随分雰囲気が違うな』


 それは、俺も思っていた。

 単純で短気な所は変わってないが、第一印象より、随分と柔軟で、人情味がある。


 というより、第一印象のままのイングリッドなら、片膝をついた俺の頭を、問答無用で蹴飛ばしそうだ。

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