脱いだ方がいい?
「馬鹿者。人と約束したら、最低でも十五分は余裕をもって約束場所に来るのがマナーだ。私は十五分前に来て、今までずっと準備運動をしていたぞ」
それはまあ、そうかもしれないが、この身勝手な女にマナーについて講釈を垂れられるのは少々納得がいかない。
「だが、逃げずにやって来たことは褒めてやる。……さて、これ以上ペラペラと喋ることもあるまい。決闘を始めるとしよう。立会人は、そこのタルカス殿にしてもらうとするか。頼めるかな? タルカス殿」
イングリッドにそう声をかけられても、タルカスは後ろを向いたままである。
そう、彼はこの広場に到着して、イングリッドの姿を見つけてから、回れ右し、ずっと後ろを向いている。超奥手の彼にとって、ほとんど半裸と言ってもいい今のイングリッドの恰好は刺激的すぎるのだ。
いかれた女だが、顔だけ見れば凛とした美人だし、モデル並みの身長に見合って、なかなかに乳もでかい。これを直視しては、タルカスの目がくらんでしまう。
「どうした、タルカス殿。なぜ後ろを向いている」
「あいつは紳士なんだ。あんたがスケベな恰好してるから、気を使って後ろ向いてんだよ」
俺の言葉に、イングリッドの顔が赤くなる。
半分は羞恥、もう半分は、怒りだろう。
「ス、スケベな格好だと! これは素手での決闘用の正装だ! 動きやすく頑丈で、なおかつ蒸れにくい高性能繊維で作られているんだぞ! それを、貴様、言うに事欠いて……っ!」
プンスカと怒り続けるイングリッドは置いておいて、改めて彼女の姿を観察してみる。確かに、高性能繊維と言うだけあって、体にフィットして動きやすそうだ。
そこで、初めて自分の服装に対して意識が向いた。
今日の装備は(と言っても、いつも同じなのだが)、以前古道具屋で買った、あの『精霊の服』だ。
刃物や魔法に対しても強固な防御力を発揮する逸品なのだが、格闘戦となると、あちこちがヒラヒラしているワンピースなので、掴まれたりして不利になりそうだ。
一応、ジガルガに相談してみる。
『なあ、この服、脱いだ方がいいかな?』
『そうだな。裾を引っ張られて投げられたり、襟を使って絞められたりする可能性がある、脱いでおいた方が賢明だろう』
『よし、では早速……』
スカートの端を掴み、服を脱ぎ捨てようとして、俺は動きを止めた。
ジガルガが、不思議そうに問いかけてくる。
『どうした?』
『……よく考えたら、この下、パンツだけなんだよね。ほら、俺って、開放的なのが好きだから、ブラジャーはつけない主義だし』
『そうなのか。実にどうでもいい情報だ。……で、それがどうしたのだ?』
『それがどうしたのだって……さすがの俺も、パンツだけのトップレスになって戦うのは恥ずかしいんだけど』
もじもじとした俺の態度に、ジガルガが呆れたような溜息を吐く。
『くだらん。そんなこと言っている場合か。まあ、どうしても下着だけで戦うのが嫌なら、別にそのままでも構わんぞ。勝利の可能性が二割ほど減るがな』




