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時は来た

「ふっ……変わったやつだよ、まったく。おっと、そういえば、ぬしの問いにまだ答えていなかったな」


「俺の問い? なんだっけ?」


「『犬のように腹を見せて謝罪すれば、あの女が許してくれるか』と、聞いていたではないか」


「ああ、そういやそうだった。で、どうなの?」


「簡潔に言おう。答えはNOだ」


 バッサリ言われても、別にショックではなかった。

 まあそうだろうなとは思ってたし。


「あー、やっぱり……」


「奴は頭が悪いのにプライドのかたまりという、非常に面倒な種類の人間だ。ぬしと戦い、徹底的に叩きのめすまで、一度振り上げたこぶしを下ろすことはないだろう」


「そんじゃ、どうにかして逃げる方法を考えるしかないかー……」


「それも無理だろう。奴は魔装『コユリエ』のオーラ探知能力を使って、ぬしをどこまでも追ってくる」


 そうでした。

 まったく、やっかいな魔装が、やっかいな奴の手に渡っちまってるもんだ。

 俺は、深く嘆息しながら言った。


「はぁ、万事休すか」


「いや、そうでもない。ここはシンプルに、奴を叩きのめしてしまえばいいだけだ」


「おいおい、それができそうにないから困ってるんじゃん。お前も『ぬしの勝ち目は、万に一つもない』って言ってただろ?」


「ぬしだけならな。我が力を貸せば、あんな小娘。敵ではない」


「どゆこと?」


 意味がよく分からない俺に、ジガルガはふふんと笑い、胸を張って答えた。


「なに、簡単なことよ。決闘の間だけでいい。ぬしの体を我に貸せ」



 そして、約束の時間は来た。


 離れていたレニエル・タルカスと合流し、俺たちは決闘の場である町はずれの広場へと向かう。昼下がりの通りでは子供たちが思い思いの遊びに興じており、とてものどかな風景だ。


 これから命がけのデスマッチに臨むのでなければ、俺も穏やかな気持ちでそれを眺めることができるのだが……


「やはり、危険すぎる。やめておくべきだ」


 歩みを続けながら、タルカスが首を捻って明後日の方向に向かって言う。

 俺に直接話しかけると、緊張してカタコトになってしまうからだろう。


 雲突くような大男が、首を大きくひねって、誰もいない空間に話しかける姿は、喜劇じみたユーモラスなものだったが、その声色から、彼が真剣に俺の身を案じてくれていることが良く分かった。


「俺も、やめられるものならやめたいけどね。あの女はそれを許さないだろうし、まあ、やるしかないよ」


 半分自棄になったような笑みを浮かべながら俺が笑うと、それまで無言だったレニエルが口を開く。


「……こうなったら、僕の身分を明かしてしまいましょうか。そうすれば、彼女も聖騎士の一人である以上、王に対する報告義務がありますから、決闘どころではなくなるはずです」

「おいおいおい、そんなことしたら、お前がどうなるか分かんないだろ。やめとけって」

「しかし、このままでは……」


 心配そうなレニエルを元気づけるように、俺は肩に乗ったままのジガルガを指さして笑う。


「大丈夫だって、俺には頼もしい参謀がついてるから」

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