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決闘

 あっ、そうだ。

 いいこと思いついた。

 戦うだけ戦って、怪我する前に降参しちまえばいいんだ。


 そんな俺の考えを見透かしたように、イングリッドは静かに言葉を続ける。


「決闘は、互いに素手でおこなう。ギブアップはない。どちらかが、戦闘不能になるまでの、デスマッチだ」


 デスマッチって……

 やっぱりあんたの一族おかしいよ……


 どうやら、決闘を始めてしまうと、最低でも大怪我をするまではやめられないようだ。俺は、『なんとかしてくれ』と助けを乞うように、タルカスを見……ようとして、ギリギリで踏みとどまった。


 騒動の発端は、タルカスが俺に救いを求めてきたからではあるが、イングリッドとの口喧嘩をこじらせたのは完全に俺の責任だ。それが、ちょいと旗色が悪くなってきたからって、無様に泣きつくなんて、できるはずがない。


 どうにかして、自分でこのピンチを切り抜けないと。


 そこで、ピーンときた。

 そうだよ。

 逃げちゃえばいいんだ。


 俺は、何をマジになっていたんだろう。

 こんな狂暴女騎士とまともにやり合う必要なんてない。

 さっき、タルカスに言った通り、俺もどこか安全なところに隠れて、イングリッドが諦めていずこかへ行ってしまうまで身を潜めてりゃいいんだ。


 聖騎士が普段どんな仕事をしているのかは知らないが、まさか、いつまでもこの町に逗留しっぱなしってわけにはいかないはずだ。


 うーん、グッドアイディア。

 ただ、この作戦を決行するには、とりあえずこの場で戦うことは避けなければいけない。俺は、なるべく自然な調子で、イングリッドに言う。


「わかった、その決闘、受けよう」

「ナナリーさん!? いけません、彼女は……」

「滅茶苦茶強いっていうんだろ? しかし、決闘を挑まれては、断れない。正々堂々勝負するだけだ」


 俺が決闘を受けたことで、それまで成り行きを見守っていたレニエルが、血相を変える。


 心配すんなって。

『正々堂々勝負する』気なんて、さらさらないから。

 しかし、俺の一見潔い態度に、イングリッドはなかなか気を良くしたようだった。


「ほぉ、ただの口やかましい小娘かと思っていたが、思ったより往生際が良いな。褒めてやる」

「そりゃどうも。そんじゃ、決闘の時間と場所についてだけど、今から半日後、町はずれの高台にある広場でどうだ? あそこなら、やじ馬が集まってくる心配もないからな」

「いいだろう」


 よし。

 ごく自然な流れで、今この場で決闘することを避けることができた。

 我ながらファインプレーだ。


 ふふふ、馬鹿な女騎士め。

 半日後に約束の場所に行っても、そこには誰も来やしねーよ。


 半日もあれば、俺はレニエルを連れて、どこかに雲隠れできる。

 案外素直に俺の言うことを信じたイングリッドを騙すことに、ほんのちょっぴり罪悪感を覚えるが、まあ、この女も随分と自分勝手な理屈で行動しているのだ、これくらい、神様も許してくれるだろう。

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