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口喧嘩

 その人を馬鹿にした態度に、俺はますますいきり立つ。


「ふん、小娘はお互い様だろ。あんたも、そんなに歳がいってるようにゃ見えないぜ。せいぜい十代後半だろ? それが、いきがって武人気取ってんじゃねーよ」

「なんだと。口の利き方を知らん娘だな。私が弱者の相手をしない主義で助かったな。そうでなければ、この場で切り捨ててやるところだぞ」


 次第に熱を増していく俺とイングリッドのやり取りに、タルカスとレニエルはハラハラしながらも何も言えず、成り行きを見守っている。


 口喧嘩というやつは、最初は小さな怒りだったものが、相手との言葉の応酬でヒートアップしていき、しまいには、自分でも思ってもいなかったような過激なことを言ってしまうことがある。


 今の俺が、まさにそれだった。


「何が弱者だ。年寄りを怪我させて喜んでるようなお前こそ、本当の弱者だ。酒さえ入ってなきゃ、あのゲインがお前なんかに負けるもんかよ」

「……小娘、今、私のことを『弱者』と言ったか?」


 それまで、一応は冷静を保っていたイングリッドの顔が、ぐっと厳しいものになった。


 俺の中の理性が、これ以上トラブルを大きくするのはまずいかなと思ったが、怒りに任せた感情はもう止まらない。


 イングリッドを煽るように、俺は薄ら笑いを浮かべて挑発する。


「ああ、言ったね。聞こえなかったなら、もう一回言ってやってもいいけど?」


 その言葉に、イングリッドが激昂して言い返してくるのを待っていたが、俺の予想とは反対に、彼女はむき出しにしていた大剣を鞘に納め、自分を落ち着かせるように一度深呼吸をし、それから努めて静かな声を出す。


「私は、リモール王国の聖騎士、イングリッド・バルガード。貴様の名は?」


 俺の態度に、そうとう頭にきているのだろうに、きちんと自分の名を先に述べる真摯さに敬意を払って、こちらも自己紹介をしてやる。


「俺はナナリー。あんたがご執心のタルカスと同じギルドで、冒険者をしている」

「そうか。貴様に、正式に決闘を申し込む」


 んっ?

 決闘?

 俺と?


 そこで、沸いたヤカンのように熱くなっていた俺の頭は、急激に冷静さを取り戻していった。もしかしてこれは、大変よろしくないことになってしまったのでは……


「あ、あのぉ、イングリッドさん……、弱者とは戦わない主義じゃありませんでしたっけ?」


 自分でも、ビックリするような情けない声が喉から出た。

 そりゃそうだ。

 キレてた状態ならともかく、冷静になった今、こんな怪力女と決闘するなんて、冗談じゃない。


 イングリッドは、顔つきこそ先程より落ち着いているものの、深い怒りを込めた瞳で、俺を見据えている。


「貴様は、私を侮辱した。侮辱に対しては、決闘で応えるのが、我が一族の伝統だ」


『なにその伝統……あんたの一族、馬鹿じゃねーの』

 という言葉を、ぐっと喉の奥に押し込んでこらえる。

 これ以上この女を怒らせると、この場で斬りかかってきそうだ。


 はてさて、どうしたものか。

 イングリッドの剣幕からして、決闘を拒否することはできそうもない。

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