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いらないこ

 ジガルガは静かに俺の話に耳を傾け、全て聞き終わると、へなへなとベッドに尻もちをついた。


「つまり、創造主様の子孫が、我を不要とし、他人に譲渡した挙句、この身の処分まで望んだというのか……?」


 涙こそ流さなかったものの、紫色の大きな瞳は潤み、深い悲しみをこらえているのが、ありありと分かった。


 そのあまりにも哀れな様子に、彼女が封じられていた魔導書を焚き火に放り込んだ張本人である俺としては、少々罪悪感が湧き、それをごまかすように、努めて明るく言う。


「ま、まあ、そんなに気を落とすなよ。なんでか分かんないけど、お前は生きてるみたいだし、これから自由に生きるなり、人類を滅ぼすなりすればいいじゃん」

「生きている……か」


 ジガルガは、自嘲的な笑みを浮かべ、俺を見た。


「そもそも我は思念だけの存在。生きているも死んでいるもないのだよ。肉体であるゼルベリオスと一緒になることで、初めて実体化することができるのだ。我だけではどうすることもできん」


「ふぅん。もしかして、お前は思念体だから、封印されていた本が燃やされても、消えなかったのかな」


「まあ、そういうことだろうな。しかしゼルベリオスがいなくては、我には何の価値もない。……誰も、我に触れることすらできん」


 寂しげに俯くジガルガに、俺は指を伸ばしてみる。

 本当に触れないかどうか、一応試してみたかった。

 彼女の小さな顔に人差し指が触れるか触れないかというところで、ジガルガは呆れたように言う


「無駄だ。貴様の指は、我の頭をすり抜けるだけ……ふぎゃっ」


 どうしてジガルガの言葉が途中で途切れたのかと言うと、俺の指が彼女の顔面を直撃したからだ。


「あっ、ごめん。けっこう強く当たっちゃった。でも、『我に触れることすらできん』って言うから、大丈夫かと思って……」


 俺の謝罪など耳に入っていない様子で、ジガルガは今さっき自分を突っついた指と、俺の顔を見比べる。

 そして、興奮した様子で叫んだ。


「馬鹿な! 貴様、何故我に触れることができる!?」

「ちょっ、あんまり叫ぶなよ。レニエルが起きちゃうだろ」

「ええい、質問に答えぬか。何故我に触れるのだ!?」

「何故って言われても……」


 俺にも全く分からない。


 両方の掌で水をすくうような形を作って自分の手を観察していると、ジガルガがその上にぴょんと飛び乗った。だいたいハムスター一匹分くらいの重さが、手にかかる。


「見た目通り、軽いな、お前」

「むぅ、重さまで感じるのか。不思議だな。思念体である我には、そもそも体重など存在しないというのに」


 それから、ジガルガは俺の手のひらの上に胡坐をかいて、考え込んでしまった。

 一分ほど経った頃だろうか、思案はまとまり、結論に達したらしく、俺に問いかけてくる。


「貴様、我が封じられていた魔導書を燃やした時、塵芥じんかいをその身に取り込んだりしたか?」

「塵芥? もっとわかりやすい言葉で言ってよ」

「ええい、無知な奴め。焚き火のちりや灰を食べたりはしなかったかと聞いているのだ」

「そんなの食うわけないじゃん!」


 完全否定してから、ハッと気がついた。

 焼き芋を作ったとき、そりゃ多少は、焚き火のちりとかがくっついてるのが普通だから、それを芋と一緒に食べてしまってもおかしくはない。

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