三つの選択肢
どうしよう。
しばし考える。
よし。
俺の取り得る選択肢は、大きく分けて三つだ。
まず一つ目。
何も聞かなかったことにして、このまま寝てしまう。
……いやいやいやいや、そりゃ無理だろ。
後ろに幽霊がいるのに、気にしないで寝れるほど、さすがの俺も図太くはない。
二つ目。
大声で叫んでレニエルを起こし、いかにもプリーストっぽい神聖な魔法で幽霊をなんとかしてもらう。
……これもなあ、ちょっとなあ。
除霊っていったらプリーストの出番だけど、女みたいに喚いて(女なんだけど)寝ているレニエルを起こして助けてもらうのも、なんかカッコ悪いよなあ。
三つ目。
振り返って幽霊と目があったりしたら怖いので、このまま背後を魔法で攻撃する。
……グッドアイディア!
声で大体の位置はわかるし、これだけ近くにいれば、幽霊を直接見なくても、100%命中する。
よし、善は急げだ。今すぐやろう。
俺は小声で、閃光系の呪文の詠唱を始めた。
その背に、三度不気味な声が掛けられる。
「人類滅ぼしたいいぃぃ~……」
「やかましい。今から俺がお前を滅ぼしてやる」
あっ、やべっ。
鬱陶しいから、つい呪文の詠唱をやめて、文句を言ってしまった。
こういうのって、幽霊と口をきくと、大体ろくなことにならないのが怪談話のセオリーだよな。
静かな室内に、しばしの沈黙が流れる。
気を取り直して、もう一度呪文の詠唱を始めようと唇を開きかけた時、おずおずとした声で、沈黙は破られた。
「そなた……我の声が聞こえるのか……?」
うわあぁぁ……幽霊が話しかけてきた。
勘弁してよもう。
そんなふうに聞かれたら、攻撃しづらいじゃん。
問答無用でやっつけちまおうと思ってたのに……
「我と会話ができるのか……? 答えよ……」
うぅ……まだ話しかけてくる。
なんだか、さっきよりも切実な感じだ。
どうしたものか、少しだけ迷ったが、俺は結局、幽霊とコンタクトしてみることにした。
「はぁ、まあ、一応……」
「ほぉ、それはよい。振り返って、こちらに面を見せよ」
なんだこいつ、なんか偉そうだな……
しかし、今更攻撃するのもなんなので、ゆっくりと身を起こし、振り返り始める。
あーあ、結局、幽霊のご尊顔と対面することになっちまったな。
まあ、俺も元魔物だ。
モンスターは見慣れてる。
青白い亡者だろうが、ガイコツだろうが、なんでも来いだ。
あっ、でもゾンビ系を近くで見るのは嫌だな。
そんなことを思っているうちに、振り返り終わった。
目の前にいたのは、俺の手のひらとだいたい同じくらいの、小さな女の子だった。
「……妖精?」
自然と、彼女の第一印象が、口から出た。
長い黒髪をツインテールに結わえ、奇妙な衣装を着たその姿は、過去に何度か見たことのある、小さな妖精族を思わせる外見だったからだ。
「我は妖精ではない。……まあ、創造主様は、我の外見を作る際の参考に、妖精を用いたそうだから、ぬしがそう思うのも無理はないがの」
「じゃあきみ、いったいなんなの?」
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