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美少女? 美少年?

「それは失礼しました。いやね、最近、多いんですよ。ああいう食い逃げが。だから、非情に見えるかもしれませんが、厳しく対応しなきゃならんのですよ。こちらも、命がけで商売してるんでね」

「命がけ?」


 俺が聞き返すと、マスターは小さく頷いた。


「考えてもみてください。ここは、世界のあらゆる町村の中で、最も魔王城に近いんです。町を出て少し行けば、最上級の魔物たちがわんさかいる。食べ物や酒の仕入れ一つとっても、命がけですよ」


「なるほど」


「俺は、これでも元冒険者でしてね。魔王を倒そうとやって来る若い冒険者たちをねぎらうつもりで、商売をしてるんです。食べ物も、酒も、良心的な値段でしょう?」


「そうですね。それに、味も良かったですよ。あのパンなんか、バターの風味がよくきいてて、絶品でした」


「はは、喜んでもらえて何よりです。ところで、お客さん。ちょっとお聞きしたいことがあるんですが」


「なんです?」


「あなた、お金持ってます?」


 そこそこ和やかだった空気が、一瞬で凍り付いた。

 恐らく、パンとスープを食べ終わったのに、会計もせず、追加で何も頼まない俺を怪しんで、マスターは話しかけてきたのだ。


 彼の右手は、腰のホルスターに回されている。

 そこでは、先程食い逃げ男を一発で仕留めた銃が、鈍い輝きを放っていた。


 こりゃもう、やるしかないか。

 逃げるか、それとも先制攻撃で魔法を食らわせるか。

 考えあぐねていると、背後から雲雀のように可愛らしい声が聞こえた。


「失礼、この者は僕の従者です。彼女の飲食費は僕が払いますから、心配いりませんよ」


 俺は、振り返る。

 声の主は、白銀の甲冑に身を包んだ、小柄な少女だった。

 肩まで伸びた金色のショートヘアに、意志の強そうな青い瞳。

 見るからに高貴な身なりである。


 言うまでもないが、俺は彼女の従者ではない。


 しかし、察するに、どうやら俺の窮状を見かねて、助け舟を出してくれているらしい。俺は、素直に話を合わせることにした。


「そ、そうなんですよ。お嬢様、食事も終わったことですし、そろそろ出ましょうか」


 へりくだって『お嬢様』と呼ぶと、少女の顔が一瞬不快そうに歪むが、彼女は黙って自分の飲食費と、俺の分の代金を払い、俺と共に酒場を出た。マスターは、俺が少女の従者でないことは分かっていたようだが、金さえもらえれば文句はないらしく、特に追及はしてこなかった。


 助かった。

 人々が行きかう雑踏の中、俺は改めて少女に礼を言った。


「いやあ、助かったよ、お嬢ちゃん。正直言って、生きた心地がしなかったんだ。見ただろ? あのマスターのおっかない顔。たぶん、逃げても戦っても殺されてたね。いや、くわばらくわばら」


 少女は、またしても不快そうに眉を顰める。

 俺、何かまずいことを言っただろうか。

 おずおずと、尋ねてみる。


「あの、ごめん。なんだかよく分からないけど、怒ってる?」

「あなたに、言っておくことがあります」

「あっ、はい」

「僕は男です。『お嬢ちゃん』なんて、二度と呼ばないでください」


 えぇ~……

 嘘だろ……?

 どこからどう見ても女の子なんだけどな。


 まあ、窮地から救ってくれた恩人であるし、これ以上性別のことに言及して彼女――いや、彼の機嫌を損ねることもないだろう。俺は、素直に謝罪した。


「こりゃ失礼した。悪気はなかったんだ」


「分かってもらえれば、それでいいです。女性と間違われるのは、慣れてますから」


「……だろうね、その容姿じゃ」


「何か言いました?」


「いや何も。それより、どうして俺を助けてくれたの?」


「だってあなた、お金を持っていないんでしょう? 顔色を見てすぐにわかりましたよ。あのままじゃ、あなたも先程の男性のように、酒場の店主に殺されてしまうじゃないですか。とても、見殺しにはできませんよ」

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