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精霊の服

「そいつは、どこか別の世界の、精霊たちが着ていたと言われる服さ……あんたの要望通り、軽くて頑丈、魔法にも強く、スカートだから、当然足さばきも邪魔しない……見た目だって、まあカッコイイとは少し違うが、流麗で美しいデザインだろう……?」

「うーん、できればズボンの方がいいけど、まあいいや。性能がいいなら文句は言わないよ。んで、気になるお値段は?」


 黒ローブは、ゆらゆらと左右にはためいた。


「残念ながら、先程の『宵闇の鎧』と同じ程度の額だ……普通なら、あんたの残り所持金じゃ買えないね……」


 俺は、不満を隠すことなく、唇を尖らせる。


「えぇ~……、さっき、あとこれだけの手持ちで買えるやつって言ったじゃん……」


「話は最後まで聞きな……『普通なら』って言っただろう。売ってやるよ……今回は、あんたたちの残りの所持金全部と引き換えでね……ふふ……大サービスだ……」


「マジで!? やったね! ……と素直に喜びたいところだが、商売人は、意味もなくそんな大幅値引きはしないよな。何か、裏があるのか?」


「なあに、裏ってほどじゃない……値引きをする代わりに、一つ頼まれごとを引き受けてほしいだけさ……あんたたち、誰の紹介でうちの店に来たのかは知らないが、その風貌からして、冒険者だろう……?」


「まあね。でも、まだ駆け出しだから、あんまり大変そうな『頼まれごと』なら、俺たちには無理だよ」


「大したことじゃないよ……この本をね……処分してほしいだけさ……」


 言葉が終わるのと同時に、黒ローブの中から、見るからに古そうな本が現れた。

 そいつは、ふわふわと宙を舞い、俺の手の中に着地する。

 途端に、背筋を妙な悪寒が走り抜けた。


「なんだ、この本? 触った途端に、背中がぞわぞわ~ってなったんだけど」

「おっと、気をつけな……開いちゃ駄目だよ……絶対にね……」


 開こうにも、本の小口から表紙に至るまで、奇妙な文字が刻まれたおふだが厳重に貼られており、タイトルすらもわからない。

 さほど読書はしない俺だが、中身が少々気になって、尋ねてみる。


「すっごい古い本だけど、古代の魔導書か何か? なんか、ギッチギチにお札が巻かれてるし、凶悪な魔物でも封印されてたりして」


 黒ローブが、黙り込んだ。

 あてずっぽうで言ったが、もしかして大当たりだったのだろうか。


「おいおい、勘弁してよ。魔物が封印された本の処分の仕方なんて、分かんないよ」


 慌てた様子の俺を諭すように、黒ローブの落ち着いた声が響く。


「大丈夫だよ……そんなに難しい方法じゃない……焚き火を起こして、焼いちまえばいいだけさ……」

「あの……そんなに簡単に処分できるなら、どうしてご自分でやらないのですか?」


 それまで黙っていたレニエルが、ごもっともなことを聞いた。


 そうだ。

 大事な商品を値引きしてまで、こんなことを俺たちに頼むのはかなり怪しい。

 俺とレニエルの訝し気な視線に、黒ローブはため息をつき、静かに語りだした。


「私だって、できるなら自分でやるさ……でも無理なんだよ……。そいつにはね、私の祖先である本の作成者が、特殊な条件で発動する自己防護魔法をかけていてね……」

「特殊な条件で発動する自己防護魔法? なんだそりゃ?」

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