廃教会へ
「昨日が蝙蝠人間退治で、今日は邪神退治かよ。いきなりハードル上がりすぎだろ」
町から少し離れた森の中にある、荒れ放題の古びた教会の前。
俺は、今にも崩れそうなボロいベンチに腰掛け、腕組みしながらレニエルに言う。
「でも、大丈夫ですよ、たぶん。低級の邪神は、上級モンスターと同程度の力しかないらしいですから」
レニエルは、剣を抜き、素振りをしている。
「それって、上級モンスターと同じくらいは強いってことじゃん。油断できないよ。……もうすぐ、出てくるんだよな。緊張してきた」
今、ゲインとタルカスは、廃教会の中に入り、そこに居着いている低級邪神を、太陽の下に追い出そうとしている。
なんでも、邪神というやつは、暗くジメジメしたところが好きらしく、強力な日の光にさらされるとパワーダウンするという。
そこで、俺とレニエルが、廃教会前の広場で待ち伏せし、飛び出てきた邪神に対して、俺は熱光の攻撃呪文を、レニエルは光輝の神聖魔法を使い、太陽の光とミックスさせて、一気に消滅させてやろうという作戦なのだ。
「なあ、お前、素振りとかやってていいの? 今まさに、邪神が飛び出てくるんだぞ?」
「何かしてた方が、落ち着くんです。じっと待ち構えてると、硬くなって、いざという時に行動できない気がして……」
「あー、なるほどね。俺も何かしてようかな。そうだ、服のほつれでも直そう」
俺は、手荷物からソーイングセットを取り出し、スカートを膝のあたりまでめくると、これまでの旅やら昨日の冒険やらでほつれてしまった部分を、直していく。
「へえ、ナナリーさん、器用なんですね。本職のお針子さんみたいですよ」
褒められ、休まずに手を動かしつつも、俺はフフンとドヤ顔になる。
「自分でも、思った以上にうまくできて、驚いてるよ。もしかして、前世で裁縫が趣味だったのかもね」
「前世?」
「いや、こっちの話さ。それにしても、冒険者をやるなら、俺もお前も、もう少し頑丈な服や装備を買った方がいいかもしれないな」
「そうですね。一生懸命依頼をこなしてお金を溜めて、何か良い装備品を購入しましょう。……ちょっと、ナナリーさん、スカート、捲り上げすぎですよ。はしたない」
「だって、こうしないと、先の方、上手く縫えないんだもん」
「なら、あっちの方を向いてやってください。下着が見えてしまいます」
「別に見えてもいいのに……」
面倒くさいが、まあ、ここは素直に従うとしよう。
レニエルに背を向け、荒れたスカートの先端をチクチクと補修する。
できた。
我ながら見事な出来栄えだ。
一仕事終えた達成感で、ここに何しに来たのかを忘れそうになっていた頃に、廃教会から声が響いた。
「お嬢ちゃんたち! 出番じゃ! そっちに行ったぞい!」
よしきた。
待ちくたびれたぜ。
俺とレニエルは頷き合い、廃教会の入り口を見張って、構えを取る。
べちゃ、びちゃ、ぐちゃ。
嫌な水音と共に、小山のようなヘドロの塊が現れた。
中央には、人間の眼球に似たものがある。
こいつが低級邪神か。
なるほど、邪悪な感じがぷんぷんしやがる。




