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ちょっとした挨拶

「なるほどね。……今、ふと思ったんだけどさ。世の中の半分は女なわけじゃん? だから、依頼先で女の人と話さなきゃいけない時とかもあるでしょ? タルカスさんは、そういう時、どうしてるんだ?」


 純粋な疑問だった。

 まさか、女と話す専用の通訳を連れて行くわけでもあるまい。


「そういう時は、ワシがなんとかしておるのじゃよ」


 背後から、老人の声がした。

 それと同時に、ぺろりと尻を撫でられた。


「ぅひゃっ!?」


 俺は、思わず女の(まあ、実際に女なんだけど……)ような悲鳴を上げてしまう。

 背筋にぞわぞわと嫌な痺れが走る、この感覚。

 この前、酒場で酔っぱらいどもにもさんざんやられたが、何度されてもヤな感じだ。


 俺は勢いよく振り返り、俺のケツを撫でたであろう老人に向かって、蹴りをぶち込もうとした。

 敬老精神はそれなりに持ち合わせているが、いきなり人の尻を触るようなジジイに遠慮はいらない。

 しかし、俺の蹴りは大きく空振りした。


「あ、あれ? どこ行った?」


 背後にいたはずの老人は、影も形もない。

 タルカスの、諫めるような声が聞こえる。


「ゲインさん、戯れはやめてください。彼女に失礼でしょう」


 声の方に目をやると、タルカスの隣で、拳法服に身を包んだ小柄な老人――ゲインが軽薄そうな笑いを浮かべていた。


 こいつか、俺のケツを触ったのは。

 忌々しげに睨むと、ゲインは手招きするように軽く掌を振って、悪びれた様子もなく微笑んだ。


「いやいや、お嬢ちゃん、そんなに睨まんでくれ。あれくらい、ちょっとした挨拶じゃろうが」

「そうかい。それじゃ、俺からの『ちょっとした挨拶』も受け取ってくれよ」


 そう言って、今度は呪文を唱える。

 別に大怪我させようってわけじゃない。

 軽い電撃でお仕置きしてやるだけだ。


 目の前に、小さな稲光が走る。

 さすがにこれはかわせまい。


 思った通り。

 ゲインは、かわせなかった。

 いや、違う。

 かわさなかったのだ。


 奴は、その場に立ったまま、両方の腕を弧を描くように回し、俺の発した雷光をいなしてしまった。


「回し受け……なんと見事な……」


 魔法を素手でさばくという離れ業に、タルカスが感嘆の声を上げる。

 確かに凄いことは凄いが、いったいなんなんだこのジジイ。

 どうやら、タルカスの知り合いであるようなので、俺は抗議するようなジト目を彼に向けた。


 タルカスは、軽く頭を下げると、マチュアに耳打ちする。

 ああもう、面倒だな。

 なんで言葉が通じるもの同士で、いちいち間に通訳が必要なんだよ。


「『仲間の非礼を許してくれ。彼はゲイン、私のパートナーだ』とのことです。……ええっとですね、ゲインさんは、タルカスさんとコンビを組んでいる、凄腕の冒険者にして武道家です。見ての通り、クソスケベ爺さんです」


「マチュアちゃん、きっついのぉ~。最近尻を撫でてやっておらんから、機嫌を壊しておるのか?」


「うふふ、馬鹿言わないでください♪ 今度私のお尻を触ったら、うちのギルドから除名にしますよ♪」


「むっ……それは困るのぅ……これまでも、セクハラ容疑で色んな所をクビにされておるから、ここを追い出されては、もう登録できるギルドがなくなってしまうわ。最近の世の中は年寄りに厳しいのぅ……」


「完全に自業自得じゃねーか……」


 俺は呆れたように言った。

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